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第一話 冷徹女王を助けたい。

「やっぱあのシーン最高だよな!」

「だよな。特にあの主人公の袖掴むシーンが特に。」


 昼休みの廊下の隅で、僕は矢田と話していた。

矢田は僕の数少ない友人...というかほとんどいない友人の一人だ。

当時同じクラスで共通の趣味...云わばライトノベル、同じなろう系の小説を読んでいるのが、

矢田くらいしかいなかったのだ。

高校に入って以来、ほとんど友人ができていない。

二年生になってから一ヶ月。

少しは喋れた知り合いたちともクラスが離れてしまい、クラスでは完全に孤立していた。

昼休みはこうして矢田と話すか、机でラノベを読んでいた。


「あ、あれってもしかして、『冷徹女王』じゃないか?」


矢田が指を示す先には、一人の女子が囲まれていた。


「誰?」

「お前噂聞かないのか?すごい有名だぞ。ほんとにぼっちなんだな。」

「うるせぇよ」

お前だってほとんどぼっちじゃないかと、内心思ったが心に留めておく。

「ほら見ろよ。すごい美人でさ。しかもどんな男に言い寄られても靡かないんだってさ。」

「逆に最近はその冷たい目線と態度で断られるのが好きなやつも出てきたみたいだぜ。まさに女王だな。」


囲まれている中心に目をやると、どこか儚さを感じる立ち姿。

すらりとした足、紺色のストレートロングに、まつ毛の長い瞳。

横顔でもわかる、見た人の心を吸い込んでしまうようなその瞳は、

まさに美少女という名に相応しかった。

その姿に思わず見惚れていた。


「おい、あんま見るなよ、バレるぞ。もしかして一目惚れしたか?」

「...してねぇよ。」

「へぇ?まあ明らかに美人だよな。俺たちとは別の世界に住んでるんだろうな。」


その言葉に思わず頷いた。

彼女の容姿だけではなく、学校、それどころか物語の中心にいるかのようなあの雰囲気が、

僕のようなクラスの隅で寝たふりをしているような陰キャとは、明らかに違う世界にいるようだった。


「名前も伏見玲、っていうらしくてさ。玲って名前 から『冷徹』ってあだ名がついたらしい。前回のテストも一位だったらしいしな。」

「あのバスケ部の安藤先輩も振られたらしいぜ?あ の人すごいイケメンなのに。」

「ああ、伏見さんか。クラスの自己紹介の時、聞いたわ。ていうか隣だし。」


だが、冷徹女王なんてあだ名がついてるとは知らなかった。

でも確かによく考えてみれば、こんなのと隣になって、今まで悪口を一つも聞いていないし、

端から興味がないのかもしれない。そういう意味では、冷徹なのかもしれない。


「隣なのかよ!?羨ましすぎるだろ!?というか隣 なのにさっき見惚れてたのか?」

「隣になった時から見るのが気まずいから窓の外見てたんだよ。それ以来目合わせないようにしてる。」


クラスでの自己紹介の時から、彼女はどこか近寄りがたい雰囲気があった。

だからこそ、隣になった今でも、一言も会話はしていない。


「はは、さすが陰キャ代表。というか見惚れてたことは否定しないんだな。」

「うるせぇよ!美人なのは知ってたけど、今初めてちゃんと顔見たわ。」

「...というか、伏見さんはともかく...安藤って誰だ?」

「...お前さぁ...」


矢田がため息をつく。...そこまで酷い扱いをしないでもいいじゃないか。

ぼっちなんだから、噂すら聞かないんだよ。

そう口にしようとすると、五分前の予鈴が鳴る。


「そろそろ自分のクラス戻るわ。じゃあな。」

「ああ、またな。」


矢田に手を振り、自分のクラスに戻る。

今日も変わらない日々、そのはずだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


下校時間になり、皆が教室を出ていく。

同じく帰ろうとは思っていたのだが、読んでいるラノベがいい所だったので、

