とあるクラスメイトから見た2人
今日は学園にいる間もずっと気分が良かった。
私の首元と耳には、昨日自分で選んだネックレスとイヤリングが光っている。
それは『枷』ではなく、私の『自由』の証明でもあるような気がした。
・・・まあ、気がしているだけだけど。
そんなことを考えながら廊下を歩いてると、向こうから見覚えのある令嬢が数人の取り巻きと共に歩いてきた。
そして私を見るなり、わざとらしく大きな声で話しかけてくる。
「あらあら~、シャル様ではありませんか~」
今日も圧がすごいな。
どこか他人事のように彼女を見る。
彼女の名前はカミラ・ダリアルド。
侯爵家の令嬢であり、性格は・・・うん、一言で言うとあまり良くない。
彼女は入学当初から何かと常に私に突っかかってきていた。
多分、私がレオルドの婚約者であることが気に入らないのだろう。
よくレオルドと話しているところを見るし。
「ごきげんよう、カミラ様」
「今日もお一人なのね。お可哀想に」
おお、煽りがすごい。
でも今日は気分がいいし、特にダメージを受けない。
多分、レオルドさんのことを見限ったというのも大きいのだろうな。
「・・・・・・」
「ちょ、ちょっと!何か言ったらどうなの!」
「え、ああ、…可哀想に見えましたか?」
「えっ!?」
カミラは私の質問に酷く狼狽えていた。
そりゃそうか。
今まで静かに言葉を受け止めていただけの相手が、急にケロッとしていたら怖いよね。
「ごめんなさい。怖がらせてしまったようですね」
「こ、怖がってなんかいないわよ!」
「そうですか。それなら良かったです。では、私はこれで」
早々に話を切って歩き出す。
カミラと彼女の取り巻きは、ものすごい速さで私を避けるように道を空けてくれた。
しばらくしてからカミラが何か言っていたような気がするけど、多分気のせいだろう。
そんな些細なことが気にならないぐらい、私の機嫌はすこぶる良かった。
終業のチャイムが鳴った。
周囲が思いのままに動き出したのを確認してから、私もキョロキョロと目的の人物を探し始めた。
私、カミラ・ダリアルドは今日の昼間からずっとシャル様のことが気になっていた。
彼女はレオルド様の婚約者で、入学当初からずっと気弱で無口な女性だった。
どれだけ困っていても、どれだけ悲しくても、表情には出るものの言葉や態度に出すことはたったの一度もなかった。
__そう、全て過去の話なのだ。
今日のシャル様の態度はまさに強く、気丈な女性だった。
シャル様にそっくりな誰か、と言われた方が納得してしまうほどの変貌ぶり。
思わず小さく悲鳴が漏れてしまうほど、正直怖かった。
「……あら?」
いない。
シャル様がいないのだ。
以前は終業後に教室の隅の席からレオルド様のことを寂しそうに見つめていた。
それこそ、皆がその景色を当たり前だと思ってしまうほど、見慣れたものだったはずなのに。
そこにシャル様がいないのだ。
「一体いつから……」
カミラにはその事実をレオルドに伝える勇気がなかった。
なぜなら、シャルのいた『当たり前』を崩してしまった原因には少なからず自分が関与しているから。
シャルへ嫌な絡み方をする。
彼女の婚約者であるレオルドと毎日のように談笑をする。
その2点だけでも、『当たり前』を崩すには十分すぎるとカミラは思った。
「どうしましょう・・・わたくし、わたくしは、」
カミラは酷く後悔していた。
罪の意識に駆られ、ふらふらと教室を出て行ってしまうほどには気が動転していた。