恋です。13話
飯塚と藤川はレンタカーで水族館に来ていた。電車オタクの藤川は、首から一眼レフを携えて水性生物達を激写していた。
藤川「ジンベエザメってこんなにでかいんだねー。すっごい迫力」
飯塚「デカいねー」
藤川「あ、今からジンベエザメに餌やりだって!」
飯塚「由衣、こっち向いて」
水槽のガラスにへばりつく藤川の横で、飯塚は片膝立ちで群青色の箱を開ける。
藤川「ん?、え?、いつの間に。え?うそ、指輪!」
飯塚「由衣、これからも一緒に人生を生きていきたい。結婚を前提に、同棲してくれないか?」
藤川「やだ、、(藤川の目から涙が溢れる)、、こんな私で良ければ、、お願いします」
ザワザワザワザワ
飯塚と藤川の回りにいた水族館に来たお客様達が飯塚のプロポーズにざわついていた。藤川の返事を聞いたお客様が、ひとり、ふたりと手を叩き、優しい拍手の音達が周辺で鳴っていた。
・・・
水族館を満喫した2人は、車で5分程の距離にある海沿いに来ていた。電車オタクの藤川は、指輪を箱にしまったまま、ずっと眺めていた。海辺に着くと、指輪を飯塚に託して、藤川は先に海辺に走り出した。それを受け取った飯塚は、海辺の砂を集めてそこに細い木の棒を突き刺した。
藤川「ねえ!以外と海の水暖かいよ!正次郎も入ってみなよ!」
海から戻ってきた藤川はスポーツマンの藤川に変わっていた。
飯塚「うん。これ終わったら入るよ。、、はい、由衣ここに座って」
藤川「ナニー」
飯塚「棒倒しやろう」
飯塚と藤川の間には、こんもりと砂で盛られた山と、その中央に細い木の棒が刺してある。
藤川「いいよ!、ジャンケン、ポンッ!」
飯塚「よし、俺先行ね」
そう言って、飯塚は両手を砂山の周りに沿って木の棒を倒さない様に砂を取る。
藤川「がっつり取ったね」
そして、お互いに砂を徐々に崩してゆく。大きかった砂山も、今はこじんまりとした砂山に変わる。そして飯塚は、ギリギリを攻めて木の棒を倒さずに終えた。
藤川「今ちょっと棒傾いた!、もう無理じゃない?」
藤川は恐る恐る砂山の奥から砂をかいていく。だが、砂山の外周の半分程の所で惜しくも砂山が崩れて木の棒が倒れてしまう。
藤川「あーー!、、え?」
崩れた砂山の中からは、小さな珊瑚が現れた。そして、その珊瑚の細い部分には、銀色に光る指輪が掛かっていた。
藤川「珊瑚、のキーホルダー。、、これって指輪?」
飯塚「さっきの水族館で珊瑚のキーホルダー買ったんだ。、、由衣、俺はこれからもずっと一緒にいたいと思ってる。だから、結婚を前提に同棲してくれないか?」
藤川「びっくり!うそっ!!、、一緒に暮らせるの?、、ありがとう。嬉しい!」
飯塚「良かったー、海行こう!」
藤川はすぐに飯塚に頼み指輪を薬指にはめてもらった。ふたりは手を繋いで、柔らかい海辺を歩きながら海岸線をのんびりと進む。飯塚は藤川の両親から、多重人格になる前の本来の由衣の姿について話を少し聞いていた。それは、笑顔をいつも見せてくれて良く笑う女の子だと言う。
飯塚「良い時間だなー」
海へと沈む準備をしている赤い夕陽。潮風と暖かい空気。足の裏を楽しませる柔らかい海辺の砂。夕染めの空の下、ゆっくりとふたりはふたりだけの時間を楽しんでいた。
藤川「飯塚正次郎、良い名前だね」
飯塚「何だよ急に、?」
飯塚の方にふと見せた藤川の表情が今まで見たことのない藤川だった。だが、その顔はとても可愛いくて綺麗な笑顔の藤川だった。
藤川「ありがとう正次郎。ずっと話したかったよ」
飯塚「、うん。、、本来の由衣に会えた」
藤川「ふふふっ。全部本当の私だよ。これからもお世話になります」
そう言うと、藤川は飯塚の目の前に移動して抱きついた。そして、2人は見つめ合い、飯塚から唇を近づける。
飯塚「うっ!?」
藤川は急に右手で飯塚のキス顔の頬をギュッとつまんだ。
藤川「歯磨いてからキスしてくれる?」
飯塚「え?今その人格出てくるの?」
藤川「うそよ」
藤川は飯塚の頬から手を離し、優しいキスを交わす。飯塚の頬には暖かい涙が流れていた。海から流れる波音が、2人の幸せを祝福するように次から次へと砂地を踊らせていた。
藤川「正次郎、私と結婚して下さい」
最後までお読み頂き、本当にありがとうございます!
個人的にラブコメを作りたく書いたのですが、結果的には恋愛ものを作る難しさの壁にぶつかった感じです。この作品を読んで、どこかで少しでも笑って頂けたなら幸いです。恋愛って難しい、、。
ではまた。