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100ものアレルギーを持つ女   作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第1章:高校編
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第六話「秘密を抱えて、二人で歩む学園祭」


夏の終わり、学園祭の準備が校内を騒がせていた。

色とりどりの装飾、汗と笑顔、そして青春の喧騒。

だが、真白結衣と緋人にとっては、少し違った意味を持つ行事だった。


「今年のクラス企画、カフェ形式に決定だって」


そう話しかけてきたのは、同じクラスの友人・真奈だった。

彼女は結衣のアレルギー体質と秘密の結婚のことを知る、数少ない理解者の一人。


「カフェ……材料、空気中の成分、椅子の材質……全部チェックしないと」


結衣は小さく息を吐いた。学園祭は、楽しいだけじゃない。

彼女にとっては、アレルゲンの嵐の中に飛び込むようなもの。

でも——逃げるつもりはなかった。


「手伝えることがあったら言って。無理はしないで、でも、諦めないで」


真奈の言葉が、背中を押す。



一方、緋人は校内イベントでグループとしてミニライブを行うことになっていた。

その準備と練習で忙しい中、結衣のことが気がかりで仕方なかった。


「どうしてあいつは、無理してまで頑張ろうとするんだろうな……」


楽屋の隅で、ふとこぼした言葉に、メンバーの一人が苦笑する。


「それはお前も同じだよ、緋人。放っておけないんだろ?」


「……ああ。絶対に、守りたいからな」


彼の瞳には、結衣の姿がはっきりと浮かんでいた。



学園祭当日。

教室には結衣のために、アレルゲンを徹底的に排除した専用スペースが用意されていた。

真奈たちが、夜遅くまで準備をしてくれたものだった。


「ありがとう、みんな……本当に、感謝してる」


結衣は、ぎこちなくも笑顔を見せた。

マスク越しでも伝わるその温かさに、クラスの空気もどこか和らぐ。


そして校庭——

ステージの上で歌う緋人の姿があった。

観客の歓声の中、彼の視線が一瞬、校舎の2階にいる結衣を捉える。


その目に宿った「強さ」と「想い」。

結衣はそれを受け止め、胸に手を当てた。


「大丈夫、私はここにいる。私たちは……一緒に、歩いてる」



夜、後夜祭のキャンドルの灯りの下。

人目を避けた裏庭で、二人はそっと手を重ねる。


「今日、笑えてたな」


「うん。緋人くんの歌、届いてた。ちゃんと、私の中に」


緋人は小さく息を吸い、言った。


「……俺さ、これからも忙しくなる。結衣の時間を奪っちゃうかもしれない」


「でも、私は逃げないよ。隠れたって、体はついてくる。だったら、ちゃんと向き合って、選びたい。私自身の人生を」


「じゃあ……俺も、そばにいさせて」


そっと、指を絡める。

秘密の結婚生活は、まだ続く。

でもこの日、二人は一歩、確かに「共有できる未来」へ近づいていた。


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