表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

第0話「月下に拾われた少年」



――視点:ルカ



 僕が“彼女”に出会ったのは、満月の夜だった。


 飢えと寒さに耐えかねて、街の外れ、森の中を彷徨っていたとき。

 崩れかけた礼拝堂の廃墟で、とうに凍えたような身体を丸めていた――あの夜。


 


 「あなた、何者?」


 その声に、意識が引き戻された。


 足音もなく現れたその人影は、まるで夜の化身のようだった。

 漆黒のマントに、銀の髪。

 深紅の瞳が、まるで魂の奥底を見透かすように僕を覗き込んでいた。


 


 「……人間、です。死に損ないの」


 「ふうん。どうやら、魔力を少し感じるけれど?」


 


 その瞬間、僕の鼓動が跳ねた。

 誰も知らないはずの“それ”を、あっさりと見抜いた女――


 この人は、普通じゃない。


 魔女だ。おそらく、相当な力を持った。


 


 「なら……いっそ、僕を拾ってくれませんか」


 「拾って、どうするの?」


 「僕は……あなたに使われるなら、それでいい。食事と寝床さえ与えてくれるなら、命でも、魔力でも、何でも差し出します」


 


 笑われるかと思った。

 けれど、彼女は静かに僕を見つめたまま、言った。


 


 「……面白い子ね。まるで猫。媚びて、擦り寄って、でも牙を隠してる」


 「そうかもしれません」


 「いいわ。気に入った。あなたをわたくしの従者にしてあげる」


 


 その言葉が、僕の世界を変えた。


 それまでの凍えるような日々に、終わりが訪れた。


 命を懸けるに値する誰か。

 その腕の中に、僕は“存在を許される場所”を見つけた。


 


 魔女リゼリア・ローゼンブルク。

 この人の傍でなら、命なんて惜しくないと思った。


 いや、命なんて。

 心も身体も、悦びも快楽も――全部、彼女のものになりたいと願った。


 


 「名前は?」


 「ルカ、です」


 「今日からあなたは、わたくしの“ルカ”。わたくしに仕えることだけが、あなたの存在する意味」


 「……はい。喜んで、リゼリア様」


 


 月の光が、彼女の背に降りていた。

 まるで、夜そのものが祝福するかのように。


 こうして僕は、魔女の屋敷に“拾われた”。


 それがすべての始まり――甘く、淫らで、決して逃れられない運命の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