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ジュゲム・ジュゲム・ゴコウノスリキレ

「ねぇ《聖剣の勇者》様?」


「なんだ?」


「ふと思ったんですけど、この聖剣、《聖剣の勇者》様なら抜けるのではないですか?」



 ティルファの旅に《聖剣の勇者》の同行が決まってから、ティルファは村の自宅に置いてある衣類や道具を取りに帰る為に帰路についていたのだが、その道中に《聖剣の勇者》なら台座に突き刺さったままの聖剣が抜けるのでは無いかと思い、聞いてみる。



「無理だな」


「即答!?」



 だが《聖剣の勇者》は迷いなく自分には聖剣が抜けないと断言する。

 そのあまりに早い否定にティルファは思わず声を荒げてしまう。



「聖剣に突き刺さっているその白い台座だが、それは僕が死ぬ数日前に突如自宅の前に現れた物なんだ。聖剣曰く【この台座に一度ひとたび聖剣を突き刺さしてしまうと聖剣の力は失われ、次に聖剣を持つに値する者が現れるまで抜く事は叶いません】との事だ。嘘だと思うなら試してみるか?ほら、そこに置いてみろ」


「ん?よいっしょっと!」



 ティルファは《聖剣の勇者》に言われるまま、地面にドスンと聖剣を置く。

 そして《聖剣の勇者》は身軽な動きで台座の上にピョンと飛び乗り、聖剣の柄を両手で握り締めて力を込める。



「むんっ!」



 だが聖剣はピクリとも動かず、台座から抜ける気配は無い。



「な?今の僕ではもう無理なんだ。僕は聖剣を所持するに値する資格を失ったんだ。残念な事にね」



 骨だけで顔を見ても表情は分からないが、少しトーンが下がった声から《聖剣の勇者》が聖剣を抜けない事に残念な気持ちを抱いているのは分かった。

 ただ、だからといって悲観しているような様子は感じられ無かった。



「だからこうして僕は一時的に蘇りはしたが、かつてのような偉業を為す事はもう出来ないし、国や世界を救う事は出来ない。でも、勘違いはしないでくれよ?僕は別に聖剣が抜けないからといって心を痛めたりはしない。むしろ、喜ばしいとさえ思っている」


「喜ばしいのですか?」


「あぁ。だって考えてもみてくれ。聖剣がこうして台座に突き刺さったままだと言う事は、少なくとも今の世界には僕が居た時代のような脅威は訪れていないのだろう。それはつまり、世界が僕の死後も平和だと言うことだ。それだけで僕は満足なんだ」



 その言葉を聞いて、ティルファはやっぱり今自分の目の前に居る人物はあの御伽噺の中に出てくる《聖剣と勇者》なのだと実感する。

 自分の身よりも世界の平和を案ずるその姿に、ティルファと胸に熱いものが込み上げる。



「やっぱり《聖剣の勇者》様は《聖剣の勇者》様ですね。世界の平和を憂う人なんて、そうは居ませんから」


「世界の平和を守る事だけが僕の生き甲斐だったからね。僕にとってはこれが普通さ。……ところで話は少し変わるが、僕の事を《聖剣の勇者》様と呼ぶのは止めて貰えないか?」


「どうしてです?」


「僕は既に聖剣を持つに値する資格を失っているし、何より故人だ。僕としては普通に名前で呼んで貰える方がありがたいんだけどな。ついでに敬語も無くして貰えると気楽に話せる」


「……」


「どうかしたか?」



 ティルファは《聖剣の勇者》に名前で呼んでくれと言われ、少し困ってしまっていた。

 何故なら《聖剣の勇者》にまつわる資料を片っ端から精査していたティルファでさえ、《聖剣の勇者》の名前を知らなかったからだ。

 どの文献や資料にも《聖剣の勇者》を指す言葉は《聖剣の勇者》以外になく、それらしい名前さえも記録に残っていない。

 だからティルファは今まで《聖剣の勇者》の事を名前で呼べずにいた。



「敬語を無くすってのは私も気楽だからありがたくそうさせて貰うけど、実は今の時代って《聖剣の勇者》様の名前がどこにも残って無いんだよね。だから、改めて名前を教えて貰ってもいい?」



 でも、流石に名前で呼んでくれと言われて名前で呼ばない訳にはいかないので、早速ティファは敬語を外して普通に接して、《聖剣の勇者》に名前を聞いてみる。



「そうか。まぁ、かなり時間も経っているだろうし、それもしょうがない事だな、なら改めて自己紹介をさせて貰おう。僕の名前は《ジュラフィール・ゲイラ・ムスファレ・ゴナ・カイト・スラキシア……》」


「長い。ジュゲム君ね」


「……え?」


「いや、あなたの名前が長過ぎて呼ぶのが面倒だから縮めてジュゲムくんって言ったの」


「……えぇ?」



 思いの外《聖剣の勇者》の名前が長かった事に驚いたティファは、更に続きそうだった《聖剣の勇者》の本名を遮り、とりあえず途中まで出てきた名前の頭を文字って新しく呼び名を付ける。



「ここから遠い東の国にもね、とある伝説的な村民が居たの。その人の名前が《ジュゲム・ジュゲム・ゴコウノスリキレ・カイジャリスイギョノ・スイギョウマツ・ウンライマツ・フウライマツ・クウネルトコロニスムトコロ・ヤブラコウジノブラコウジ・パイポ・パイポ・パイポノシューリンガン・シューリンガンノグーリンダイ・グーリンダイノ・ポンポコピーノ・ポンポコナーノ・チョウキュウメーノチョウスケ》だったんだけど、その人も名前が長過ぎるから縮めてジュゲムって呼ばれてたの」


「それは本当に人の名前なのかい!?」


「それジュゲム君が言う?」



 恐らく自身の名前よりも長いであろう東の国のジュゲムの名に《聖剣の勇者》は思わず声を荒げてしまう。



「因みにその人は200億年以上生きるらしいよ」


「やっぱり人間じゃないだろう!?」



 《聖剣の勇者》がかつて自身の手で討ち滅ぼした魔王の寿命が300年程だった事を考えると、そのジュゲムとやらの寿命が如何に規格外な化け物なのか計り知れなかった。

 それ故に《聖剣の勇者》は叫ばずにはいられない。



「まぁ、そんな訳で私はあなたの事をジュゲム君って呼ばせて貰うね。改めて宜しく!あ、因みに私の名前は《ティルファ・ローエンス》だから好きに呼んでね」


「ん……まぁ、いいか。分かった。ならティルファと呼ばせて貰う」


「はーい!」



 とは言え東の国に居るという得体の知れない人物に気を揉んでもしょうがないと考え、《聖剣の勇者》……もといジュゲムはその名を不本意ながらも受け入れる事にした。





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