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心霊探偵の事件簿

作者: sordmany

【飛んで火にいる夏の虫】

 宣託市内某所。住宅が燃えていた。消防隊が消火活動に当たり、近隣住民が様子を見ていた。その中で、茶色のコートを着た男は、帽子を深くしてその場を去った。その男、又次郎丸は私立探偵であり、ある依頼を受けていた。その依頼とは、近頃不審火による火事が数件起きており、しかも火事のあった現場は近所であることから関連性が考えられ、その原因を突き止めてほしいという内容だった。次郎丸は連続する火事を事件と考えていた。しかし、只の事件ではなく、得体の知れないものが原因と睨んでいた。

「この事件、どうもおかしな点がある。確かめなけりゃ分からない。」

次郎丸は、空き地に来た。そこで、光沢のある金属製のキセルを取り出し、ライターで火をつけようとした。するとその時、ライターの火が勢いよく燃え上がった。

「おお。思った通りだ。こいつが犯人か。」

それは、人型をした火の塊だった。

「美味い美味い。もっとよこせぇ!」

「お生憎だが、タダで何個も渡せるほど余裕はねえんだ。」

「嘘だ。匂うぞ。まだ持ってるものをよこせぇ!」

火の塊は次郎丸に近づいた。次郎丸は懐中電灯を取り出し、光を当てた。

「うがあぁ!苦しいぃ!」

「ガスは燃えると光を出す。反対に光を当てればガスは分解するっていう仕組みだ。火の後始末はきちんとしなくちゃならない。」

次郎丸は、キセルを口につけると思い切り吸い込んだ後、勢いよく煙を吐き出した。

「うーん、うまい。」

この後、不審火による火事は収まった。報道では、火の不始末と報じられた。

「あんな奇妙奇天烈なもの、信じてもらえないからな。」

次郎丸は、キセルで煙を吐いた。


【猿も木から落ちる】

 宣託市内某所。各分野の名人たちが一同に集まっていた。会場には観客が大勢集まっており、警備も厳重だった。そこに、二人の警官が警察手帳を見せ、中に入ってきた。

「ご苦労様です。私たちは中に用がありますので入ります。」

二人のうち若い方の警官が言った。もう一人の警官はサングラスをかけ、口にはペロペロキャンデーを咥えていた。その警官はキャンデーを取り、言った。

「影里。あの白髪の老人だ。」

「はい。鮫瓦さん。」

二人の警官は、皿回しの名人の前で密かに見守った。

「さあさあ、見ていってくだされ。今日は多くのお客様がいなさる。そこで、いつもより多めに回しますぞ。」

皿回し名人は器用に両手を使い、皿を何枚も回した。観客からは大きな拍手が起きた。しかし、その直後、名人はバランスを崩し、皿が落ちてしまった。

「おおっと、こういう時もある。人生は何が起きるか分かりません。気を取り直して、もう一度。」

名人は再び皿回しを始めた。しかし、また名人はバランスを崩し、皿が落ちてしまった。

「これはこれは。やはり年のせいかのう。」

その後も名人はめげずに何度も皿を回した。しかし、同じことの繰り返しだった。ついに、名人が膝を折った。その時、二人の警官は動いた。

「影里。反応が変わった。追うぞ。」

「はい。」

二人の警官が追った先にいたのは、玉回し名人だった。名人は、急に調子を崩し、玉を落とした。

「あれ?さっきまで出来てたのに。もう一回。」

玉回し名人が再び玉回しをしたが、失敗した。

「どうしたんだ。すみません。」

二人の警官はこの時を狙っていた。鮫瓦が塩をまきながら、会場の隅に移動した。

「今だ!影里!」

「はい!」

影里が銃を取り出し、会場の隅に発砲した。

「うがあぁ!折角良い獲物がたくさんいたのに・・・」

その後、皿回し名人も、玉回し名人も失敗することはなく、会場は大盛況だった。皿回し名人は探偵事務所を訪れた。

「次郎丸さんの言う通り、諦めずに続けたら成功できました。有難うございました。」

「私は何もしていません。成功は名人の力です。」

影里は鮫瓦に言った。

「今回が初めての成功でした。鮫瓦さんの適格なサポートのお陰です。」

鮫瓦はキャンデーを取って言った。

「いや、影里が優秀だった。それだけだ。今後も頼む。」

「はい!」

影里は少し前にいる鮫瓦の方に走った。


【灯台下暗し】

 二人の警官、鮫瓦と影里は廃工場にいた。

「新しい反応はここですね。」

「ああ。」

二人は廃工場の中を慎重に進んだ。その時、四方八方に気配を感じた。

「鮫瓦さん。囲まれてます。」

「ああ。反応も一つじゃない。」

二人が警戒していた時、頭上から古びたパイプが落ちてきた。咄嗟に、二人は避けたが、離れ離れになってしまった。影里は起き上がると、銃を構え、慎重に進んだ。その時、影から敵が姿を現した。

