重いモノを運ぶだけでも苦労はする
「……さて。それじゃどうしようかな。悪いんだけどさ、聖剣はここに置いて行くから私の代わりに見ておいてくれないかな?」
「ん?どこか行くのか?」
ティルファは担いでいた聖剣を地面に置くと、それの管理をしてくれるようジュゲムにお願いをする。
突然のお願いにジュゲムはティルファが何をしようとしているのかが見当もつかない。
「うん。と言っても私1人で村に戻って、自宅に置いてあるモノを取りに帰るだけ。ほら、今のジュゲム君って容姿が魔物と大差ないし、このまま一緒に村に戻ったらまたスケルトンが現れたって騒ぎになりかねないからさ。だからジュゲム君にはここでちょっと待ってて貰って、私1人でささっと村に荷物を取りに帰ろうかなと」
「あぁそう言う事か。だったら全然構わないぞ。確かに僕は人里に立ち入るべき姿では無いからな」
ジュゲムはそう言いつつ、先程ティルファ達の住む村に立ち入った際の騒ぎを思い出す。
生前ならばどこに行っても歓迎されるのが当たり前だったが、今は全身骨だけになっていて、死して尚もこの世に未練を残して動き続ける骸骨型の魔物であるスケルトンと容姿が大差ないのであまり人の目に触れたくは無いというのがジュゲムの本音だった。
人間に害を為す魔物はすべからく人間の敵であり、近づけば恐れ、騒ぎ、敵視される為先程と同じ事を繰り返さない為にもティルファの提案は妥当だと言えた。
それ故にジュゲムはティルファの提案を快く受け入れ、1人森に残って聖剣を見守る事を承諾する。
「そう言って貰えると助かるよ。別にそのまま聖剣を持って行っても良いだけどさ、やっぱりちょっと負担なのは間違い無いから出来るだけその負担を減らしたいんだよね」
「まぁこれだけの重さの聖剣を運ぼうとしたらかなりの魔力を使用するだろうし、精密に魔法を扱う必要もあるだろうからティルファの言っている事は納得出来る。改めて考えると凄いよ君は」
「理解して貰えて助かるよ!」
ティルファが手に入れた台座付きの聖剣は、地球の単位で重さを表すなら台座が2.995t(2995kg)で聖剣本体が5kgの重さを有している。
通常ならばどうやっても人の身でそれを振り回す事はおろか、1mm足りとて動かす事は叶わないのだが、ティルファは聖剣を探す旅を経て得た身体能力に加えてその身体能力を更に強化する身体強化の魔法を使用する事で無理矢理超重量の聖剣を扱う事に成功している。
ティルファが何の苦労も無くソレを成し遂げているだけに身体強化の魔法さえ扱えれば誰にでも同じ事が出来そうな感じはするが、ティルファと同じ事をするには膨大な魔力と魔法を扱う為の繊細さが求められるので、見る人が見れば如何にティルファが規格外な事をしているかが分かる筈だ。
ただ、現状それが分かる人間はジュゲム以外にはおらず、村の仲間もティルファが魔法で何か凄い事をしている程度の認識でしかないので別段ティルファのしている事は騒がれる事なく普通に見逃されている。
ティルファ自身、結構私凄い事やってんなーと自覚はあるのだが、誰もソレを理解してくれなかったのでジュゲムの言葉は素直に嬉しかった。
「じゃあとりあえずそんな訳だから、一走り村まで戻って荷物を取ってくるね。ちょっと馴染みの人達と別れの挨拶ぐらいはするつもりだから少し遅くなるかも知れないんだけど大丈夫?」
「問題ない。思うように挨拶を済ましてくるといい」
「うん。ありがとう!それじゃ行ってくるね!」
ジュゲムに自分の凄さを理解して貰えた事で、内心ウキウキ気分のティルファは足早に森を駆けて村へと戻って行った。
……そうして一人残されたジュゲムはしんとした森の中で自身の隣に鎮座する聖剣に向かって語りかける。
「……もう良いんじゃないか?如何に彼女と言えども地獄耳まではしていないだろう」
『ええ。そうでしょうね。だって彼女は普通の女の子ですから』
ジュゲムが聖剣に語りかけると、それに応えるように聖剣から女性のような声で言葉が紡がれる。
ジュゲムはそれに特に驚いた様子は無く、至って冷静なまま聖剣と会話を始める。