第五話 冷徹女王は読んでみたい。
放課後、下駄箱の前で本を読んでいた。
伏見さんに一緒に帰ろうと言われたからである。
誰かと一緒に帰るなんて、何時ぶりだろうか。
中学以来だろうか。
「ふぅ。」
以前しおりを挟んだ本を読み終え、一息つく。
恐らくある程度時間が立ったはずだが、伏見さんの姿は見えなかった。
大半の生徒は下校済みだと思うが、もしかして何かあったのだろうか?
「あ、堀田。ごめん。待たせた。」
そう考えていると、伏見さんが階段から降りてきた。
どうやらその考えは杞憂だったようだ。
「あ、うん。大丈夫。本読んでたから。」
「そっか。ごめん、相手しつこくて。」
「そっか。大変だよね。」
「...まあ、そうだね。何か皆に持て囃されるし、正直めんどくさいかな。」
そう言いながら溜め息をつく。
伏見さんは、あまり人と関わらないタイプらしい。
でも僕は違って、自分から関わらないのを選んでいる人だ。
「とりあえず行こっか。」
「あ、うん。」
僕は急いで伏見さんに並んだーーー。
電車から見る街の景色は、いつもと変わらない。けれど、普段と違う。
学園一の美少女が隣にいて、しかも一緒に歩いている。
少し前の僕なら信じられない事実だ。というか、今でも信じられない。
「そういえば、堀田って、いつも本読んでるじゃん。」
「うん。」
「何て名前の本なの?」
「あ、えっと。」
どう説明すればいいのだろうか。正式名称で言うと長すぎるし、キモがられるかもしれない。
とりあえず今持っている中で、一番まともそうな本の名前にした。
「ーーーって言う本なんだけど、主人公が異世界に行っちゃって、でも特殊能力に目覚めてって感じで。」
「ふーん。」
やばい、引かれただろうか。
でも、そうだろうなと薄々思っていた。
伏見さんは明らかに光の世界にいるような感じで、僕のような趣味なんて。
「気になる。名前長いからいまいち覚えれないし、借りちゃダメかな。」
「え?あ、いいけど...。いいの?」
「いいのって何が?ていうかその本今持ってる?」
「え、あいや、何でもない...。」
伏見さんはどこまで優しいんだろう。
僕はそう思いながら、カバンから先ほどの本を取り出した。
「これ。しおりもついてるよ。少し長いけど。」
「気にしないよ。読み終わったら返すね。ありがと。」
ふと見た伏見さんの顔は、とても笑顔だった。
もしかしたら前からラノベに興味があったんだろうか。
それで僕に話しかけたとか...。
どちらにせよ意外だった。
「折角だし色んなおすすめ教えてよ。堀田の好きなやつ知りたい。」
「え、あ、うん。」
「ていうか連絡先教えてよ。RINGやってる?」
「え、やってるけど...。」
「じゃあID教えて。入力するから。」
「でもその...僕なんかと話しても...。」
思わず口に出してしまった。
どこか僕の心が教えるのを引き留めていた。
何か裏があるんじゃないか。そんな考えが。
女子たちに睨んでいたあの瞬間を見てもなお。
「...だからなんでそんな卑屈なの。私、堀田と話したいから言ってるんだけど。ていうかさ、クラスのみんなも堀田のこと悪く言うけど、優しいし、私は好きだよ。」
「え!?す、すき!?」
「あ、いやいや!その...恋愛的な意味じゃなくて!Likeみたいな!」
「あ、うん。そうだよ...ね。」
それでも、好きと言われて嫌ではなかった。
むしろ今すぐガッツポーズしたいくらいにはうれしかったが、さすがに胸の内に留める。
そこまで言われると、素直に教える他なかった。
「ほんとは気になってるんだけど...。(小声)」
「え、何か言った?」
「な、なんでもない!とりあえず教えて!」
「あ、うん。」
そう言いながら、スマホを取り出した。
伏見さんのアイコンは、可愛い猫のアイコンだった。
...しまった。美少女キャラのアイコンだから、引かれるかもしれない。
「あ、このキャラ知ってる。可愛いよね。」
「え!?知ってるの?」
「うん。弟が見てた。じゃあ、また後で色々教えてね。私この駅で降りなきゃだから。」
「あ、うん。」
「堀田。またね。」
「...またね。」
そう言いながら手を振る伏見さんは、
とても楽しそうだった。
僕は勇気を出して、手を振り返した。