「我を捕らえられるかな?」

影里が銃を発砲し、敵に命中した。しかし、敵は別の場所から現れた。

「一体どうなってる?」

驚く影里に、敵は嘲笑して言った。

「撃ったのは我の分身だ。我の実体は一つ。さて、見破れるかな?それとも、その前に死ぬかな?」

そこに、鮫瓦が現れた。

「鮫瓦さん!どこに行ったかと思いましたよ!」

鮫瓦は答えず、銃を構えた。

「見破れなかったな。」

「まさか、鮫瓦さんが・・・。」

その時、分かれた線状の体が集まり、成年男性が現れ、鮫瓦の銃を蹴った。

「しまった!もう一人いたとはな。一度出直そう。」

鮫瓦が意識を失い、倒れるのを影里が支えた。

「鮫瓦さん!しっかりしてください!」

成年男性はそれを見て去ろうとした。

「君。君は一体誰だ?」

「僕はオカルト。心霊現象を追うことが趣味の会社員です。」

オカルトという成年男性は線状に分かれ、消滅した。その後、影里は出来事を鮫瓦に報告した。

「そんなことが。オカルトか。そいつも気になるが、心霊現象の方だ。俺としたことが不覚を取った。次は逃がさねえ。」

鮫瓦はペロペロキャンデーを噛み、棒の部分を吐き捨てた。

「待ってください。」

影里は棒を拾って、後を追いかけた。


【論より証拠】

 宣託市内某所。住民が中庭を見ていた。すると、庭にある植木鉢や置物が浮遊した。驚いて住民は立ち上がり、尻餅をついた。腰を擦りながら、探偵事務所を訪れた。そこにいる私立探偵、又次郎丸が話を聞いた。

「それは奇妙ですね。調べてみましょう。」

次郎丸は、依頼を受けた住民の家の中庭を捜索した。

「どこもおかしな点はないですね。もしかすると、これは心霊現象の可能性があります。もしそうだとすれば、こちらから手出しはできません。また同じ現象が起きるのを待ちましょう。」

それから、次郎丸は日中、依頼を受けた住民の家で見張りを続けた。夜間の見張りは住民に任せ、次の日に報告を受けた。しかし、浮遊することはなかった。

「あれから3日間。全く起きる気配がありませんね。やはり、見張っていてはだめなようです。実はね、私も庭に置物を置いてみたのですよ。夜中に見張りをしていたら、つい居眠りをしてしまいました。目を覚ますと、なんと置物が浮遊していました。どうやらこれは不意を突く時に起きるようです。もう一点、浮遊する物は鉢や置物など磁器のみです。磁器といえば、昔中国が宗の時代に磁州窯で焼かれたことが由来で、磁力はないそうです。すると、磁器でなくても浮遊できそうですが、磁器のみを浮遊させています。おそらく磁器が割れた高い音でより驚かせたいのでしょう。失礼します。」

次郎丸は、置物を一つ持ち上げると、地面に叩きつけた。ぱりん、と高い音が響いた。

「ああ!驚いた!」

「出たな。お前の力では磁器を浮遊させるだけで割ることはできない。人を驚かすのは諦めるんだな。」

「わかったよ。シクシク・・・」

「泣き虫な霊だ。」

会社員、岡島流人は自分の体内にいるルートという霊の力で、泣き虫な霊に声をかけた。

「君、僕と力を合わせればもっと大きいものを浮遊できるよ。」

「本当?どうすればいいの?」

「僕の体の中にいればいい。ほら入って。」

岡島流人は口を開けた。泣き虫な霊は岡島流人の体内に入った。(余ハ、ルートト申ス。ココハ狭イガヨロシク。)(ボクチンハ、仲間ガデキテ嬉シイヨ。)

「君は、2人目だから、ルート2=1.41421356237・・・で、ヒトヨナキだ。」

(良イ名前ジャノウ。)(ボクチンハ、ヒトヨナキ。ヨロシクネ。)

「僕はオカルト。心霊現象を追う会社員だ。1人増やせて、安心した。ちょっとトイレ」

岡島流人は人通りのない公園のトイレに駆け込んだ。


【灯台下暗し2】

 二人の警官、鮫瓦と影里は上司に今までの成果を報告していた。

「ほう。失敗を仕向けたり、反応を分散させたり、一口に心霊現象といっても様々あるようだ。不思議なことに二件とも宣託市内で発生している。知らないだけで他にも心霊現象は起きているかもしれないな。鮫瓦、引き続き、頼んだぞ。影里はしっかり鮫瓦を補助してやれ。」

