表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100ものアレルギーを持つ女   作者: AQUARIUM【RIKUYA】
第1章:高校編
10/33

第九話「遠ざかっていた家族と、交差する想い」


真白結衣が家を出て、東京で一人暮らしを始めたのは、高校進学と芸能活動の両立が理由だった。

けれど、その裏には、家族との確執という“もう一つの理由”があった。


特に母親との関係は、長らく冷え切っていた。


「芸能活動なんて、あんたの身体でできるはずがないでしょう」


「“普通”の生活をしなさい。あんたは、特別なんかじゃないんだから」


病弱だった結衣にとって、家族の“過保護”は、やがて“枷”に変わっていた。

母親の言葉は、彼女を守っていたようで、同時に縛ってもいた。



そんなある日、マネージャーが言った。


「真白さん。ご実家からお手紙が届いています。……お母様からです」


手渡された封筒。柔らかくも硬質な筆跡。

そこには、短く、そして重い言葉が並んでいた。


「久しぶりに話せないかしら。あなたが今、何を考えているのか、知りたいの」



緋人は手紙を読んだ結衣の様子にすぐ気づいた。


「会ってくるといいよ。……逃げるだけじゃ、きっと後悔する」


結衣はしばらく黙っていたが、小さくうなずいた。


「うん……向き合ってくる。ちゃんと、“私の選んだ今”を伝える」



数日後。

帰省した結衣を迎えた母親は、どこか変わっていた。

あの時の厳しさよりも、疲れたような眼差し。


「……ずっと、怒ってたの。あなたが、私の言うことを聞かなくなったことに」


「でも、私、本当は怖かっただけだった。あんたが倒れたら、って」


「私が守らなきゃいけないって、そればっかり考えてた」


静かな居間。結衣は、ゆっくりと口を開いた。


「私も、ずっと不安だった。

でもね、守られてばかりじゃ、私は“私”になれないって思ったの」


「私、誰かの隣に立ちたかった。“される存在”じゃなくて、“選ぶ存在”でいたかったの」


母親は、目に涙を浮かべたまま、ぽつりとつぶやいた。


「……あんた、ちゃんと強くなったのね」


結衣は目を見開き、そして静かに笑った。


「ううん。強くなれたんじゃなくて……私の弱さを、認めてくれる人が、そばにいてくれるから」



帰り際、玄関で母親が言った。


「その人……緋人くんって子かしら」


結衣は驚いた顔をした。


「どうして……」


「ネットで少し見ただけよ。私も、少しは柔らかくなったの。心が」


「……ありがと、お母さん」


抱き合うことはなかったけれど。

この日、二人の間にあった長い冬は、静かに解け始めていた。



夜、東京に戻った結衣は、緋人に抱きついた。


「ただいま」


「おかえり。……笑ってるな、今日は」


「うん。ちゃんと、家族に会ってきた。そしたら、私の中の“誰かに許されたい気持ち”が、少し、ほどけたよ」


緋人は微笑み、言った。


「これでまた、ひとつ“秘密”が減ったな」


「……うん」


その夜、結衣の夢には、母親が泣きながら微笑む姿が出てきた。

そして、それを見守る緋人の瞳は、今まで以上に、あたたかかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