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旅は道連れ世は情け

「さぁそれを返して貰おうか」



 豪華な衣装を纏った骸骨スケルトンは、もしも戦闘になった時の為に担いで持って来ていた台座付きの聖剣を指を差して返還を求める。



「返すも何も、これは私が手に入れたモノ。魔物のあんたに指図されたからって返してやんないよーだっ!」



 しかし、魔物相手にそんな要求を飲むつもりも無いティルファはあっかんべーをしてその要求を拒む。



「……そうか。ならば仕方が無い。盗人相手に情けを掛けてやるのがそもそもの間違いだったな。貴様がそのつもりなら、無理矢理にでも返して貰う!」



 そして骸骨スケルトンは聖剣の返還交渉が決裂した事を受け、素手でティルファに向かって襲いかかる。

 骨と衣装だけの骸骨スケルトンの移動速度は並の魔物や魔獣の比では無く、歴戦の戦士でさえも反応が難しい速度で走り始める。



「話が出来る特異個体だからもうちょっと会話が通じると思ったけど、所詮魔物は魔物ね!今更特異個体なんか怖くないのっ!」


「ふげっ!?」



 だが、ティルファも世界を巡る旅の中で数多の死線を乗り越えて来た歴戦の旅人だ。

 特異個体の魔物と接敵した事は今回が初めてでは無く、特異個体と出会う度に逃亡・和解・戦闘を繰り返してきていたので骸骨スケルトンの攻撃が見切るのは容易い事だった。

 骸骨スケルトンの突進に合わせてティルファは聖剣を使い、骸骨スケルトンを斬り捨てる。

 ……否、台座の部分をハンマーのように使い、魔法によって強化された身体能力と聖剣と台座の重さを利用して大きく振りかぶって骸骨スケルトンを天高く吹き飛ばす。

 それはまるで、強豪打者が球場の外にボールを打ち飛ばすように。



「ぶいっ!」



 森の奥へとふっ飛んでいった骸骨スケルトンを見届けると、ティルファは勝利を確信してガブーラと若者に向けてVサインと満面の笑みをもって勝ち誇る。



「えげつなぁ……それもう聖剣じゃなくて聖鎚で良いんじゃねぇか?いや、助かったけどよ」


「流石ですティルファさん!」



 そんなティルファを見て、ガブーラは若干引き気味でティルファに礼を言い、若者は凄い凄いと手を叩いて称賛をした。

 ティルファも満更でも無いようで、えへへとはにかみながら体をくねらせて照れ照れする。



「まぁ、とりあえずこれで当面の脅威は去ったか。他には別に魔物とかは現れて無いんだよな?」


「そうですね。一応他の仲間も周辺の見回りにいましたが、特に連絡は無いのであの一体だけかと」


「了解。それならもう皆んなに避難をさせる必要も無いな。悪いがお前は警備隊の連中に村の周辺を一通り回って再度他に敵が迫っていないか確認するよう伝えてくれ。何も無ければそれで良し。何かあれば赤い信号弾を空に向かって撃ってくれ」


「了解しました!」



 ガブーラがそう指示を出すと、若者は仲間の所へ向かう為に森の中へと入って行った。



「ティルファ。改めてありがとうな。助かったよ。俺は村の皆んなに危機は去ったと伝えに行くが、お前はどうする?」


「ん?あぁそうだね。私もちょっと森の中に入って他に敵がいないか見てくるよ」


「そうか。まぁ、何も無いだろうが気をつけろよ」


「うん。ありがとう」



 ガブーラはそう言うと、未だ騒がしい村の騒ぎを収める為に村へと戻って行った。



「……さて。悪い事しちゃったかなぁ。でも、襲って来たのはあの人の方からだし。死んでなきゃいいけど」



 ガブーラが去って1人になると、少しの独り言を呟いて今し方自分が吹き飛ばした骸骨スケルトンの方角へ向かって聖剣を担いで走り出す。

 元々ここは更地に森が出来たような地形で、余程大量に植物が生えていない限りは空から落ちて来たモノが隠れるような事は無いので目立つ衣装を纏った骸骨スケルトンを見つけるのにそう時間は掛かりそうに無かった。