「はい。」

上司はブラインダーをずらして、外を見た。影里は自席に戻ると、パソコンを立ち上げた。

「新しい反応がないかチェックします。」

「ああ。」

鮫瓦は自席に座り、何もする様子もなく、足を組んだ。数分後、影里が言った。

「反応ありました。」

「どこだ?」

「又探偵事務所です。」

鮫瓦と影里は、探偵事務所を訪れた。

「失礼します。私たちは仕事のために来ております。」

「警察か。」

「おい、影里。反応はこの男からだ。」

「廃工場では世話になったな。」

又次郎丸は、灰皿を取った。しかし、灰皿を掴んだまま動かなくなった。

「くっ、こ奴、何て力で抵抗しやがる。」

その隙に、影里は次郎丸の腕に塩をかけた。

「うがあぁ!我はここまでだ。しかし、我の仲間が敵を取ってくれるはず・・・」

次郎丸が意識を失った。

「影里。囲まれてる。注意しろ。」

「そんな。さっきまで反応は一つだったのに。」

次郎丸が意識を取り戻した。

「そいつは違うぜ。俺の体の中にそいつらが全部入っていたのさ。」

驚く影里。

「安心していい。もう俺の中にはいない。」

鮫瓦が銃を撃った。

「うがあぁ!」

「おい、人の店で発砲するな。」

鮫瓦はキャンデーを取り、言った。

「先に言っておく。店を荒らす。すまない。影里。例のあれ、使え。」

「あれですか。わかりました。」

影里は鞄からバナナを取り出し、皮を剥くと、食べた。すると、影里の様子が変わった。

「僕の腕にかかれば敵の全滅まで10秒。」

二丁の拳銃で撃ちまくる影里。

「うがぁあ!」

あちこちで悲鳴が上がった。

「これで最後だ。」

最後の反応が消えた。

「無事業務終了です。ふう。」

「よくやった。反動が出る前に帰るぞ。」

「おい、人の店を汚しておいて、そのまま帰るのか。」

「仕方ない。影里。片付けるぞ。」

「はい。」

片づけをして、反動が出た影里を担ぎ、鮫瓦は探偵事務所を後にした。

「邪魔して悪かった。」

「もう依頼以外で来るな。」

無言で出た後、鮫瓦は思った。(最後の反応、分散したように見えたが、前のように逃げられたか。また倒すだけだが。)鮫瓦の予想は当たっていたが、その霊は弱虫だった。

「くそ、仲間がみんなやられた。ボクだけでは勝ち目がない。罪を認めてこの世とおさらばだ。」

そこに線状に分かれた状態の岡島流人が現れた。

「君、ちょっと待って。その力、役立ててみないか。」

「でも、ボクに出来るのは、分身くらいですよ。」

「それでいい。さあ、僕の中へ。」

岡島の口から霊は入った。

「君は、ルート3=1.73205080757・・・(ヒトナミニオゴレヤ)で、ヒトナミダと呼ぶよ。」(余ハ、ルート。ヨロシク。)(ボクチンハ、ヒトヨナキ。ヨロシク。)(ボクハ、ヒトナミダ。ヨロシクオ願イシマス。)

「賑やかになって安心した。ちょっとトイレ。」

岡島は人通りのない公園のトイレに駆け込んだ。

「心霊探偵と出会ったか。心霊を追う会社員ともいずれ会うだろう。」

警察署で上司が呟いた。


【焼け石に水】

 宣託市内某所。深夜。少年が金縛りにより、うなされていた。

「う、う」

その傍らにいた少女の霊が呟いた。

「あなたがいけないのよ。」

翌朝、少年は一睡も出来ておらず、目にクマが出来ていた。なぜなら、一週間ずっと一睡も出来ない日々が続いていたからだった。そして、少年は倒れた。

「それで、私に依頼をしてきたわけですね。」

又探偵事務所に少年が来ていた。

「君、何か心当たりはないかな。」

「僕は特に何も。ただ1つ、金縛りの間に同い年くらいの女の子がいました。」

又次郎丸は、少年について情報を得た。少年は、宣託市内の学校に通う学生で、勉学や運動は標準並みで、交友関係も人並みだった。特別に目立つところのないごく普通の少年だった。

「君の言う通り、特に何も変わったところはない。だからこそ、君だったのかもしれない。」

「どういうことですか。」

「推測だが、これは君に思いを寄せる者が起こしたと考えられる。本来、金縛りは心霊現象ではなく、一種の麻痺症状だ。君が見た少女は夢の中で見たことになる。しかし、ここ最近、私は心霊現象を解決する依頼が多い。仮に、金縛りを心霊現象とすると、最初の推測に辿り着くわけだ。おそらく霊感の強い者が君の近くにいるはずだ。」

「僕はどうすれば?」

「また金縛りがあったときに答えてあげればいい。」

その夜、少年は金縛りによりうなされた。

「う、う」

少年の傍に少女がいた。少女を見て驚いた。

「君は、同じクラスの畑神さん!?」

「ふふ。未開くん。やっと気づいた。」

「どうして?」

「教えてあげたかったから。もうすぐ大きな事が起きる。その前にあなたには逃げてほしい。」

「逃げるってどこへ?」

「とりあえず、この家を出て。」

「そんなこと言われても。」

「すでに他の階の人は去ったわ。」

「僕だけじゃなかったの?」

「警告はしたから。」

少女は、まるで本物の霊のように消え去った。少年がうなされていた。

「う、うわーーー!!」

団地の中の少年の住む部屋からとてつもない光が発せられた。その後、とてつもない炎とともに少年が飛び出した。


【焼け石に水2】

 宣託市内某所。少年がうなされていた。

「う、うわーーー!!」

団地の中の少年の住む部屋からとてつもない光が発せられた。その後、とてつもない炎とともに少年が飛び出した。火が燃え移りそうな状況を見て、慌てた。

「右手から火が出たから、反対に左手を使えば水が出る?」

咄嗟に思いついた事を試すと、とてつもない量の水が出て、火が消えた。

「本当に出た!…これはすごいぞ。」

少年は何かを企むような表情で何かを求めて飛び去った。タバコの火を探す人の所へ来ると、少年は右手で火を差し伸べ、断水した公園で流せず困る人の所へ来ると、少年は左手で水を差し伸べた。

「ありがとう。君は一体?」

「名乗るほどの者ではありません。」

少年は、要領を得たという感じで、人通りのない公園を、飛び去った。少年に助けられた岡島流人は呟いた。

「彼も僕と同じだ。追おう。」

少年の行動はエスカレートした。最終的には、巨大な火の玉で太陽光発電を促進させたり、巨大な水のカーテンでコンクリートによる地熱反射を和らげたりした。街を行き交う人はいつも見かけない光景に注意を向けた。それを見て少年は、自分がまるで神様にでもなったかのように思った。

