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俺たちはお金を稼ぐために、一旦外に出た。
街道を歩き、周囲を見て回る。
ていうか俺ナチュラルにこの少女と同行してるけど、何してるんだろう。本来完全に無関係の他人だよな? いっそのことダッシュしてまくか? いや、でもさっき道を教えてもらったりもしたしな、案外教えてもらうこともあったりするのかな。
「そういえばさっきはすごい魔法だったわよね。あんな魔法見たことなかったわ。やっぱり只者じゃなかったのね。私の目に狂いはなかった。さあ! 暇な私にどんどん新しいものを見せて!」
「狂いまくってるよ」
「これはどこまでもついていくしかないわね。もう決めた、意地でもどうなってもついていくわ」
「ガチで勘弁して欲しいものだ」
とはいえどうやってお金を稼ごう。あの串焼き屋さんみたいな屋台で働くか? でもあんな小さい屋台でバイトなんか募集してないだろし、そんな中押しかけても迷惑か? もう考えれば考えるほどわからなくなってくる。ここは付き添いの金魚のフンに聞いてみよう。
「なぁ、どうすればおいらはお金を稼げるようになるかな」
「そんなの簡単でしょ。働けばいいじゃない。働きまくればその分だけ対価を得られるのよ。それはこの世の常識でしょ。そうね、そんなにわからないというのでなら、あなたにピッタリの働き場所があるにはあるわ」
「ぜひ教えてくれ」
俺はハクナに連れられ、とある建物の前までやってきた。
「ここは?」
「冒険者ギルドよ」
「そうくると思ったぜ。まぁいいや、こういう普通のところが俺にとって一番落ち着くからな。マサトキはここがいいんだ。俺だからここでいいんだ」
俺は扉から中に入っていた。
内部は外観同様かなり広かった。
正面に受付のような場所があり、右手には広々とした酒場のようなスペースがある。
受付まで歩いていった。
「らっしゃい! 何をごしょもうでい!?」
受付嬢が、そんなふうに挨拶してきた。
「えっと、すみません。ちょっと場所を間違えたかもしれないです。僕は魔物やらモンスターやらを腕っぷしでやっつけるためにここを訪れたんです。冒険者になりたいと思いましたので」
「それなら間違ってないですよ、ふふふ」
受付嬢は二十代前半くらいのきれいな人だった。
小悪魔的に笑う笑顔もかなり素敵だった。
「びっくりしましたよ、なんか魚市場みたいなノリに感じてしまったので」
「ああ、それは私が最近ハマってる小説にそういうキャラが出てくるからですよ。『坂道を転がる』という作品なんですけどね。ご存知ありませんか?」
「ないですね、あいにくないです」
「それはもったいないですね。まぁこんな肉体だけが取り柄の脳筋な場所にわざわざ赴いてくるような人が、そういった文学に精通してるわけもありませんか。すみません、無理なことを言ってしまいまして」
この人は冒険者に一体どういう認識を持っているのだろう。しかもそこのギルドの受付嬢だろ? こんなので大丈夫なのか?
「それで、冒険者になりたいということでしたよね?」
「あ、そのとおりです」
「一つあらかじめご忠告の方させていただきますと、冒険者業はかなり過酷で、新人冒険者の方は二ヶ月以内に四割程度死にますが、それでもやっていく覚悟はありますか? なければ今のうちにお引き取りになられたほうが、親御さんも悲しまれずに済むかと思いますが」
「いいえ、大丈夫ですよ。僕は運がいいので」
「はぁ、まぁ大抵の人はそういうんですよ。自分に謎の自信を持ってるんですよね。そしていざ自分に危機が降りかかると、自分のことそっちのけで他人に責任転嫁してくるんです。あなたはまさかそういうヒトじゃありませんよね?」
「無論、だいじょうぶです」
「でしたら問題ありませんが。釘を刺しただけですわかりますよね? それでは手続きを行いますので、まずは話をお聞きになりながらこちらの用紙にご記入ください」
その後俺は冒険者についての様々な説明を受けた。
そんなには長くなかったが、中身はかなり詰まっていたように思う。
ギルドのルールだったり、依頼の受け方だったりといろいろ教わった。
そしてまもなくして俺の冒険者登録が完了した。
「こちらが冒険者カードになります。冒険中はつねに身につけておいてくださいね。死亡した場合に身元確認に使われますので」
俺は紐付きのケースを貰った。中に冒険者カードが入っている。ケースは薄い金属が貼り付けられており、うっすら重い。これを首にかけておけばいいんだな。カードには俺の現在のランクを示す『Fランク』という表記があった。
「あら、登録は終わったみたいね」
酒場の席で待っていたハクナが話しかけてきた。
「まぁね。楽勝だったよ。それにしても君は登録しなくてよかったのかい?」
「わーい、なぜ? 私がなぜそのような浅はかな身分に縛られなければならないの?」
「だって、お金を稼ぐなら、この世の仕組みに基づいて行動しないといけないだろ? 例えばこうやって組織に加入して、成果を出してお金を得るんだ」
「それはあなたの考え方でしょ? もし私が本気でお金を稼ごうとするなら、そのへんの身分の高い人をさらって脅しでもすればイチコロよ。それこそ適当な人を殺して金品でも奪えばいい。こそ泥っぽくてやだけどね」
「はぁ、価値観の違いってあるもんなんだな」
「そのほうが効率的でしょ。まぁ今はあなたのやり方に付き合ってるから、そんなことはするつもりないけど」