自分の存在意義
観劇当日、俺は答えが出ないまま劇場に足を運んだ。
街を1人で歩くこと自体久々だったが、結構気持ちいいな。
……ただ、俺の頭の片隅にはずっとシャルがいる。
「あの人いるかな~!」
「ああ、噂の人?」
「そうそう!めっちゃ綺麗な人らしいじゃん!本当に楽しみにしてたんだよ!!」
そんな会話が近くから聞こえてきて、反射的にそちらを見た。
チケットを持った2人の女性が興奮気味に話している。
(もしかしてシャルのことか?)
シャルが舞台に出ているのなら観るのがより一層怖い。
もしシャルが舞台を楽しいと思ってしまったら、また舞台に立ちたいと思ってしまったら、、、引き止めようがない。
「いや、行くしかない」
小さく呟き、止まりかけていた足を無理矢理動かす。
ただ劇を観に行くだけだ。
本来ならば怖がる必要は全くない。
そう自分に言い聞かせながら、俺はやっと劇団オルビドの劇場に辿り着いたのだった。
劇が始まった瞬間、俺の恐怖は綺麗に去っていった。
それほどまでに目の前の舞台に釘付けだった。
物語が中盤に差し掛かった時、何人かの演者に紛れて1人の村娘が出てきた。
村娘はベンチに座ると主人公とヒロインを眺める。
そして隣に座っている男性と楽し気に話した後、音楽に合わせて踊り出した。
その村娘はシャルだった。
しかし、意識しなければ気づけないほど舞台に綺麗に溶け込んでいる。
(こんなに自然に溶け込めているなら、どうしてさっきの人たちはシャルに気が付いたのだろうか。いや、そもそもシャルのことではなかった可能性も十分あるな)
ジルノさんも主要な役として舞台に出ているし、噂に上がったあの人とはジルノさんのことだろう。
そう1人で納得すれば、もう何も気にならなくなった。
その後の舞台は心置きなく楽しむことができた。
舞台が終わり、会場内は割れんばかりの拍手に包まれた。
なかなか止まない拍手を受け、カーテンコールに出てきた演者たちは嬉しそうに笑う。
「皆様、本日は劇団オルビドにお越しくださりまして誠にありがとうございます。私は劇団オルビドの座長を務めております、ジルノと申します」
ジルノさんが1歩前に進み、笑顔でそう言った。
「折角ですから演者にも自己紹介をしていただきましょうか」
そう言ってジルノさんの隣に立っている人から順に挨拶をしていく。
いよいよシャルの番。
固唾をのんで見守るも、彼女は慣れたように1歩前に出た。
「今回、村娘役を務めさせていただきました、シャルと申します。皆さんと一緒に舞台に立つことができて楽しかっただけでなく、こんなにも沢山の方に観に来ていただけて本当に嬉しいです。ありがとうございました!」
そう言って頭を下げるシャル。
拍手に紛れて、
「シャルって…!」
「もしかして昔、劇団オルビドのにいたっていう演者さん!?」
「え、嘘!」
「噂では聞いていたけれど、本当に出てたんだ!」
といった声がチラホラ聞こえる。
そうか、シャルの存在はカーテンコールで気づかれたのか。
周囲の声を聴いてから改めて見た舞台は、とても遠いように感じた。
壁なんてない。
声だってしっかり届く。
なのにどれだけ手を伸ばしても大声を出しても届かないような、そんな感覚。
「シャル」
小さく小さく彼女の名前を呼んだ。
その声量は、まるであのパーティーの夜を思い出させるようなものだった。
勿論、シャルは俺を見ない。
あの時は届いたはずなのに、
「・・・」
そんな暗い感情を無理やり押し込んで、俺は劇場を出た。
(分かってる。分かってるんだ。仕方ないことだ。でも、)
__シャルは舞台と俺の隣、どちらの方が幸せなのだろうか。
ずっと悩んでいたモヤモヤの正体がようやく具体的に見えた。
俺からシャルを呼んでばかりだ。
彼女から俺を呼ぶことは滅多にない。
いや、もしかしたら気づいていないだけで一度もなかったのかもしれない。
だから、ずっと消化しきれなかったんだ。
__俺はシャルの何なのだろう。
女々しいと言われてしまえばそれまでだ。
でも、それほど彼女の本心が探れないでいた。
沢山の称賛を浴びる彼女にとって、自分からの愛はいらないのではないのだろうか。
物語もいよいよ終盤になってまいりました!
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