良き友人
「シャル!」
「シャルさん」
「あら、ロアンナとルークさん。ごきげんよう」
翌日、食堂の隅で、今日はどのお店に行こうか考えていると遠くから名前を呼ばれた。
そちらを見ると、この学園内で最も仲の良い友人のロアンナと彼女の婚約者のルークさんがいた。
「相席してもいいかしら?」
「もちろんよ」
「僕も失礼します」
彼女たちは持っていたお盆を置いて、向かいに座った。
そして私の顔を見るなり、不思議そうに首を傾げた。
「シャル、嬉しそうだけれど何かあったの?」
「嬉しそう?」
「ルークから見ても嬉しそうよね?」
「そうだな。前までは無理して笑っているように見えましたが、今は心から笑っているように見えますよ」
「…そう、なんですかね」
自分では全く分からないけれど、2人が言うのだからきっとそうなのだろう。
そんなに浮かれているように見えたかな。
でも確かに気分は良い。
「もしかして、レオルドさん関係?」
ロアンナは不安そうな顔で控えめにレオルドさんの名前を出した。
ルークさんとロアンナは、レオルドさんと私が婚約者でありながら全く関わっていないことを心配してくれていた。
そして2人は、私が他国の庶民出身であることを知っている数少ない友人だ。
庶民であることを抜きにしても、本当に私のことを心配してくれており、適度な距離を保ちながら見守ってくれていた。
「うん」
私は強く頷いた。
そう、レオルドさんのことを考えなくなったからこんなにも気が楽になったのだ。
レオルドさん関係で間違いないだろう。
私の返答に、向かいに座っていた2人は顔を見合わせてから大げさなほど喜んでくれた。
ロアンナに至っては泣きそうになっている。
「シャル~!!」
「ちょ、ロアンナ」
「よく頑張ったね!!」
彼女はわざわざ回り込んでくると、その小さな体で思いきり抱き着いてきた。
周囲に座っている学生が少しざわつくも、ロアンナは全く気にしていない。
「ずっと苦しそうにしているシャルさんを見てるのは僕たちとしても辛かったですよ」
「ル、ルークさん」
向かいで見守ってくれているルークさんも微笑ましそうに私たちを見ている。
「やはりシャルさんには笑顔が良く似合います」
「あ、ちょっと!いくらシャルが可愛いからって口説かないでよ!」
「シャルさんを励ましたかっただけだから許して、ロアンナ。僕の婚約者はロアンナしかいないよ」
・・・あっという間にダシにされた。
でも全然いい。
むしろ2人の微笑ましい場面を見せてもらえて嬉しいぐらいだ。
「…素直に言えるのすごいなぁ」
自分以外の女性を口説いている婚約者に、素直に『嫌』と言うことの難しさは痛感している。
なんとなく超えられない壁を見せつけられたような気がしたけれど、目の前の微笑ましい友人カップルを見ればそんなモヤモヤも吹き飛んだのだった。