「はは。みんなが僕を見ている。僕に感謝しているんだ。もっとすごいことをしなきゃ、もっと!」

「そこまでよ。未開くん。」

「!…畑神さん、どうやってここに?ここははるか上空なのに。」

「ある人に協力してもらったの。それより、落ち着いて聞いて。あなたの中に強力な霊が取り憑いてる。そのうち、未開くんは完全に乗っ取られてしまう。そうなる前に、霊を手放してほしいのよ。」

「畑神さん。霊が取り憑いてるから手放す、だって?そんなこと、できないよ。」

「未開くん。信じて。このままだと元に戻れなくなるかもしれないわ。」

「ごめん。僕は、行くよ。」

少年が右手で火を噴射して飛び去る時だった。

「行かせない。」

「どうして、畑神」

「わたしが守るから」

少女の目が白く光り、少年は石化した。少女は石化した少年を抱きかかえて住宅地の道に降りた。そこにいた岡島流人が少女に言った。

「良かったの?友達だったんだよね?」

「彼を止めることが彼の為になるから。それより、あなたの霊すごいのね。礼を言うわ。ありがとう。」

「礼にも及ばない、って言ってるよ。」

「そう。」

「ところで、君はその少年をどうやって石化させたの?」

「わたしの中にいる霊の力。それが対象に麻痺症状を与えて動きを封じるもので、強めれば石化させることができるものよ。」

「そうか。まさか僕以外に霊の力を持つ人がいて、こんな小さい子とは、驚いた。」

「怒るわよ。」

少女の目が光った。

「ごめん、ごめん。大人びてるから。ところで、彼の事はどうして気づいたの?」

「もともとわたしは霊感が強いから、彼の住む団地付近に強い霊の力を感じたの。」

「霊感。それはすごい。僕は今後も君が協力してくれたら頼もしいんだけど、どうかな?」

「いいわ。」

「ありがとう。ちなみに、僕の仲間はみんな決まった名前がある。君も付けていいかな?」

「いいわ。」

「それじゃあ、君は4人目、つまりルート4=2だから、ツーと呼ぶことになる。」

(若イ女子ガ仲間ニナッタカ。オカルト、気ヲ緩ムナカレ。)(ボクチンデ良ケレバイツデモ力ヲ貸スヨ。)(ボクノ分身ノ力モネ。)

「よろしく。」

「いやあ、挨拶が済んだところだし、トイレに行くね。」

「何故?」

(コレハオ決マリナンジャ。)

