第9話「独占欲って甘い香り」
――視点:ルカ
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リゼリア様の指先が、僕の鎖骨をなぞる。
その仕草は淡々としているのに、指先には不思議な熱がこもっていた。
――まるで、焼印のように。
「覚えておきなさい、ルカ。あなたのすべては――わたくしのものよ」
そう言われた瞬間、心臓が跳ねた。
誓いや忠誠、そんなものとはまったく別の――もっと獣じみた本能が、僕の中で疼き出す。
「ねぇ、リゼリア様」
「なに?」
「……今、すごくいい匂いがしてる」
「香かしら。新しいものにしたの」
「ううん、違う。独占欲の香り。魔女が本気で“私のもの”って言った時にだけ、放つ匂い。僕、ちゃんと覚えてるよ」
彼女がわずかに肩をすくめた。珍しく、動揺してる。
その表情が、また甘い。
「リゼリア様、僕のこと、独占したいの?」
「当然でしょ」
「じゃあ……もっと、僕に印をつけてよ」
「印?」
「他の誰にも触らせないように。誰が見ても、“これは魔女の獣だ”って、わかるように」
リゼリア様の瞳がすうっと細まる。
次の瞬間、彼女は僕の首元に口づけた。吸いつくような艶やかな音を立てて。
「っ……!」
熱い。痺れる。何より、ゾクゾクする。
皮膚の奥にまで染み込んで、身体の芯まで魔女色に染め上げられるような――そんな錯覚にさえ陥る。
彼女がゆっくりと唇を離すと、そこにはくっきりと、赤い跡が残っていた。
「これで、いい?」
「……うん、最高」
首元をなぞりながら、僕は微笑んだ。
この紅い印は、魔女のものだと証明する“呪印”であり、“愛情”そのもの。
そしてそれは、誰よりも甘く、誰よりも狂おしい。
「リゼリア様」
「……なに?」
「僕、もっと染まりたい。あなたに。爪の先まで、魂の奥まで、全部」
「……ほんと、厄介な子」
呆れたように笑うリゼリア様の声も、愛しかった。
独占欲の香りが、今夜も甘く、僕を包み込む。