 そうして数分程走っていると、仰向けで大の字になって地面に横たわっている骸骨スケルトンを発見する事が出来た。

 ティルファは骸骨スケルトンにゆっくりと近づくと、まるで友達と接するかのように声を掛ける。



「居た!おーい!」


「……何をしに来た」


「あ、良かった。生きてた」



 自分を遠慮無しに吹き飛ばした奴が何を無邪気に話しかけてくるのか。

 そう思いつつ、骸骨スケルトンは顔だけをティルファの方へ向け、不機嫌そうに会話を始める。

 ティルファは骸骨スケルトンが生きてた事にまず安堵し、言葉を続ける。



「実はさ、あなたのその身なりが気になって一応確認をしに来たんですよね。……あなたが着ているその金の刺繍が入った赤いマントに白銀の服。私も文献でしか知らないけど、この条件に当てはまる偉人を私は1人だけ知ってるんです」


「……」



 骸骨スケルトンは何も言わず、バツが悪そうに視線をティルファから外し、頭を反対の方向に向ける。



「現在【王都ブランレーテル】では赤いマントと銀色の服が由緒ある騎士団の制服としてその様相が採用されています。その衣装の由来は《聖剣の勇者》が初代ブランレーテル国王に剣術を指南した事からきているって話です。それでふと思ったんです。骸骨スケルトンさん。あなた、《聖剣の勇者》様じゃありませんか?」


「……そうだと言って、君は信じるのか?」


「信じますよ。だって、あなたからは聖剣があった墓所と同じオーラを感じるんですもん。さっきはガブーラ達が居たから騒ぎになるのが面倒で言わなかったけど、あなたを見た時から何となくそうなんじゃ無いかなって思ってましたから」


「……」


「それにそのマントの刺繍、文献通りなんですから。ブランレーテル騎士団が纏っているマントの刺繍と《聖剣の勇者》が纏ってたとされるマントに縫われた刺繍って実は微妙に模様が違うんですよね。それを知ってるのはごく僅かな歴史学者と私みたいな《聖剣の勇者》マニアだけ。そんなマニアックな情報を魔物の骸骨スケルトンが知っている筈も無いし、その為諸々の情報をまとめたらあなたが《聖剣の勇者》である可能性は充分あり得る。何で蘇ったのかは分からないですけど」


「……情けないものだよ。かつては最強と謳われた僕も、この様だ」



 骸骨スケルトンは観念したと言った様子で自身の心情を吐露し始める。



「君の言う通り、僕は初代《聖剣の勇者》で間違いない。生前の僕がどんな事をしてきたかは、君のその口振りからして説明する必要はないだろう。なら、僕が言わなければならないのは僕が死ぬ前後の事だ」



 《聖剣の勇者》の言葉に、ティルファはピクッと反応する。

 これまでティルファが閲覧してきた文献には《聖剣の勇者》の行いが記されていたが、死ぬ直前の事や死後の事はあまり記録が残っていなかった。

 あるのは精々世界のどこかに墓所がある事ぐらいで、実は《聖剣の勇者》がどのような死を迎えたかさえも分かっていなかった。

 そんな貴重な情報を当人から聞けるとなればティルファの興味は最高潮に達してくる。

 なのでティルファは黙って《聖剣の勇者》の言葉を待った。



「世界を混沌に導く魔王を倒し、世界に平和をもたらした僕はその後妻を娶り、2人の子を設けて人里離れた村でひっそりと平穏な暮らしを送っていた。それは僕達が老いで寿命を迎えるまで続き、実に幸せな時間だった。2人の子供が孫を作り、妻が病気で亡くなり、僕自身も老衰で死を迎え始めた頃、長く使わなくなっていた突然聖剣が光輝き、僕にこう語りかけて来たんだ」


【あなたの勇者として役目は終わりました。この剣を自身の骸と共に封印し、次代の者へと託しなさい。もし、この剣を不当に持ち出す輩が出て来るようであれば、今一度あなたに生を与えそれを阻止する役目を与えます】



