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「どうしよう、やっちゃったよ。完膚なきまでにやっちゃったよ」
俺は村人らしき女と男をキルしてしまった。
「知らないわよ、私だってこんなケースは初めてなんだから」
「まぁバレないうちにどっか行くしかないよな、もうこの村を訪問することは諦めよう」
「だったら依頼はどうするの?」
「確かに……仕方ない。遺体を遺棄しよう。とりあえず森の仲間で引きずり込もう」
俺はハクナに手伝ってもらい、遺体を森の中に引きづっていった。
その間誰かに見られた感じはなかったので、たぶんバレてないだろう。そう思いたい。
「すみませーん」
俺は改めてラランの村を訪問した。
できるだけ穏やかに、そして何気ない旅人を装う。
こうすることで、まさか俺が先程村人を殺めてきたばかりだとは誰も思わないだろう。
「おお? 誰さー?」
村人の人が俺達に気づいた。
「すみません、僕たちははぐれオークの討伐の依頼を受けてやってまいりました。事情をご存知の方はおられますか?」
「あ、ああ! 救世主だっぺか! ちょ、ちょっとまつだ、今呼んでくるだら」
「ああ、あんたらが冒険者か。なんだ、ずいぶんと軽装じゃないか? 荷物の一つも持ってないようだが」
少し待っていると、片目を失っている男が出てきた。
かなりいかつい感じで、結構強そうだ。
「僕たちには僕たちのやり方があるんですよ」
「そりゃそうだ、失礼なことを言ったな。俺達が求めているのは結果だからな。おっと申し遅れた。俺はこの村の村長を務めるベーリングスだ。俺も昔は冒険者をやっていたんだがな、この有り様だ」
男は自らの片足に目を落とした。よく見てみると、片方の足だけ妙にすぼんでいる。どういうことなんだろうと思っていると、ハクナが「義足なんだと思うわ」と小声で教えてくれた。なるほど。
「とにかく少し先にある川原でオークを見かけたつうやつが複数人いてな。いることは間違いないが、数が何匹いやがるかなどはわからねぇ。そのへんの調査も込みの依頼だな」
「え、僕たちははぐれオークを討伐するだけのはずですが。そういった簡単な依頼を受けてきたつもりですよ、だよな?」
「ええ、そうね。その認識で間違いないと思う。もしかしたらやり取りの中で齟齬が生じたとか?」
「そうなのか? まぁ確かに見かけたオークは一匹だけとは聞いてるが、それが同一個体だとも限らねぇしなぁ」
「まぁそう言われれば確かにおんなじだって保証はないね」
「多分だけど、ギルド側が勝手にはぐれオークだと邪推したんじゃないかしら。きっとこれまで経験とかパターンとかそういうところから推察したんだと思うんだけど」
「まぁいい、そういうことならひとまず近くをうろつくオークを討伐してくれりゃいいぜ。それでもまだでるっつうなら複数匹いるってことが分かるしな」
村長が折り合いをつけてくれた。
はぁ。よかった。まじでどうなってんだろ冒険者ギルド。入って初日でなんだか微妙に不信感がつのっちゃったぜ。
ということで討伐に動くことになった。
「さぁ、オークを探しましょうかね。このへんの川で見たってことだよな? はぁにしてもつかれた」
俺達は村から歩いて五分ほどのところにある川までやってきた。ここで目撃情報があったらしい。山でごつごつしてるから少し歩くだけでも疲れるんだよなぁ。
「どうやって探すのかしら?」
「知らないよ。ハクナがちょっと走り回ってきてよ」
「私は動かないわよ。あなたに付いていってるだけって何度も言ってるじゃない。というかなんでこんなしょうもないオークの依頼なんか受けてるの? 歩くの普通に疲れたわ」
「俺が聞きたいわ。なんで異世界に来てまでこんなことをしなきゃならないんだ」
「異世界……?」
「なんでもないです。よーし、頑張って探すか」
俺はそのへんを走り回った。
木々を巧みにかわしながらカモシカのように走り回り、川にダイブしバタフライで水しぶきを上げる。溺れかけたのでハクナに助けてもらう。そうしているうちに時間だけが過ぎていった。
「もう無理だ。疲れた。ずぶ濡れだし、もう帰ろう」
「何を言ってるの頭おかしいの? もう仕方ないわね。私が上空から見てきてあげるわ」
ハクナが翼をパタパタさせ、空高く飛んでいく。
そんなことできるのかよ。翼って偽物じゃなかったの?
俺が石に腰掛け休んでいる間に、ハクナがそんなに時間もかからず降りてきた。
「枝葉が邪魔でよく見えなかったわ」
「何しに言ってたんだよ!」
「でもオークは見つけた。それも三匹で行動してたわ」
ええ。ごめんなさい。
「じゃあ行こう。早速いこう。こんな理由のわからない依頼。早く片付けよう。そして早くあの高級宿にとまって寝ようぜ。おんせん、おんせん」
俺はますますテンションが上ってきた。
ハクナの先導のもと歩いていくと、ハクナが止まれの合図をしてきた。
「この先よ。あんまり物音は立てないでね、オークは鼻がいいと思うから」
「耳じゃないのか?」
俺の疑問の言葉さえもうるさいと黙らされた。
木の葉の影から見てみると、確かにでかい二足歩行の豚が三匹並んで座っていた。
何かよくわからない……イノシシか? なにかの肉を食っている。
「チャンスじゃないか。やっちまうか?」
「任せるわ」