第3話 「友に打ち明ける秘密と、潔癖症の壁」
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校舎の廊下はいつもよりざわついていた。
新学期が始まって間もないが、真白結衣の周りにはいつも通りの静かなオーラが漂っている。
だがその表情は、いつもより少しだけ硬い。
誰にも言えない秘密。
学校での自分と、家や緋人と過ごす本当の自分とのギャップ。
その狭間で、彼女は今日も揺れていた。
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「結衣、ちょっといい?」
クラスメイトの由香が、放課後の教室で声をかけた。
乃々香は優しい笑顔で、どこか心配そうに見える。
「うん、どうしたの?」
結衣はわずかに笑みを返しながら、ノートを閉じた。
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「実は、聞きたいことがあるの……」
乃々香は少し躊躇いながらも、声を潜めた。
「結衣って、いつもキレイで完璧だけど……ちょっと変わってるって思うんだ。潔癖症とか、何か秘密があるのかなって」
それは誰もが薄々感じていたこと。だが、結衣の口からそれを聞くことは誰もできなかった。
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結衣は深く息を吐き、目を伏せた。
「……実は、私……すごくたくさんのアレルギーを持っているの。卵や大豆に花粉、動物、ほかにも色んなもの……」
その言葉は、小さな告白だった。
「だから、外ではマスクをしたり、手を洗ったり、触るものにも気をつけている。……みんなには内緒にしてほしいの」
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由香は黙って頷いた。
「わかった。秘密は守る。私も昔、喘息で辛い思いをしたことがあるから、少しだけ結衣の気持ちがわかるよ」
二人の間に、強い絆が芽生えた瞬間だった。
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その日の夜。
結衣は緋人に電話をかけた。
「今日、由香に全部話したよ。秘密を打ち明けたの」
「それは良かった。でも無理はしないで。君は君らしくいていいんだ」
緋人の言葉が、結衣の胸に温かく響いた。
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翌日、学校で。
結衣の潔癖症の壁はまだまだ厚い。
けれど、少しだけ人に心を開けたことで、孤独の影が和らいだ。
「私、少しずつ変わっていきたい」
そう誓う結衣の瞳には、これからの未来が確かに映っていた。