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打診


舞台は本当に面白かった。

演者の演技はもちろん、舞台装置や衣装まで丁寧に作られていた。

事前に把握し損ねていたのだが、この舞台はダンスの場面もあるミュージカル風なものだった。

ダンスもとても綺麗で見入ってしまうものだった。


ジル兄も王子役で格好良かったな。

案の定、表舞台を嫌うソフィ姉は出てこなかったが、(ここはソフィ姉がこだわったんだろうな)と思う場面も多々あった。


たったの一瞬も飽きることなく観れたのは、沢山の団員の努力の結晶なのだろう。

演者だけでなく、裏方の努力があってこその完成度だと感じた。


「面白かった~」


道中で差し入れを買ったことだし、折角なら楽屋にもお邪魔しようかな。

終演後は忙しいことが多いし、片付けでも何でも手伝おう。


そう思って席を立ち、予め聞いておいた楽屋に向かった。



楽屋に着いてノックをするも、すぐに返事が返ってこない。

忙しいにしても、流石にノックは聞こえるはずなのにどうしたのだろうか。

もう1回ノックをしようとした時、勢いよく扉が開いた。


「シャル様!?」

「びっくりした!…えっと、お取込み中でしたか?」

「驚かせてしまい申し訳ありません。取り込み中というか、…」


何かあったのか首を傾げると、室内からは呻き声が聞こえた。

そこにはソファーに座って足を抑えている女性がいた。

よく見ると、先ほど席まで案内してくれた人だ。


「大丈夫ですか!?」

「あ、、シャル様。お迎えに行けず申し訳ありません」

「そんなこと気にしないでください!それよりもどうしたんですか?」

「実は足をくじいてしまって…最中は集中していたので痛みを感じなかったのですが、今になって痛みが強くなってきてしまったのです」

「そんな、」


何かできないか考えていると扉がおもむろに開いた。

そちらを見ると、ジル兄とソフィ姉が何かを話しながら楽屋に入ってきていた。

そして私と目が合うと驚いたように駆け寄ってきてくれた。


「シャル!?」

「シャルじゃない!わざわざ楽屋まで来てくれたの?」

「差し入れを持ってきたからそのついでに何か手伝えることはないかと思って来たの。ほら、終演後は何かと忙しいでしょ?」

「そんな気遣いいいのに…。差し入れまでありがとう。あとで皆でいただくね」


ソフィ姉は私から差し入れを受け取ると、ジル兄に視線を戻した。


「ねぇ、シャルはどう?ちょうど適任じゃない?」

「公演は明日もあるだろ。1日で台本を覚えるなんて厳しくないか?」

「でもドロシーをそのまま舞台に出すことは許さないわよ。無理をして後遺症でも残ったらどうするの」


話から察するに、彼女__ドロシーの代打として私を舞台に出そうとしていることが伺えた。

でも私はもう劇団オルビドの団員ではない。

それに明日は休みではないため、学園の授業だってあるのだ。

何か言われる前に断ろうと口を開きかけた時、袖を控えめに引かれた。

そちらを見ると、ドロシーが私を見上げていた。


「シャル様」

「どうされましたか」

「……私の代わりに舞台に出ていただけませんか?」

「え?」


彼女は痛みに顔を顰めながらも、確かに真っ直ぐ私を見ている。

その目には確かな期待が込められていた。


「この足では到底出られません。どうか、お願いできないでしょうか?」

「…お助けしたい気持ちは山々ですが、私はもう劇団オルビドの団員ではありません。だから、」

「いや、シャルの籍ならまだあるぞ」


ジル兄は私の言葉を遮ってそう言った。

驚いてソフィ姉を見ると、彼女も小さく頷いた。


「ジルノの言う通り、籍はあるわよ。だから自由なタイミングで復帰できる。勿論、明日からだってね」

「……知らなかったんだけど」

「まあまあ。でもドロシー本人から直接お願いされたわけだし、シャルにも助けたい気持ちがある。なら答えは1つだよな」


ジル兄とソフィ姉は悪く笑うと、私をじりじりと追い詰める。


「で、でも授業あるし、」

「あら、それなら私が学園側に伝えておくわよ。安心して」


ソフィ姉はそう言って笑った。

やりかねない。

ソフィ姉ならこんな本来ならば通るはずのない理由でも確実に学園からの許可を取ってくるだろう。


「……降参。やらせていただきます」


そう言うと3人は頷いた。

何だってこんなことに。

ただ劇を観に来て、楽屋に差し入れを持ってきただけだよ???


「助かるよ。じゃあ、急に部屋は用意できないからソフィアと同じ部屋に泊まってくれ」

「いや帰るよ。寮から近いし、心配しなくてもちゃんと来るから」

「えー?泊まっていきなよ。少なくとも、今日は台本とか立ち位置とかの確認があるから帰っても遅くなるでしょ?」

「ソフィ姉まで…」


ここで何かを言っても丸め込まれる未来しか見えなくて諦めた。

ものすごい速度で展開していく話をどこか他人事のようにぼんやり聞くことしか私にはできなかった。


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