「じゃ、そういうことで。またね。ツー。」

走る岡島流人の背を見て、畑神は首を傾げた。

「霊は徐々に強まってる。今後もそれは続くわ。」

畑神は呟き、その場を後にした。


【災いを転じて福となす】

 宣託市内某所。鮫瓦と影里は上司に命じられていた。

「心霊現象の力が強まっている。直ちに、その原因を追究せよ。」

「確かに反応は強くなっています。しかし、その原因を追究するとなると、反応を追うだけでは無理があるかと存じます。」

「そうだ。先日、又と名乗る探偵に会ったと思うが、彼に協力を要請する。」

「それは何故ですか?」

「彼は心霊現象を多く扱う、いわば心霊探偵だ。彼の協力があれば、捜査は格段に進展すると考える。従って、二人は再び探偵事務所を訪れ、彼に協力を要請してくれ。」

鮫瓦と影里は又探偵事務所に向かった。

「鮫瓦さん、明らかに嫌そうですね。」

「ああ?そう見えるか。我慢しても表に出ちまうわけだ。どうも奴と俺は犬猿の仲らしい。」

「そうだとしても又探偵は僕たちの仲間になる人です。もうすぐ着きます。くれぐれも変な事言わないでくださいね。」

鮫瓦と影里は又探偵事務所の中に入った。

「邪魔する。」

「邪魔するなら帰れ。」

「ああ?邪魔するっていうのは挨拶だ。挨拶した奴に帰れっていうのか?」

「何だ?邪魔するということは特に依頼もないが何か用件があるという時に言う。私は依頼がないなら来るなと言ったはずだ。」

「何だと?」

「鮫瓦さん。言ったじゃないですか。この人は僕たちの仲間になる人ですから。」

「この男を仲間に要請?上司もきついことをおっしゃる。」

「私はお断りだ。私が仲間になるのは依頼者だけだ。」

「頑固野郎だ。」

「サングラスにペロペロキャンデー。変わらないあなたも頑固野郎だろう。」

又次郎丸と鮫瓦が睨み合った。

「ちょっと2人とも。仲間同士で睨み合ってたら、霊に乗り移られたとき対処できませんよ。」

「霊が乗り移ったら、本気でやり合える。」

「私も心霊現象を自らが体験できるとなったら本気で試したいところだ。」

「もう。2人とも本当に頑固野郎ですね。だったら、一回乗り移られればいいです!」

その時、強力な二つの霊が、次郎丸と鮫瓦に乗り移った。

「く、何だ、これは!?体の自由が効かない・・・」

「うわああ!!」

髪が荒々しく逆立つ風神と雷神のような気迫を纏った次郎丸と鮫瓦は髪がないので逆立つことはないが先程よりも激しく睨み合った。

「「貴様を倒す」」

とてつもない衝撃とともに、二人は消え去った。


【災いを転じて福となす2】

 宣託市内某所。又探偵事務所が爆発したというニュースが速報で流れていた。岡島流人は会社のテレビでそれを見た。

「うわあ。最近、物騒なニュース多いですね。」

岡島流人は先輩社員の又三郎に言った。

「・・・大変だ。早く行かなきゃ。」

走り出した又三郎に岡島流人は問いかけた。

「急にどうしたんですか?」

「あそこは親父の事務所だ。無事かどうかこの目で確かめに行く。悪いけど、急ぎの件頼む。」

又三郎は早退した。業務終了後、岡島流人は人通りのない公園に行った。そこに畑神がいた。

「ふう。すっきりした。あ、いた。おーい、ツー。」

「オカルト。大声で呼ばなくても分かるわ。」

「ああ、ごめん。それより、大変なんだ。」

「知ってる。かなり強い2つの霊が蘇ったみたい。」

「そうなんだ。とにかく、僕らも行こう。」

「行くってどうやって?」

「ルートの力を借りる。頼んだ。」

(オ任セアレ。)岡島流人と畑神は線状に分かれ、消えた。二人は瞬時に移動した遥か上空で、線状のまま現れた。

「へえ。すごいのね。」

「そうだろう。」

(帥ハ何モシトランゾ。)

「そうだった。ところで、あの2人が今回の?」

「そう。」

そこに、睨み合う次郎丸と鮫瓦がいた。

「ここで終わりだ。」

「それは私の台詞。」

次郎丸と鮫瓦はとてつもない力を込め始めた。

「まずい。手出しできないわ。」

「2人の力は互角に見える。上手くいけば、2人がぶつかった後、助けられるかも。」

「「うりゃああ!!」」

次郎丸と鮫瓦が激しく交わり、落下した。

「危ない。ヒトヨナキ。頼んだ。」

(ガッテンショウチノ介。)

