表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100ものアレルギーを持つ女   作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第1章:高校編
12/33

第十一話(最終話)「春、秘密の扉が開くとき」


卒業式が終わった午後。

淡いピンクの花びらが風に舞い、街はほんのり春色に染まっていた。


「結衣も来るよな? カラオケ打ち上げ!」


クラスメイトの由香が声をかけてきた。


「もちろん。……でも、私、部屋の空気が合うか少し不安で……」


「大丈夫! 禁煙ルーム取ってるし、加湿器も借りといたから!」


「さすが由香……!」


結衣は笑って頷いた。

高校生活の中でできた信頼と友情が、そっと背中を押してくれていた。



カラオケ店の一室に、十数人のクラスメイトが集まった。

マイクを持った男子たちの熱唱に、歓声と笑い声が絶えない。


緋人は、いつものように静かにソファに座っていたが、結衣が隣に座ると、少しだけ照れたように笑った。


「こういう場所、久しぶり」


「うん。でも……こうやって、皆といられるの、悪くないね」


「……なんなら、一曲歌ってみる?」


結衣は目を丸くした。


「私が?」


「俺が伴奏やる。アカペラで」


冗談交じりの提案に、結衣は小さく笑い、立ち上がった。


「じゃあ……“ありがとう”って気持ち、歌ってみようかな」


部屋が静まり返る。

普段はテレビ越しに見ていた“真白結衣”が、目の前で歌い始めた瞬間だった。


――その声は、透明で、あたたかくて。

何より、ここにいる“友達”のために向けられた本物の歌声だった。



歌い終わったあと、一瞬の沈黙。そして、盛大な拍手と歓声。


「結衣、すごっ……!」

「これで芸能活動再開とか、もうプロじゃん!」

「いや、もうプロだし!」


「……みんな、ありがとう」


結衣は照れながらも、心からの笑顔を見せた。


その隣には、さりげなく緋人。

彼の手が、そっと彼女の手を握ったのは、誰にも気づかれない小さな“秘密”だった。



カラオケのあと、二人で夜風に当たりながら歩いて帰る途中。


「今日、なんだか少しだけ……“秘密じゃなくてもいい”って思えた」


結衣がぽつりと呟いた。


「無理して公表しなくてもいい。だけど、必要なときが来たら、ちゃんと話そうって思えたの。怖くないって思えたのは……緋人くんがいてくれたから」


緋人は歩みを止めて、真っすぐ彼女を見つめる。


「じゃあ、いつか“秘密だった僕たち”を、みんなにちゃんと紹介しよう」


「……うん。未来の私たちは、きっと“ふつう”に笑ってる。そう信じられる」


春の夜空に、星が一つまた一つ瞬いていた。


もう、“秘密”の扉は、開かれている。

そしてその先にあるのは、未来という名の、真っ白な日常。


――二人なら、歩いていける。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