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番外編②「バレンタイン事件」
2月14日――バレンタインデー。
放課後、校門前には女子生徒とファンの長蛇の列。
「緋人先輩、これ! 手作りチョコです!」「サインください! 写真も!」
そんな中、結衣は人目を避け、こっそりと校舎裏のベンチに座っていた。
制服のポケットには、手のひらサイズの市販チョコ。
中身はカカオ100%、無添加でアレルギー対応――彼専用に選んだものだった。
でも、渡せない。周囲の目も、彼の人気も、全部“壁”のように感じた。
そこに、いつもの足音が。
「おまえがくれなかったら、誰のチョコも受け取らないつもりだった」
「……緋人くん……でも、そんなの、ファンの子に悪いよ」
「知らねえよ。俺の嫁がくれないなら意味ない」
彼は結衣の手から無言でチョコを奪い取り、ポケットにしまう。
「……ありがとな。ちゃんと、うれしい」
その一言で、結衣の頬は真っ赤に染まった。
翌日、SNSに“緋人、チョコ全拒否”がトレンド入りすることなど、二人にはどうでもいいことだった。