次郎丸と鮫瓦は浮遊して静かに空き地に降りた。

「ここは?見かけない場所。」

「おや?見かけない人物。」

「お2人が戦闘の末、落下したのです。僕は、心霊現象を追う会社員オカルトと申します。それから、彼女は僕の助手ツーです。」

「初めまして。」

「ほう。助手とは羨ましい。」

「そうか。君がオカルト君か。そういや、部下の影里は無事か?」

「影里というと、バナナ好きの刑事ですね。」

「ああ。だが、何故その事を知っている?」

「僕はあなたがたを陰で見ていました。いずれ来る悪い侵略者と共に戦う仲間として。」

その時、とてつもない衝撃を生み出しながら、新たな二人が睨み合っていた。

「あれは!影里!」

「まさか。もう1人は、三郎。どうして?」

「先輩はあなたの無事を確認しに会社を早退して向かいました。あなたの代わりになったのかも。」

「霊は波長の合う者に憑りつく。次に憑りつくなら最初の2人に近いあの2人ね。」

「どうすればいいんだ!?」

「三郎。私なんかのために。く、こんな時、私は何もできない。」

荒々しくぶつかり合う三郎と影里は、空き地に着地した。二人は言い争っていた。

「強いのは親父だ!」

「いいえ!鮫瓦さんだ!」

二人が渾身の一撃を放とうとした時、間に次郎丸と鮫瓦が割って入った。

「やめるんだ。2人とも。」

「強いのが探偵か俺かなんてどうでもいい。」

三郎と影里は躊躇した。岡島流人は畑神に言った。

「今だ。ツー。頼んだ。」

「わかった。」

畑神の目が光り、三郎と影里は動けなくなった。鮫瓦が塩の弾が入った銃を撃った。当たって砕けた塩を被り、三郎と影里は意識を取り戻した。

「あれ?父さん、無事で何より。」

「気づいたか。迷惑かけた。」

「鮫瓦さん、又さんと上手くやってくださいよ。」

「分かった。探偵さんよ、協力してくれるか?」

「仕方ない。こんな事件、見過ごしておけないからね。」

その後、鮫瓦と影里は上司に報告した。

「えー、色々ありましたが、又探偵に協力を要請して、承諾を得ました。」

「そうか。ここに集まった君たちが協力者だね?」

そこにいた又次郎丸、岡島流人、畑神が頷いた。

「うん。勢揃いだ。」

「あの、人数が増えたことと極秘チームであることから、岡島から提案があるそうなのですが。」

「聞こう。」

「すみません。僕たちは仲間同士だけの名前があります。皆さんもどうでしょうか?」

「いいね。名づけてくれ。」

「では、上司の方は5人目なので、ルート5=2.2360679775・・・(フジサンロクニオウムナク)で、フジサンではどうでしょうか?」

「気に入った。何せ私は藤宮というんだ。」

「では、鮫柄さんは6人目なので、ルート6=2.44948974・・・で、ツヨイヒトではどうでしょうか?」

「まあ、いいだろう。」

「では、影里さんは7人目なので、ルート7=2.64575131・・・で、ツムジカゼではどうでしょか?」

「カッコイイね。」

「では、次郎丸さんは8人目なので、ルート8=2.82842712・・・で、ツワモノではどうしょうか?」

「ありがとう。いい名だ。」

「気に入って頂けたら幸いです。ちなみに、僕はオカルト。そして、僕の中に、ルート、ヒトヨナキ、ヒトナミダがいます。」

「わたしは、ツーです。」

「取り込み中すみません。至急出動要請です。」

「オカルト。ルート。ヒトヨナキ。ヒトナミダ。ツー。ツヨイヒト。ツムジカゼ。ツワモノ。新たな反応に向かってくれ。」

鮫瓦と影里が敬礼し、他の者は真似した。そして、全員出動した。


【木乃伊取りが木乃伊になる】

 宣託市内某所。街で人々が倒れていた。鮫瓦は影里に指示して、倒れた人々の救助していった。

「何があったんだ、一体。」

次郎丸は考え込んで、言った。

「これは超音波だな。」

「何か考えてると思えば、推理か。さすが探偵だ。」

「まあな。刑事は周囲の警戒を怠るな。」

「ああ。言われなくてもやるよ。」

険悪なムードを察して、岡島流人が言った。

「あの、どうして超音波と考えたんですか?」

「倒れた人の中に耳を抑えた人がいる。あと、超音波の届く20m程度の範囲で倒れている。推理に過ぎないが。」

「なるほど。」

影里が救助を終え、戻ってきた。

「救助隊に連絡したので、あとは彼らに任せます。」

「ご苦労。被害はどれくらいだ?」

「結構少ないです。犯人はまだ遠くには行ってないようです。彼女、いや、ツーが感じ取ったそうです。」

「たぶん犯人はあそこで見てるひと。」

全員が見た時、岡島流人は驚いた。

「あの人は僕の同僚の蛙山さんだ。」

蛙山はどこかを見た。すると、驚き、その方へ走って行った。全員が追いかけた。

「オカルト。犯人と知り合いというのは本当か。」

「はい。」

ビルの脇の階段を駆け上がると、ビル内の廊下で蛙山が倒れた人に呼びかけていた。

「蛇川!どうしたんだよ〜」

「蛙山…気をつけろ。あいつ、本気だ。」

「蛇川!は!」

蛙山が蛇川を引っ張り、移動させると、さっきいた場所が黒い球体で消滅した。蛙山は恐怖の表情で走って逃げた。次郎丸は考え込んだ。

「何が起きてる。至る所、植物の枝が伸びている。こんなビルに植物が生えるのは不自然だ。おそらくこれも」

「霊の力。」

「そうだ。ツー。出所はその男か。」

畑神が蛇川のいる場所に手を伸ばした。

「間違いない。」

「すると、彼らの会話とこの状況から考えて、何かと争っていたと推測できる。」

「ツワモノ。それは黒い球体を放った奴で合ってるか?」

「ツヨイヒト。合ってる。」

「それじゃあ、すぐ近くにいるんじゃないですか⁉︎」

「ツムジカゼ。その通りだ。ツー。特定できるか。」

「あそこ。」

「よし。向かうぞ。」

畑神が指差した向かいのビルの屋上に全員向かった。その途中、黒い球体が襲った。鮫瓦と影里が銃を撃った。

「だめだ!効かねえ!」

「危ない!」

「うわあ!」

全員倒れて何とか避けた。

「くそ!どうすればいいんだ!」

「この間の力は使えませんか!?」

「そうか!」

その時、黒い球体が襲った。

「ツムジカゼ!」

「はい!鮫瓦さん、いや、ツヨイヒト!」

鮫瓦と影里から放たれた竜巻で黒い球体がずれた。

「よくやった!ツムジカゼ。」

「はい。ツヨイヒト…。」

屋上に着くと、二人の男がいた。岡島流人が言った。

「蛙山さんと、もう1人はやっぱり、滑梶さんでしたか。いつも3人仲良さそうなのになぜ?」

「参ったな。オカルトが次の敵か。」

「何を言ってるんですか?」

「この力に目覚めた時、滅ぼさなくてはならない欲求に駆られた。だから、近い者から襲った。」

「でも、仲良しに見えたのに、辛くないですか?」

「辛い。だからこそ、早く終わらせる!蛙山、仲間になったならやれ!」

「うん。」

蛙山が放った超音波で全員苦痛になった。

「う、やめてくれ、苦しい…」

「いいぞ。トドメは俺がやる。」

「滑梶。蛇川は助けようとしてた。」

「うるせえ!あいつも同じだ。きっとそう言って俺を襲おうとしたに違いない!」

「信じてくれよ!」

「…お前も同じだ!結局、誰も信じられない!お前らも部長も!」

岡島流人は耳を疑った。

「部長?」

「こうなったら、皆纏めてあの世行きだ!」

黒い球体に力を込める滑梶に、異変が起きた。

「あ、あああ!!」

黒い球体が制御不能になり、滑梶と蛙山を飲み込んだ。さらに、黒い球体は大きくなり、周囲をのみこみ始めた。

「危険だ。一時撤退だ。」

「鮫瓦さん、いや、ツヨイヒト、オカルトが間に合いません!」

その時、次郎丸が岡島流人を庇い、黒い球体に飲み込まれた。

「みんなを逃がせ…」

「ツワモノ!みんな、安全は保証するから、飛び降りろ!」

全員浮遊しながらゆっくりと着地した。

「何とか助かった。でも…」

「オカルト!落ち込んでいる場合じゃない!周りを見ろ。」

「これは!」

街中に黒い球体が出現していた。


【大は小を兼ねる】

 宣託市内某所。複数の黒い球体が出現していた。黒い球体は、周囲の物をすべて飲み込んでいった。黒い球体はしばらくして消え、そのあとには何もなくなっていた。それが伝わり、全国的に大騒ぎになった。上司は、テレビで報道を見ていた。

