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兄の牽制、そして姉の登場


「コイツか」


ぼそっとジル兄が呟いたのが聞こえた。

その声になぜか私が震えあがってしまう。

恐々と振り返るも、ジル兄はすでに張り付けたような笑みを浮かべていた。


「シャル、その人はどなただ。劇団オルビドの座長ということは分かったが、それにしても親しすぎる。どういった関係なんだ?」

「・・・・・えっとですね、」

「私はシャルの兄、ジルノと申します。あなたのお名前を伺ってもよろしいですか?」

「兄…!?シャルに兄弟はいないはずでは?」

「血縁関係はありませんよ。ですがシャルが小さい時から共に暮らしていましたので、ほぼ兄弟と同義です。この子の『シャル』という名前も、私の『ジルノ』という名前を元につけられました」


ジル兄は笑みを消し、今度は冷たく言い放つ。


「にしても、先ほどから名前を尋ねているというのに、一向に名乗らないのはどういう了見ですかね。本来ならば先に自身の名を名乗るのがマナーではありませんか?」


あ、これは本気で怒っている。

私がカフェで尋問されていた時とは比にならないぐらいの圧を感じる。

さすがのレオルドさんもそれを感じ取ったのか、顔を青くしている。


「も、申し遅れました。私はレオルド・ジャーリムアと申します」

「レオルドさんですね。で、あなたがシャルの婚約者ですか?」

「…はい」


すっかり委縮してしまっているレオルドさん。

周囲も異常な雰囲気にそそくさと離れていく。


「……なるほど、あなたが青い瞳だからシャルに青いドレスを贈ったわけですか」


相変わらず圧をかけ続けるジル兄。

どうにか止めないと、と思うも、ジル兄の口撃が鋭すぎて何も口を挟めない。


「よくもまあ、私とソフィアがいない間にシャルに婚約を申し込みましたね。それに関してはお見事です。ですが、私たちがシャルを見つけ出した以上、黙ってはいませんのでお忘れなきよう」

「ジ、ジジジジ、ジル兄…?ねぇ、ちょっと怒りすぎじゃない?」


ジル兄の袖をクイクイと引っ張る。

私を見下ろす笑顔はとても綺麗なはずなのに、やはりどこか恐怖を感じる。


「シャル、俺はまだレオルドさんと話があるから食事をしておいで」

「ジル兄もお腹空いたでしょ?食べようよ」

「俺はここでは食事できないんだよ。仕事だしな」


(じゃあ仕事中に私情を持ち出さないでよ!!!)


なんて言えるわけもない。


でもどうにかしないと、



その時の私たちは、会場内の変化に気づけていなかった。

驚くほど高いピンヒールに、黒色のローブ・デコルテ。

誰もが見惚れる金髪と真っ赤な瞳を持った女性が会場に入った瞬間、楽団は演奏の手を止めてしまうほど驚いていた。


静まり返った会場には、私たちの話し合いの声と女性のヒールの音だけが響く。


女性はジル兄の真後ろで立ち止まった。

そして、躊躇なく思いきりジル兄の頭を叩いた。



「イッダ!!!」

「おい、馬鹿ジルノ。いい加減にしろ」


女性は真顔のまま、ジル兄を罵る。

そして私を見るなり、花が咲くように笑顔になった。


「シャル、久しぶりだね、元気にしてた?」

「え、っと?」

「まさか忘れたの?姉の顔を忘れるなんて随分と忙しかったんだね」

「もしかして、ソフィ姉…?」

「ご名答。やっぱり覚えているじゃない」


私とほとんど変わらない身長の女性は嬉しそうに抱きついてきた。


「ソフィア、、なんでここに。パーティーは苦手だろ」


ジル兄の言葉に振り向いたソフィ姉はその声を低くする。


「ついさっき入国審査が終わったんだよ。疲労困憊の中、何とかここまでたどり着くと控室の机に『座長が暴走しているから助けてくれ』という旨の置き手紙があったから、ドレスのまま来てみればこのザマだ。お客様の前で私情を持ち出すな。お前は演者であり、オルビドが誇る手品師だろ」


ソフィ姉の言葉に、ウッとジル兄は言葉を詰まらせた。

ジル兄を一瞥すると、すっかり止まってしまった時間を動かすかのようにソフィ姉は楽団の前に歩み出した。

そして右手を高く上げる。


「いいか?指揮をとるから合わせてくれよ」


ソフィ姉の言葉に楽団は頷く。

そして、再び演奏が再開された。


ソフィ姉はある程度すると指揮をやめ、そのまま踵を返した。


「この度はうちの座長が失礼いたしました。皆様、どうぞお楽しみください」


それだけ言うと、ソフィ姉はジル兄を引きずって会場を後にした。



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