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第一章 11


「どうやったら、こんな街を造れる位のお金持ちになれるのかな?」第二十チームのアップルは、両手でエッグを運びながら、隣を歩いているアミダに直接言った。

 第一ラウンド開始から三十四分が経過していた。

「個人では不可能でしょうね」アミダは360度と上空も警戒しながら答えた。

 今、二人がいるのは、オフィス街を模したエリアだ。二十階建てもある高層ビルが何棟も並んでいる。表通りは見通しが良く、今は走っていないが、車が六台も並んで走ることが出来る。ラジコン飛行機なら滑走路代わりにもなるだろう。ただ、裏道は古い建物が入り組んだ迷路のようになっている。建築時期は同じはずなので、そう見せているだけだ。

「もう、元は取れてるのかな?」アップルはレプリカタウンを見ながら直接言った。

「まだでしょうね。何十兆という利益を挙げているようには思えません」アミダも直接答えた。

「どんな人が造ったんだろ?」

「純粋な人が沢山の人を騙したのでしょうね」

「純粋な人が嘘を付くの?」

「可能性の一部を提案したのでしょう。でも、その人には全く興味のない事柄だったはずです。ただ、その提案で協力してくれる人が沢山増えるとは、考えていたはずです。正直に全てを話すのではなく、都合のいい部分を搔い摘んだのでしょう」

「なんか、詳しく知ってそうだね?」

「色々とコッソリ動いたことがありますので」アミダは微笑んだ。

「なんでこの大会に出たいって言い出したの?」

「ベルさんとお手合わせをしてみたかったからです」

「ふーん。ベルには私も興味はあるけど、絶対勝てないし」

「私も勝てません」

「なにそれ?」アップルは声に出して笑った。「あいつは?十一チームのスパイダ」

「あれも無理でしょう」

「でも、一泡くらい吹かせたいね」アップルは恐怖と紐づけされている記憶を思い出した。

「今回は、失敗しても怪我をするわけでも、殺されるわけでもありませんので、お気楽にいきましょう」

「なんか、あいつ、この前のと違ってたよね?」

「こっちが本命なのでしょう。前のは、プロトタイプだったのかもしれません」

「手も足も出なかったけどね」

「私たちも高性能になっています。……それは、そうと、周りを囲まれているのに気づいていますか?」

「周りを?知らなかった。窓から覗いているやつを一人だけ見つけてはいたけど」

「もう少し引きつけましょう。逃げられてしまうかもしれません」

「不便なルールだよね。エンプティを排除する方が何倍も難しいのに10ポイントしか、くれないんだから。もし、こいつらがエッグを持っていなかったら、最高で50ポイントだし」

「エッグを運んでいるエンプティがいました。どうやら、彼らの拠点に近づいていたようです」

「私も戦ってみたいな」

「それは、第二ラウンドからにしましょう。それより、エッグを持ったエンプティに逃げられないように、後を付けておいてください」

「うん。わかった。そいつはどこにいるの?」

「二時の方角に逃げていました。彼らの配置から考えて、その方向のどこかに隠れているのでしょう」

「じゃ、もう動いていいよ」

「他のチームからの横槍に気を付けて下さい」そう言うと、アミダは物凄いスピードでいなくなった。

 後ろから音がした。ぶつかる音。

 アップルは、右手を天に伸ばしてその上にエッグをバランスよく乗せた。片手で持つにはこの方法以外にないからだ。どの方向からの攻撃にも対処が遅れる姿勢だ。エッグの防衛は、その大きさから、かなり無理がある。

 二時の方角に走った。別の方向からまた、ぶつかる音。あっちは、順調に進んでいるようだ。

 どうして、チームメイトは、こんな表舞台に出てきたのだろう?