「うんうん。何!?」

速報が入った。それは黒い球体が全国各地に現れたという内容だった。

「うーん。そろそろ私の出番かな。」

ちょうどその頃、又三郎は妻と子とともに避難していた。

「雛菊。手を放すなよ。」

「はい。三郎さん。」

(どうしてこんなことに。親父は大丈夫なのか?)次郎丸は意識を取り戻した。

「気を失っていたようだ。ここは、さっきのビルの屋上?黒い球体の中だな。いて!不思議な力によって出られないようだ。」

隣には、滑梶と蛙山がいた。

「どうなってる!出せ!」

「滑梶。無駄だ。」

「くそ!誰の仕業だ?」

オフィスに一人の男が席に座っていた。業務後なので部屋は暗かった。その男は手を組んで、呟いた。

「いいぞ。このまま情報を拡散するんだ。そうすれば、被害が膨らみ、恐怖する。恐怖がさらなる被害を生む。これこそ私の力、幻覚だ。もっと恐怖しろ!全員が恐怖した時、侵略が完成する。」 

鮫瓦が上司から連絡を受けた。

「藤宮さん、いや、フジサン。こちら大変な状況です。え?全国的に被害が起きているんですか?」

「全国!大変だ…」

「え?はい。わかりました。」

鮫瓦が影里に上司からの連絡を伝えた。

「ツムジカゼ。俺たちは住民の避難を誘導する。」

「え?あの黒い球体は放っといていいんですか?」

「やむを得ない。まずは人命を優先する。」

「はい。オカルト。ツー。そういうことなので2人は避難を。」

「そんな!まだ解決できてない!」

「そう言っている場合じゃないです!あ…すみません。」

「いや、こちらこそすみません。」

その時、畑神が呟いた。

「たぶんこれが悪い侵略者ね。特定できないくらい強い。」

「いや、間違いないだろう。反応を計測する機器が壊れてしまっている。」

「計測できる限界を超えてしまったみたいですね。」

「とりあえず、避難が先だ。」

岡島流人と畑神は宣託市立体育館に避難した。鮫瓦と影里は避難誘導の為再び外へ出た。そこで、又三郎と再会した。

「君はあの時の。」

「またお会いしましたね。」

「親父は一緒じゃないんですか?」

「それが…」

「そうですか。親父は一度協力すると危険を顧みない人なので、気になさらないでください。」

「…」

その時、体育館の中に黒い球体が出現した。悲が起き、人々は逃げ惑った。岡島流人と畑神は動けない老婆を助けに向かった。

「お婆さん!」

逃げるが、間に合わず飲み込まれた。

「う、間に合わなかった。」

「すまないねぇ。」

「お婆さん、ということはまだ死んでない!」

「わたしも生きてる。」

「ツー!ここは、球体の中だ!いて!出られないか。」

「これは幻覚の一種ね。外からは何もないように見えて本当はそこにまだある。」

「何も変わらず繋がっとるんじゃ。」

(オカルト。老婆ノ言葉聞イタジャロウ?)

「そうか!繋がっている。黒い球体同士なら移動できる!ルート、頼んだ!」

(任セヨ。)

岡島流人と畑神は次郎丸のいる球体に移動した。

「次郎丸さん!無事で良かったです。」

「これは、心霊現象を追う会社員、オカルト君。よく来たと言いたいが、私たちも出られなくて困ってるところだ。」

「そうですよね。移動したところで何も…」

「待って。感じる。」

「おや?君の助手が何か解決の糸口を掴んだらしい。」

「ツー。どうした?」

「ここの中だと、とても強い力を感じる。」

「よし!その方へ行ってみよう。」

岡島流人と畑神、次郎丸が手を合わせた。そこにあと二人手を合わせた。

「オカルト。俺たちも連れて行け。こんな仕業をする奴の顔を見てやる。」

「滑梶と肩を並べるくらいだ。僕も見たい。」

「おい。」

「滑梶さん、蛙山さん。わかりました。みんな、行こう。」

線状に分かれた五人は瞬時に移動した。そこは『ドリーム社』と書かれたオフィスだった。

「まさか、僕たちの会社の人が悪い侵略者だった?」

「君たちの会社、どうなってるんだ。把握しているだけでもう5人目だ。」

「ブラック企業。」

「昔そう言われてたみたいだけど、最近は働き方改革で改善されてるよ。あれ?いない!」

「君の同僚の2人なら黒幕と話している。」

急いで奥の部屋に行くと、倒れた滑梶と蛙山、そして席に座る男がいた。

「鎌桐部長、あなただったんですね。どうしてこんなことを!?」

「大は小を兼ねる。どうやら私の部下も侵略者の霊に取り憑かれていたようだが、器が小さく扱えきれていなかった。器の大きな者が器の小さい者を束ねるのは当然のことだ。」

「部長、あなたはそんなことを言う人じゃなかった。何があったんです。」

「ふふ、ふはははは!気にしないでくれ…私がどうなろうと私の勝手だ!だから、君も大人しく私の力となれ!」

鎌桐はありったけの力を放った。超音波と黒い球体が混ざり合った物体だった。

「ルート、助かった。」

(オ安イ御用ジャ。)

