第六話 冷徹女王は誘いたい。
「ねぇ堀田。昨日勧められたこれ、読んでみたんだけど。」
「え、もう!?」
登校してすぐ、机にいた僕に、伏見さんが話しかけてきた。
どうやら、勧めたほうをもう読んでいたらしい、というか、いつ買ったんだろう。
「え、教えたの昨日だよね。どこで買ったの?」
「弟が持ってた。それで頼んで借りたんだよね。」
「あ、そうなんだ。」
もしかしたら弟さんとは話が合うのかもしれない。
「でさ、とりあえず二巻まで読んだんだけど。面白いじゃん。」
「ほんと!?よかったぁ...。」
思わずほっとした。
伏見さんが読みそうなイメージがなかった分、どうなるか不安だった。
「主人公、女の子のこと守ってくれるし、助けてくれるし、かっこいいよね。」
「伏見さんもそう思った!?だよね!異世界に転生して力を得て、それで現実世界ではできなかった覚悟を決めてヒロインを助ける所って言うのが特に!!!」
「うん。この女の子、すごい可愛いよね。」
思わず饒舌になってしまったと焦ったが、杞憂だった。
伏見さんは笑顔で頷いてくれる。
「だよね!実は三巻の表紙に別の衣装で描かれてるんだけど、すごい可愛くて!!!」
「ふーん...。ねぇ。堀田って、こういう子がタイプなの?」
「え、あ、うん。髪が長い子が...好き、かな。」
「へー。そっか。」
伏見さんは、どこか満足気だった。なぜだろう。
あ、もしかして僕と同じでこのキャラが好きなんだろうか。
表紙の話を聞いたから嬉しいとかだろうか。
「私、この主人公も好きなんだよね。」
「あ、うん!僕も好きだよ!恋愛に鈍感な所とか!」
「...うん。私もそういう所、好き。」
どうやら伏見さんも、案外漫画が好きらしい。
「そんなに気に入ってくれてうれしいよ。よかったら続き読んでね。」
「うん。」
伏見さんは何故か少し戸惑っていた。なぜだろう。
もしや、漫画の話にがっつきすぎたのかもしれない。
...もう少し冷静に話さないと。
「そうだ。この漫画さ。今度映画になるじゃん。」
「あ、アニメもやってるからね。面白そうだよね。」
「確か今度の日曜日だよね。...堀田は、見に行くの?」
「あ、うーん...。見に行こうか悩んでるんだよね。」
映画まで気になるくらいにハマってくれていることに、思わず感動してしまった。
伏見さん。もしかしたら最初からなろう系が好きだったんだろうか。
それだったら僕も映画を見に行くべきだろうか。勧めたのは僕だし。
「...日曜日って暇?」
「え、うん。暇かな。」
「じゃあ、見に行かない?二人で。」
「え。そ、それって...。」
え、デートなのだろうか。いや、いやいやいや。
さすがに僕をデートに誘うなんてないだろう。
でも、わざわざ誘うなんて、それってもしかして...。
「だめ、かな。」
「え、いやいや!全然暇だし大丈夫だよ!」
「よかった。じゃあ、見れる場所探しとく。」
「あ、うん!」
心臓の鼓動が止まらなくなっていた。
「えっと、お昼食べてから行けばいいかな?」
「うーん。折角だし一緒に食べよ。」
「え、あ、うん。」
しかも一緒にご飯...!?
それってやっぱりデートという意味なのだろうか。
だが、聞く勇気がなかった。
「あ、そろそろ授業始まるね。また後で話そ。」
「あ...そうだね。」
授業が始まってもなお、僕の心は浮ついたままだった。