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今更どうしたのだろう?


次の日の朝、俺はずっと落ち着かなかった。

婚約者に声をかけるだけなのにこんなにも緊張するのか。


「レオルド様、お顔が怖いですわ」


いつものように呼んでもいないのに令嬢たちが集まってくる。

彼女たちは悪くないのに、その猫撫で声に苛立ちが増してしまう。


「静かにしてくれないか」

「まあ!どうしてそんなに寂しいことをおっしゃるのですか?」

「今日はシャルと話さないといけないことがあるから離れてくれ」


俺の言葉に令嬢たちは息を呑んだ。

そして彼女たちはそそくさと去っていく。


「・・・はあ」


堪えきれずため息を吐いた時、静かに教室に入って来るシャルを見つけた。

思わず立ち上がってしまう。


「シャル!」

「…レオルドさん?」


彼女は小さく首を傾げて俺を見た。

周囲はものすごい顔で俺を見ているが、そんなことは気にならない。

むしろ婚約者同士で会話をしただけなのに周囲が驚いてしまうというこの異常な状況を、今日こそ終わらせないといけないと強く思う。


「ごきげんよう。どうかなさいましたか?」

「ぁ、っと。その、だな」

「?」


シャルは急かすわけでもなく、ただただ俺を見上げて次の言葉を待っている。

何か言わないと、、、


「今日の授業後、時間あるか?」

「授業後ですか?それはまたどうして?」


思ってもいない質問返しに戸惑ってしまう。

どうやって言えばいいのだろうか。

謝りたい、は違うし、仲良くなりたい、はどこか違和感がある。


「…来月のパーティーのドレスを一緒に決めないか?」


絞り出した答えは至極真っ当なものだった。

タイミングも、話題も全てにおいてちょうどいい。

それにドレスを一緒に決めたことが無いからシャルだって喜んで、


「そういうことでしたか。それなら心配いりませんよ」

「は?」

「実は、今後は自分でドレスを見繕おうかと考えていたのです。ちょうど『来月のパーティー用のドレスは不要です』という旨のお手紙を今日出そうと思っていたのですが、直接お話しできて良かったです」


まさかの返答に何も返せない。

一連の流れを見ていたクラスメイトでさえ、唖然としている。


だってドレスは、相手への愛情を可視化して表すものである。

婚約者がいる令嬢が自分で用意するなんて、そんなの今まで聞いたことが無い。


シャルはといえば、それはそれは良い笑顔だった。

話は終わったでしょう?と言わんばかりに「では」というと、自分の席に向かってしまう。


「待ってくれ!」


このままで終われるはずもなく、慌ててシャルの後を追う。


「ドレスを自分で見繕うって、どういうことだ?」

「そのままの意味ですよ。自分でお店へ行って、仕立ててもらおうかと考えています」

「今までのドレスが気に入らなかったのか?それならそうと言ってくれれば良かっただろ」

「……すみません」


シャルは困った顔をして謝った。


そこまで言ってから気が付いた。

シャルを自分の意見が言えなくなるまで追い込んでしまったのは俺だ。

それなのに今、完全にシャルを責めてしまっている。


「いや、すまない。責めたかったわけじゃないんだ」

「……いえ、希望をお伝え出来なかった私が悪いのです。本当にすみませんでした」


シャルは気まずそうな顔をしながらそう言った。

違うと否定したいのに、上手く言葉が出てこない。


「……とりあえず、ドレスの件はご理解のほどよろしくお願いいたします」


それだけ言うと、シャルは教室を出て行ってしまった。


こんなにも彼女との間に壁ができていたのか。

すぐ近くに居てくれたはずのシャルが、もうずっと遠くにいた。


『早く彼女の手を取らないといつの間にか手が届かないどころか、見えないところへ行ってしまうぞ』


昨日のルークの言葉が頭の中で繰り返される。

俺は、どうすればいいんだ。




終業のチャイムと同時に教室を出る。

そして誰にも声をかけられないように、自分の出せる最高速度で寮への道を歩く。


(気まずい気まずい気まずい気まずい)


今朝の一件から、教室内にはレオルドさんと私を気遣うような雰囲気がずっと漂っていた。


(クラスメイトの皆さん、気を遣わせて本当にごめんなさい!!)


レオルドさんから声をかけられるなんて全く予想していなかった。

おかげで何も繕えず会話を進めてしまい、ずーっと気まずかったのだ。


(いつもならもっと上手くやれるのに)


『気弱で従順な婚約者』のフリは以前なら何なくできていた。

それが、今日はどうした。

あんな言い方では棘があるし、今までの私とは全然違って見えただろう。


(…多分、気が抜けたのね)


自由に生きることに少し慣れすぎたようだ。

それ自体が悪いとは思わないけれど、いつでも演じられるように構えておかないといけなかった。




寮の自分の部屋に駆け込んで鍵を閉める。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


肩で息をしながら鞄を置く。

変に居心地が悪かったせいか、どっと疲れが押し寄せてきた。


「なんでこんなことに…」


レオルドさんとは必要以上に関わって来なかったし、変にこっちから何かを要望した覚えもない。

心当たりといえば、


「もしかして、ロアンナとルークさんが何か言ったのかな」


あり得る。

あの2人ならやりかねない。

でも真正面から聞いたところで、はぐらかされるだろう。


「お願いだからいつものお互い干渉しない平穏な日常に戻ってくれないかな~…」


無駄な祈りかもしれないけれど、今の私には必死に祈ることしかできなかった。


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