第四話 冷徹女王は仲良くしたい。
無事に学校まで辿り着き、下駄箱で靴を変える。
まあ、普段は何もないし、未だに目線は痛いんだが。
「あっ。」
「...何かあった?」
「私の下駄箱に手紙が入ってる...。はぁ。またかぁ。」
確かに伏見さんの下駄箱には、手紙が一通入っていた。あの反応からしていつものことなんだろう。
「...めんどくさ。無視でいいかな。」
「え...。ちなみに内容って。」
「少しだけ読んだけど告白みたい。知り合いじゃないし、多分初対面。」
そのまま溜め息をつき、近くにあったゴミ箱に捨てようとする。
「え、捨てるの?」
「邪魔だし。そもそもおかしいと思わない?仲が良いとか、せめて知り合いならわかるんだけど。みんな私の見た目しか見てないんだよ。...ごめん、自意識過剰か。」
「い、いや!伏見さんは凄く美人だと思う!」
思わず言ってしまった。自分の顔がどんどん赤くなるのを感じる。
「...ふーん。そういうこと言うんだ。まあ堀田なら、そんなに悪い気はしないかな。」
「え、あ、ありがとう。」
「ふふ、ありがとうって。変なの。」
心なしか伏見さんの顔も、少しだけ赤くなっていた気がした。けど、捨ててしまうのか...。
「でも、捨てると何というか、可哀そうな気がして。」
「...堀田、ほんと優しい。」
「い、いや!伏見さんが捨てたいなら全然いいと思うけど!」
「うーん...。じゃあ、行こっかな」
放課後屋上に呼ばれてるんだよね。と伏見さんが続ける。少しだけ、心に痛みが走った気がした。
でも当然だ。伏見さんは魅力的だし、これからも色んな男子が声をかけるだろう。
「あ。一応言っとくけど、断るからね。...私今彼氏とかいないから。」
「そ、そうなんだ。...その。」
「どうかした?」
「いつも『友達からでもいいのでお願いします。』とかでも断ってるけど、その、好きなタイプとかないのかなぁ。って。」
「うーん。」
伏見さんが考え込む仕草を見せる。少し気になってしまった。
いつも断っている姿しか見なかったけれど、好きなタイプとか、そういうのはないのだろうか。
「...優しい人とか。」
「...あ、やっぱり性格は大事だよね。」
「うん。いざって時助けてくれる人とか、好き。」
「...」
「...」
どう返事すればいいのかわからなくなり、少しの間沈黙が流れた。
それはもしかして、僕のことなんだろうか。
だが、そんなことを聞くのは明らかに自意識過剰だし気持ち悪すぎる。
それに有り得ないだろうし。
「あ、その...手紙は、どうするの?」
「とりあえずは会った時に相手に手紙返しとく。...ちなみに、放課後って空いてる?」
「え?あ、空いてる、けど...。」
「じゃあ一緒に帰ろ?」
「え!?」
なんで?と、言おうと思ったが、そういえば仲良くしようと言われていたのだった。
でも、なぜ僕と。疑問は絶えなかったが、心の中に留めておく。
「...だめ?」
伏見さん。それは反則過ぎる。
その目で見つめられると、頷くしかなかった。
「じゃあごめんけど、放課後少しだけ待っててね。」
「あ、うん。」
「それじゃ、行こっか。」
伏見さんの髪が揺れる。
歩き出すその後ろ姿は、やはり綺麗だったーーー。
昼休み。俺は矢田から呼び出されていた。
「おい、お前学校で噂になってるぞ!」
「あー...伏見さんか。」
「そうだよ!お前何やったんだ!?」
「いや実は...」
と、起きた出来事は簡略化しつつ伝える。
まあ、仲良くしてと言われたことなどは伏せて。
「...お前、すげぇな。確かに聞いた通りではあるわ。」
「ん?聞いた通り?」
「聞いた話だと、お前が昨日伏見さんを助けたとかなんとか...。まあ実際はキョドってたみたいだけどな。ははは。」
「うるせぇな。まあ確かにキョドりまくりだったけど...まあだからお礼を言われただけで、そんなに大したことは起きてないよ。」
「なんだ、てっきりお前がぼっち卒業して、抜け駆けしたのかと...。」
抜け駆けって。別に悪いことでもないだろうに。
だがまあ事実ではあった。僕はぼっちのままだった。
「まあそうだよな。お前みたいなぼっちと伏見さんが絡むなんて有り得ないしな。」
「はぁ...やっぱそうだよなぁ。」
そうやって話してると、ちょうど自分のクラスで伏見さんが話しているのを見かける。
少し耳を傾けると、どうやらあちらも同じ噂について聞かれているらしい。
「ねぇ、伏見さん。何であんな奴と話してんの?」
「堀田って、いつも喋らないし暗いしオタクじゃん。」
「お礼なんて別に要らないでしょ。」
複数人の女子が、伏見さんの机の前でそう話していた。
「まあ、そうだよな。俺たち陰キャなんてそういう扱いだよな。堀田、あんまり気にするなよ。」
「ん、ああ...。そう、だな。」
気にするなよと言われても、心に影が射していた。
そうだよな。僕なんかが伏見さんと仲良くなんてーーー。
「...は?」
「よく知らない癖にそんなこと言うの最低でしょ。」
「堀田のこと勝手に悪く言わないで。あなたたち別に助けてくれなかった癖に。」
伏見さんは女子たちを睨み、そう言い放っていた。
「い、いや私はその時その、ちょっと...。」
「別にあなたたちに助けてほしいなんて思わないけど、助けてくれた人を悪く言うとか意味わかんない。そもそも私が誰と仲良くしようと勝手だし。」
「い、いや。うん。ごめん。」
女子たちは自分の席に戻っていった。
「なあ、お前...やっぱりぼっち卒業するのか?」
矢田の問いかけも聞こえなくなるほど、僕は唖然としていた。