「あの人こそ器が小さい。」

「確かに。紳士として奇襲は良くない。」

「部長には噂があった。社内の女性との不倫の噂だ。その噂は本当だったのかも。」

「それが明るみになり、彼には居場所がなかったのかもしれない。」

「霊は波長が合う人に取り憑く。あとはその人の心が良くも悪くもする。」

「う、超音波だ。これは蛙山さんの霊の力と同じだ。」

次郎丸だけは苦しんでいなかった。

「分かったぞ。このトリックがすべて。」

その時、次郎丸が消えた。


【命あっての物種】

 宣託市内某所。次郎丸はオフィスの中にいた。目の前に、鎌桐が席に座っていた。

「よく見破りましたね。」

「あなたに取り憑いた霊の力は幻覚です。それを受け入れる限り幻覚は続きます。分かったふりをして受け入れなければ幻覚は止まるのです。」

「お見事です。しかし、あなたが見破ったとしても、他の人々が幻覚を見ているのは変わらないですよ?」

「私はどうすればいいでしょうか?」

「ふはは!私があなたの事を決めるのですか?」

「では、聞き方を変えましょう。あなたはどうしたいのですか?」

鎌桐は狼狽えた。

「本当にあなたは侵略をしたいのですか?単に自分の失態を無かったことにしたいのではないですか?」

「そうではない!断じて、そうでは…」

「お言葉ですが、その狼狽え方はそうだとしか見えません。」

「部下の3人が悪いんだ。私が少し女性社員に触れたのを見たことで良い気になって、写真とともに社長に報告した。それで私はセクハラで退職する羽目になった。私のような大きな者が見守らずしてあの部下に上手く出来るとは思えん。」

「部下の3人は何も悪くありません。それに、ほとんどの場合、あなたが言う小さい者で成り立っています。彼らは助け合い、上手くやっていくでしょう。」

鎌桐は席から落ち、膝をついた。その後、鎌桐は自首して、鮫瓦と影里が塩をまき、幻覚は解かれた。〈心霊現象対策部〉には協力者が集まっていた。」

「君たちには改めて感謝を申し上げたいと思う。ありがとうございました。」

藤宮と鮫瓦、影里が次郎丸と岡島流人、畑神に頭を下げた。

「頭を上げてください。僕は何もしてませんし、会社の関係者が犯人でした。」

「犯人と君は関係ない。君の霊の力は必要不可欠だった。」

「ルートですね。」

「君も他の霊も必要不可欠だった。」

「確かにツワモノが部長と話している間、幻覚から逃げるのにヒトヨナキとヒトナミダが活躍してくれました。」

(ソレ程デモナイヨ。)(照レルナア。)

「オカルト君の証言も、ツー君の霊感も、犯人を捕まえることに必要不可欠だった。」

「何と言っても心霊探偵の推理は必要不可欠でした。本当に協力に感謝したいと思う。どうもありがとう。」

「礼には及びません。私は出来ることをしたまでです。」

「誰一人欠けては成し遂げられなかったわけだ。」

「三人寄れば文殊の知恵、ですね。」

「鮫瓦さん、良いこと言いますね。」

「その通りだ。三人以上だが。」

その時、テレビでニュースが流れた。

「世界を巻き込んだ心霊現象ですが、その最中、宣託市内に突如巨大人型生命体が出現しました。」

「大きくて驚きました!」

「黒い球体から守ろうとしてくれてるようでした。」

「あれは、心霊現象か、それとも現実か、分かりません。現実とすればまだまだ分からないことだらけですね〜。」

「さまざまな意見がありますが、あまり悪い印象ではなかったようです。かつて百年程前に目撃者がいた巨人と関連があるとみられています。専門家は巨人を地球の守り神”ガーディアン”と名づけました。」

ニュースを見て岡島流人が言った。

「あれも霊かな?もしかしてあの時話した人が来てたのかも。」

「守り神、良い響き。」

「影里、見てみろ。あの巨人と上司の姿、似てないか?」

「本当ですね、鮫瓦さん。まさか、上司が巨人なんですか!?」

「そんなわけないだろ!」

藤宮は胸を撫で下ろした。

「何より皆、無事で良かった。命あっての物種、だからな。今日は疲れたはずだ。ゆっくり休んでまた頼むぞ。」

その後、心霊現象は減少し、弱小化した。岡島流人は部長に昇進した。

「滑梶さん、成績が落ちてますね。頑張りましょう。僕も頑張ります。」

肩を落として自席に戻った滑梶に蛙山と蛇川が声をかけた。

「また怒られた。」

「あいつ、偉くなったな〜」

「前はあいつが怒られてたのを見て小言を言ったのが恥ずかしいぜ。良い成績を出してやる!」

「いいやる気だね〜」

「トイレに行く日課は変わってないんだな。」

トイレで岡島流人は又三郎と会った。

「三郎さん、奇遇ですね。」

「うん。舐めてる?」

岡島流人はポケットから飴を取り出した。岡島流人と又三郎はグッドポーズをした。岡島流人の中、ルート、ヒトヨナキ、ヒトナミダがグッドポーズをした。畑神は通学中、未開と会った。

「おはよう。」

「おはよう…あの、えっと、この間のはどういう?」

「そういうこと。」

未開は頬を赤らめた。鮫瓦と影里は犯人を追っていた。

「影里!そっち行ったぞ!」

「はい!」

犯人はバナナを持った影里に突進した。

「逃すか!とりゃあ!」

影里の背負い投げで犯人は捕まった。

「よくやった。」

「…鮫瓦さん、反動出ました。」

「仕方ない奴だ。手を貸せ。」

「ありがとうございます。」

藤宮はブラインターを下げ、呟いた。

「今日も平和だ。君も出番が無くて可哀想だな。アグル。」

(平和ガ一番ダ。地球ノ平和ヲ守ル事ガ我ラノ使命ダカラ。)

「私たちは頼もしい。君たちがいてくれるから。」

又次郎丸は事務所の席に座り、キセルから煙を吐いた。そこに依頼者が入ってきた。

「どんな依頼でしょうか?心霊現象でも何でもお受けします。」


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