番外編①「文化祭準備中の二人」
文化祭準備が佳境を迎えた10月初旬。
クラスでは模擬カフェの準備が進み、机や装飾の買い出し、メニュー作成など、連日バタバタとしていた。
「真白さんはアレルギーあるから、厨房には入らないでね!」
クラス委員の配慮はありがたいけれど、どこか“距離”を感じる言葉だった。
昼休み、誰もいない教室で結衣はぽつりとつぶやいた。
「なんか……寂しいよね。みんなの輪に入りたいのに、“特別扱い”されちゃう」
その隣で、緋人は淡々と答える。
「じゃあ俺が厨房担当する。で、結衣は俺の助手。なんか問題ある?」
「え? でも、緋人くん、料理できないじゃ……」
「できる。……練習した。おまえのために」
結衣の胸が、きゅっとなった。
――誰も気づかない教室の隅で、二人だけの準備が始まる。
結衣のアレルギーに合わせたメニュー開発、装飾の配置、小道具の選定。
少しずつ、二人は「皆と同じ場所」で、同じ空気を吸えるようになっていった。
文化祭当日。
厨房で手を動かす結衣の横で、緋人がそっとささやく。
「ほら、“秘密”でも、ちゃんと一緒にいられるだろ?」
結衣は、誰にも聞こえない声でそっと返した。
「うん。世界でいちばん、幸せなバイトだよ」




