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夢現に揺蕩う

作者: なか



よく晴れた昼下がり。

冬の寒さが緩んできた時季の暖かな日差しが、レースのカーテンを透かして部屋に届く。

たまの休みに、のんびりと横になるのも悪くない。

クッションを枕にして暖かな空気に身を任せれば、意識はいとも簡単に溶けていく。

………

……



日の光のように白くて眩しい視界の中、何処からか子供達の笑い声が聞こえてくる。

笑い声に意識を向けると徐々に視界が晴れ、降り注ぐ明るい日差しと所々に青々とした草が生えた地面が見えてきた。辺りを見渡せば小さな砂場が見える。


ああ、ここは知っている。


そこは小さい頃によく遊んだ、実家近くの小さな公園であった。砂場の他には2つの鉄棒と小さなジャングルジムがあるだけの簡素なもので、隅には木が植えられており申し訳程度に置かれたフェンスには蔓が巻き付き寂れた印象を受ける。遊具の所々に錆が浮いているのも、寂れた雰囲気を助長させているのかもしれない。過疎の進んだその地域では公園で遊ぶ子供自体が少なく、兄弟がいない自分はよく1人で遊んでいた。

その公園で珍しく何人かの子供の声が聞こえる。気づけば自分の視線は低く、伸ばす腕も短い。きっと、この公園でよく遊んでいた6歳くらいの身体なのだろう。駆け寄った砂場では自分と同じくらいの歳の子供や、少し背の高い年上の子もいて近所に住んでいる子供達のような気がする。相手が誰なのかは全くわからないが、そんな事は関係なく楽しそうな雰囲気に釣られ一緒になって砂遊びを始める。

いつの間にかそれぞれが持ち寄った遊び道具のバケツやスコップを使って、砂を掘ったり積み上げたりを飽きることなく続けていく。ふと横を見ると、外遊びで使ってもいいのか疑問に思うようなミニカーも転がっている。ただ、何でも自由に使って遊んでいるその空間が好きで、親に怒られそうという心配はすぐに断ち消えてしまう。そのうち、誰かが何処かからバケツに水を汲んできて砂場が一気に泥だらけになる。質感が変わった砂に、喜んで掘って混ぜて全身が泥だらけになっていく。

明るい笑い声が周りからいくつも聞こえ、自分も笑顔になっていることがわかる。

時間が経つことも忘れていて、いつの間にか皆んなが帰る時間になっていた。急いで砂に埋まった遊び道具を掘り起こし、付いている砂や泥を拭っていく。誰が持ってきたのかわからない見慣れない形をした物も出てくるが、とりあえず砂を払って片付ける。砂まみれになった小さな飴の袋まで出てきた。


封が開いていないから、砂を払えばまだ食べられるだろうか。


そんな事を思いながら透明な袋の中にあるピンクと白の丸い飴を見ていると、不意に鼻の横が痒くなった。顔に砂が付いたのかもしれない。しかし公園には水道がなく、砂だらけの手で触ればさらに砂がついてしまう。ダメだと分かっていても、どうしても痒い気持ちが抑えきれなくなり鼻の横に触ってしまった。案の定、ザラリとした砂の感覚が顔と指先にした…と思う。


そうか、夢だから感覚が曖昧なんだ…


初めから分かってはいたが、曖昧にしていた事がはっきりと実感として胸に落ちる。

辺りはとっくに静かになり、明るい日差しに照らされた砂場とあちこちに生えている青々とした草が鮮やかに目に映る。


何で、この場所の夢を見たんだろう…


何となく疑問が浮かんだが、すぐに理由も思いつく。

先日、久々に公園の近くを通ると辺り一帯が整備され、一面地面が剥き出しの何もかもが無くなった状態になっていた。その寒々しい光景に驚いたが、慣れ親しんだ砂場や遊具、生えていた木も何の痕跡も無くなっていた事に、自分が想像以上に悲しいと感じなかったことにも驚いてしまった。あれだけ飽きずに砂だらけになって遊んでいた、自分にとってとても思い出深い場所だったはずなのに『なんだ、そうだったのか』と軽く受け流して終わってしまう。後からその違和感に気づいた自分は、思い出の場所が無くなっても何とも思わなくなるほど心が擦れてしまったのかと苦笑いをしていた。

しかし、これだけ楽しかった事の記憶がはっきりと夢に出てくると言うことは、何も思わなかった訳ではないのかもしれない。


そうだ、きっと自分は…


そこでふと、胸を締め付けるような何かが迫り上がってきた。

瞼の裏に眩しさを感じて不意に目が開く。

ぼんやりとした視界に、明るく陽に照らされた部屋が映る。寝る前よりも差し込む日差しの角度が変わり、時間の経過が感じられた。

頭の片隅でそんな事を考えながらも、胸の中は部屋の明るさとは正反対な思いを映していた。


気が付かなかっただけで、寂しかったんだろうな…


その思いに気づいただけで、胸の内が少し軽くなったような気がした。

思わず口元に笑みが浮かぶ。



大丈夫、寂しかった事がわかる


何も感じていないことなんてなかった



大きく息を吐くと、ゆったりと身体の力が抜けていく。



大丈夫、心はまだここにある…



もう少し、暖かな空気に身を任せようかと目を閉じる。

よく晴れた昼下がり。 








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