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俺達は身銭を稼ぐべく冒険者ギルドへやってきた。
「さーて、来たのはいいけどどうするんだろうここから」
「バカなの? ここは完全にいい感じの場所よ。依頼を受けるのにいい感じの場所なの、分かる?」
「つまり依頼を受ければいいってことだな。確かに言われてみればそれしかないよな。よーしならば早速腕立て伏せから――」
「お、おい、見ろよ、あいつじゃないか?」
「ああ、背中に羽根が生えてる女……妙なコスプレ女ってあいつのことだろ?」
冒険者ギルドに入ったのはいいが、なんだか周りが騒がしかった。どういうことだ、俺達の方に視線が集まってるような気がするが、これは本当に気の所為じゃないのだろうか。俺は気の所為な気がしてならないんだが。
「なんだか視線を感じるな」
「そうね。私の類まれなる第六感もなんだか視線を感じると訴えかけてきているわ。だから視線を感じるというのは間違ってないと思うわ」
「まぁとはいえ気にせず依頼を選ぼうぜ。俺達のやることは変わらないはずだ」
「おーい! 君たち!」
依頼ボードで依頼を吟味しようとしたところで、受付の方から一人のおっさんが走ってきた。
なんだあいつ。制服を来てるからギルド職員なのか?
「俺達に何か用ですか?」
「ま、間違いないか確認させてもらいたいんだけど、君がもしかしなくてもマサトキくんかい?」
そのおっさんの視線は俺の隣にいるハクナに向けられていた。
「私がマサトキ? 違います。こっちの人が、マサトキです」
ハクナは俺の方を指さした。
「なんと! これはすまない。聞いた情報だと背中に変な羽根を生やした女の子だと聞いていたからね」
「それでなんのようなんです? 不審者ですか? 誘拐目的なら、こちらの子を差し上げますよ」
「はぁ、本当にやめてよね。私が人質になるってこと? そんなの嘘、本当にごめんよ。こんなおっさんに誘拐されるなんて、ヘドを吐き出そうにも吐き出しきれないわ。もう胃がずかんずかんになっちゃうわ」
「そんなぁ。ひどい言われようだな。大丈夫、僕は君たちを誘拐しようなんてこれっぽっちも思っちゃいないから。そんなことをしなくても、誘拐しようと思えばそのへんの弱い人を誘拐しちゃえばいいわけだし」
「え! 誰かを誘拐するつもりなんですか? 俺がそれは許さいぞ! このマサトキが正義を執行しちゃうぞ!」
「じょ、冗談だよ。ほんの冗談じゃないか。そのくらい分かっておくれよ。場を和ませたいのジョークだろ? すごいいい感じに和んだと思うんだ。許しておくれよ。さて、こんなふざけてる場合じゃないんだ。君がマサトキくんだというのであれば、それはもうとんでもないことをしてくれたね」
おっさんはなんだか急に威厳をまとい始めた。
「そんなことを急に言われても身に覚えがないし。そもそもあなたは誰なんですか?」
「私はギルドマスターだよ。完璧なるギルドマスターだ。これは僕が勝手に名乗っているわけではなく、きちんと手順を踏んで、一からしっかり着実に上り詰めた結果なんだ。だから僕は完全無欠のギルドマスターなんだよ」
なんと! このギルドのギルドマスターだった!
「これはすみません、大変失礼なことを何度も言ってしまった気がします。どうかお許しください」
「いや、いいんだよ。こっちもすぐに名乗らなかったのが悪いんだ。そんなことより聞いたよ。オークをいっぺんに大量討伐したんだって?」
「え?」
なんのことかと思ったが、そういえば俺たちは昨日オークを討伐してその報酬で宿に泊まれたという流れを思い出した。
「ま、まさか覚えていないのかい? 君にとっては、その程度のささいなことだったというのかい?」
「いや、覚えてるさ。しかしそれがなんだというのかが全くわからないですね。それがなんだというんですか?」
「ふお! まさかとは思ったが君は大物のようだ。これは新たな希望だ。絶対に手放すわけにはいかないぞ! よし、頑張るんだ私! このモノを絶対に引き入れてみせるぞ!」
「まぁよくわかりませんが、僕たちはちょっとすぐにお金を稼がないといけないんです。用がそれだけならあまり邪魔をしないでいただけると助かるのですが」
「そ、そんな冷たいことを言わないで! ん? お金を稼ぎたいと言ったかい? それなら容易い御用さ! 僕はギルドマスターなんだ、いい話をたっぷり持っているよ!」
「なに? つまり稼げる話があるということですか?」
「その通り。ちょうどいい、ここではなんだから、そのへんの話も含めて少し二階に上がらないか?」
えー、なんだろう、急な展開だけど、なんかいい感じの話があるということらしい。これはもう素晴らしいんじゃないか? 素晴らしすぎて、どうにかなるんじゃないのかな。。
「てことだけどハクナ、どうする?」
「私はあなたについていくだけよ。もしもあなたがこのおっさんの話を聞いて、気に入らない部分があったならば、あの大猿に化けて、再び暴れ回ればいいだけの話でしょ?」
「それはそうだな」
俺は大人しくおっさん、もといギルドマスターについていくことにした。どんな話が待っているのだろう。楽しみすぎるわ。