 彼女に頼まれたのだから、断る理由もない。ただ、彼女から最も離れた行為だと思っていた。承認欲求を満たしたいわけではないだろう。それだけは確かだ。ベルと戦うのにそんなに価値があるとは思えない。

 だとしたら、スパイダにリベンジでもしたいのだろうか?でも、それも彼女に対するイメージとは離れている。

 アップルは、敵の捜索を続けたが、姿が見えなかった。建物の中に隠れたのだとしたら、探し出すのは、簡単じゃない。なんせ、この第三レプリカタウンは、構造物の中も精巧に作ってあるからだ。部屋があり、階段があり、家具がある。普通の人が住めばいいのに、生身の人間の立ち入りを禁止している。エンプティでのみ、入ることが出来るのだ。

 一般の建築物では、エンプティが全力で跳躍した時に、床に穴があいたりする。常にセーブして行動しなければならない。一般的に普及している、量産型のエンプティは、ソフト的にそれを制御してある。

 よくあるレプリカタウンは、建物の中には入れない。屋根や壁を移動する為に存在する箱として役割しか果たさない。それでも、とんでもない金額が掛かるだろう。

 アップルは、敵を見つけた。走って逃げている。

「ラッキィ」アップルは呟いた。敵はエッグを持っていたからだ。近すぎず離れすぎずの位置でそのエンプティを追った。勿論、対象以外に注意を向けていた。対象は狭い路地に入って行った。後を追うと、突き当りで右に曲がる姿が一瞬だけ捉えた。かなり、入り組んだ路地のようだ。素直に後をついて行くのは、リスクが高い。アップルはマップを展開して、逃げる先を予測した。選択肢が二つに分かれているので迷った。

「そっちはどう?」アップルは通信でアミダにきいた。

「いま、三人目を排除しました」

「終わったら、この地点に来て」空間に展開されたマップの一部にアップルは指で触れた。その地点がマークされ、その位置情報をアミダに送ったのだ。アップルは、もう一つの選択肢に向かって走った。路地を通らず、屋根を伝って走ることにした。一般人の攻撃なら、問題なく躱せるけど、ここにいる人たちは、かなりの実力者たちだから、警戒した方がよさそうだ。世界ランカほどではないが、出場者の何人かは知っている名前だ。

「ビンゴ」敵が走っているのを屋根の上から確認した。アミダにも連絡しておいた。敵はこっちに気づいていないようだ。目標は、路地の間を走っている。

 ……。

 隙だらけだ。

 今なら私でも破壊出来るのではないだろうか?

 卵を置いていくわけにはいかない。敵が向かってきたらすぐに逃げる。でも、不意を突けば、簡単に終わるだろう。

「四人目は排除しました」アミダから通信があった。

 だったら、もういいか。

 周りを警戒する必要もない。こいつだけに集中できる。

 屋上から壁を蹴るように走り、対象に向かって一気に詰めた。向こうは気づいていない。足が壁から離れる前に、壁を蹴り、反対側の建物の壁まで跳んだ。そして、着地と同時に壁を蹴り、来た壁まで戻る。それを繰り返して、ジグザクに跳んで移動した。

 あと、五メートル。

 いける。

 …。

 敵が卵を置いて、振り返った。

 気づかれていた。

 音か?

 壁に着地した時に、急いで方向を変えた。ただ、敵もこっちに詰めてくる。

「邪魔」卵を上に投げて、臨戦態勢に。

 敵は目の前。

 もう、逃げられない。

 だったら、カウンタをくらわせてやる。

 あと一メートル。

 体か?頭か?脚か?

 ………?

 私の攻撃は空振りに終わった。

 地面に着地して、落ちてくる卵をキャッチした。

 振り返って、敵の方を見た。

 ニッコリと笑うアミダと、動かなくなった敵の姿。

「これで50ポイントです」アミダは言った。

「ごめん」アップルは謝った。

「いえ。意識が集中していたので、簡単に隙をつけました」

 アミダは、音もなく現れて、あっという間に敵を排除したのだ。あの敵がアミダほど動けたら、私は卵もろともやられていただろう。その敵は今、十メートル以上吹き飛ばされて地面に倒れている。

「これでボードが買えますね」アミダはそういって、第三チームのエッグを破壊した。


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