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「私が冒険者登録? そんなことしてなんになるというの、犬の餌にもならないわ。私が別に冒険したいとかお金を稼ぎたいとかいう思いはないし。私はこの人にただついていくだけだから」
「うーん、そうか。たしかハクナちゃんと言ったかな。君に堅い意志があることは理解したよ。その意志はもちろん尊重はするところだ。もしも少しでも気が変わったとかであれば、我々は喜んで君を歓迎するとだけ伝えておこう」
そういったところで、ギルドマスターとの面会はおしまいになった。
なんというかかんというか、とにかく俺という人材を囲いたかったという結論になるのかな。
「それじゃあ冒険者カードだけ預からせてもらうよ。君はこれより正式にこの街のDランク冒険者だ。精進してくれたまえ」
「ありがとう」
俺はとりあえず冒険者カードを渡し、ロビーにまで戻ってきた。
「さ、とんだ邪魔が入ったけど、結局俺達はお金を稼ごうとしてるわけだよな」
「Dの依頼でも受けたら? 適当に五個くらい受けて、一気に稼いでしまいましょ。そしてその稼いだお金を投資に回すのよ。そうするとどんどん利回りが良くなっていくと思うわ」
「投資よくわからないんだよ。頭がいい人がやるやつだろあれ」
「私ある程度わかるから、私に任せてもらえれば管理してあげるわよ」
「まじかよ。でもハクナのことは全然信用できないから、やめとくわ」
「いまさらお金がなんだっていうのよ。かりに私が信用できなくても、ちょっとしたお金がなくなるくらいのリスク別に許容できるでしょ」
「いやー、どうだかな。俺はかなりの確率でハクナがお金を散財してしまうんじゃないかと睨んでるけどな。へんな高いブランドの買い物とかに使い込みそうだ」
「そんなの興味ないわよ」
「マサトキさーん!」
受付嬢がよってきて俺に冒険者カードを手渡してきた。
見てみると、確かにEランクだったところがDランクに変わっている。
「なんだかすごいですねマサトキさんって、ギルドマスターからあんなにも評価された人なんて、私が配属されてから始めて見ましたよ」
渡してくれた受付嬢はかなり気さくに話しかけてきた。
小柄で可愛い感じだ。
「そうなのか、まぁそんなに期待されてもという感じだけど……」
「いや、もうこれは間違いなく期待されまくると思いますよ。ギルマスからこんなに押されててそれだけの実力の持ち主であればこれからどんどん知名度も上がってくるでしょうし。私も陰ながら応援してますよ。頑張ってください」
受付嬢は去っていった。
「うーん、まぁ周りの評価なんて気にしても仕方ないといえば仕方ないし、俺は俺なりに目的を果たすだけだな」
「というかいつかはこんなちんけな街からはいなくなる予定なんだから、深く考えても仕方がないでしょ」
「そうなのか?」
「それはそうよ。魔族の本拠地なんてこの街の近くどころかこの国の近くにもないし、なんならこの大陸にすらないんだから。どんどん色んな場所に言って、いろいろ装備やらアイテムやら技術やら仲間やらを取りいれていかないと」
そういやそんな話だったか。魔王を倒すんだったよな。俺ってば気を抜くとすぐに忘れそうになっちゃうからな。
「まぁまずは眼の前のことからだ。どの依頼がいいかな。全然わかんないや、もう例によってハクナが決めちゃっていいぞ」
「そう言われても本当に適当に依頼用紙を剥ぎ取るだけになっちゃうわよ。この際だからさっきのギルドマスターやらに聞いてみたら?」
まぁより詳しい人に聞くのがベストという説はあるかと思った俺はギルドマスターを呼び出し、選んでもらうことにした。
「そんな適当でいいのかい? 僕は立場上責任を持てないから、あまり選んであげることは本意ではないんだが」
「余計なことは考えなくてもいいですよ。じゃあそうだな。このDランクの依頼の中で一番稼げる依頼を教えていただけませんか? これなら答えは決まっている質問だから、選ぶ責任も発生しないだろ? あなたに効かなくとも他の詳しい人に聞けばわかることだし」
「それならまぁ……うーん、そうだね、これとかはどうだい?」
ギルドマスターのおっさんは一つの用紙を指さした。それはDランクの依頼ゾーンの一番右上に位置する用紙だった。
「これは?」
「石炭山という山が馬車で二日くらいの位置にあるんだけどね、そこにどうもドラゴンが出没したという噂が入っているんだ」
ドラゴン……こりゃまた一気にオークから出世したな。さすがはDランクってところか。ドラゴンとか明らかに強そうだもんな。
「でもドラゴンがDランクの依頼だったら、Cランク以上の依頼は一体どうなっちゃうんだ……」
「まぁ確かに普通はドラゴンともなれば、最弱種のワイバーンですらBランクの依頼になるくらいの魔物だ。でも今回はあくまで噂にすぎないし、出現するドラゴン自体もストーンドラゴンというドラゴンいしてはそこまで凶暴性はない魔物だ。しかも依頼内容も調査だからね。情報の発端はその山の近くにある村から発足したものだから、その村の人達と情報をすり合わせて差し迫る脅威度はどんなものかを測ってきてほしいんだ。とりあえず火口付近まで行ってもらって、そこで何もなければドラゴンはいなかったということにしていいと思うんだけど」