どこかで区切りをつけてから帰ろうと思っていた。


「ねぇ。伏見ちゃんっていない?」

「え、あ、はい。多分まだいたと思います...。」


廊下から話し声が聞こえる。

伏見さんに用があるらしい。まあ、俺には関係ないか。

ちょうどいい所にしおりを挟み、そろそろ帰ろうとしたところ、

男が伏見さんに詰め寄る。


「ねぇねぇ。俺と遊ばない?」


...またかと思った。

伏見さんはこの手の誘いに乗る訳がないのに。

どうせ玉砕するのに、なんでそんな馬鹿なことをするんだろう。

ふと目をやると、伏見さんは無視して下校の準備をしていた。


「一回でいいからさ。学園でも有名なんだよ?伏見ちゃんって。実際超可愛いし。」

「...興味ない。どいて。」


修羅場に巻き込まれる前に、さっさと退散しよう。

読んでいたラノベをリュックに入れ。背負って席を立とうとした時ーーー。


「一回だけだから。ね?」


男は伏見さんの手をつかみ、廊下まで引っ張ろうとしていた。


「だから興味ない!やめて!」


伏見さんは掴まれた手で抵抗して、男をにらみつけている。

伏見さん、震えてる...。


「ちっ...。なんでそんな強情なん?伏見さんって。」


周りを見渡すと、大半の生徒が下校して、残った一部の生徒はそそくさと教室を出ていく。

誰も助けてやらないのかよ...!


じゃあ自分が助ければいいんじゃないのか。


脳内では、美少女をかっこよく助けるなろう系の主人公を思い出していた。

いや、だけどそんな勇気は僕には...。


「いいじゃん、そんなに怒んなくてもさ。別に減るもんじゃないっしょ!」

「離して!」


...くそ!


「お、おい...。」


思わず、男に声をかけてしまった。


「...は?誰だよお前。なんか文句でもあんの?」


「い、いや!あの...その...。そういうのは...。」


どうしようどうしようどうしよう。

何を言えばいいんだ?やめろって言えばいいのか?

そしたらどう考えてもろくな目に合わない!

思わず萎縮して敬語になってしまっていた。


「はきはきしゃべれよ!おい!」


男は伏見さんをつかんでいた手を放し、

僕の胸倉を掴み、睨みつける。

やばいやばいどうしようどうしよう。


その時、廊下から声が聞こえた。


「おい!お前、何をしている!」


「...ちっ!」


誰かがこっそり担任を呼んでいたらしい。


「ひとまず職員室まで来い!」


「くそっ...覚えてろよ!」


男は僕と伏見さんに睨みを利かせた後、担任のほうへ向かって行った。

ほっと胸を撫で下ろす。


「...ねぇ。」

「...え?」


伏見さんが僕に声をかけてくる。なぜだろうか。

もしかして助けたからお礼を...。

いや、もしかして。

さっきの光景を思い出す。

男に掴まれている時に、小声で、気弱そうに声をかける陰キャ。

しかも、言い返されてどもっていたし、助けられてもいない。

やばい、どう考えても恥ずかしすぎる!というかキモ過ぎる!

「いや、その...。」


絶対「そういうのキモい」とか言われるパターンだ。

というかそうじゃなくても、こんな美少女と話すとかコミュ障には無理すぎるだろ!

気づいたら、思わず、その場から走り去っていた。


「え、あ、堀田...!」


自分を呼び止める声を無視して、騒ぎで人が集まっていた廊下を走り抜けた。

ていうかほぼ初対面なのに呼び捨てだし、絶対キモいとか思われてたな。

これでよかったんだ。これで。


「...お礼言う前に、行っちゃった。」


きっと伏見さんなら、これ以上声をかけることは無いだろう。明らかに人と関わらないタイプだし。

まさかこの出来事が、僕の高校生活を変えるとは、思いも寄らなかったーーー。


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