「ってね。僕は驚いたよ。今まで聖剣がそんな風に語りかけて来る事なんて一度も無かったから。でも、その時改めて実感したよ。この剣は本当に女神に祝福され、世界の寵愛を受けた聖なる剣なんだって。聖剣からそんな掲示を受けた僕は、遺言として僕の死後、土に埋めた僕の棺の上に聖剣を封印してくれと残したんだ。聖剣から伝えられた封印方法と一緒にね」


「《聖剣の勇者》様の死後……埋葬されてからは意識があったのですか?」


「いや、無かったよ。僕の意識が覚醒したのは君が聖剣の柄に手を掛けた瞬間だ。不思議と僕の意識は君を背後から見下ろすような形で君を眺めていた。君が随分と聖剣を抜くのに必死だった事をよく覚えているよ」


「あぅ!」



 誰も居ないからと聖剣を抜く事に全力を尽くしていたのに、まさか霊体の状態で後ろから見られていたと思いもしなかったティルファは顔を赤くして下を向く。



「その聖剣が台座から抜けなかった以上、君は聖剣に選ばれた担い手では無かったと言う事だ。だが、君は乱暴にも力任せに台座ごと聖剣を持ち去った。だからだろうな。聖剣は君を不当に持ち出す輩と認め、それを阻止する為に再び僕の意識は覚醒した。……だと言うのにこの様だ」



 《聖剣の勇者》は自らの不甲斐なさを嘆き、左腕で顔を覆う。



「聖剣が無ければ僕は普通の人間に負ける程度の存在だ。それを、まさか死んでから知るとは思いもしなかったよ。《聖剣の勇者》が、聞いて呆れる」



 そう、呟く《聖剣の勇者》の声は震えている。

 自分の弱さに対する怒りからなのか。

 聖剣に託された役目を全う出来なかったからなのか。

 いずれにせよ、《聖剣の勇者》が酷く傷ついているのはその声を聞くだけでティルファには充分伝わっていた。



「一応、聞いておく。君はその聖剣を元の場所に戻るつもりは無いか?」


「……無いです!」



 ティルファは一瞬だけ迷い、聖剣を手放す意思が無い事をはっきりと伝える。

 それを聞いた《聖剣の勇者》はゆっくりと起き上がり、胡座をかいてティルファに向き合い、問いかける。



「ならば君はその剣を何の為に持ち出す?悪を斬り捨てる為か?名声を得る為か?富を得る為か?斬れぬ剣とは言え、世界に一振りしかない聖剣だ。使い方次第では凡人の望みなど何でも叶うだろう」


「別に私はお金や名声が欲しい訳じゃありません。御伽噺に出て来る《聖剣の勇者》様に憧れて、羨望して、愛してやまなかった私はどうしても聖剣が欲しかったんです。価値の分からない輩が持ち出し、行方が分からなくなり世界から永遠に消えてしまう前に、私が管理しようって」



 ティルファの言葉に、《聖剣の勇者》は言葉に詰まる。

 まさか私利私欲の為では無く、聖剣の行方の為に持ち出したとは思ってもいなかったから。



「勿論、最初から聖剣が完全な形であるって信じてた訳じゃありません。もしかしたらボロボロの状態かもって思ったりもしてました。それならそれで原型に限りなく近づくように復元をするつもりでもいました。幸い、完全な形で残っていたからその心配は杞憂だったんですけど」


「……なら君は、聖剣の担い手では無く、管理者として務めると言うのか?」


「出来るなら次代の聖剣の担い手になりたいですけど、聖剣に拒まれちゃった以上、そうするのが私の本懐です」



 そう、言い切るティルファの目は迷いがなく、強い意志を感じる事が出来た。

 目は口よりもモノを語る事を知っている《聖剣の勇者》はティルファの言葉を信じる事にする。



「……君が僕の存在を信じてくれたように、僕も君の言葉を信じよう。だが、それは過酷な道だと言う事を覚悟しておいて欲しい。台座から抜けてはいないとは言え、聖剣は魔の者を呼び寄せる苛烈な縁を持っている。不完全形とは言え聖剣の封印が解けた以上、君の意思に関係なくこれからは聖剣を滅ぼさんとする者が後を絶たなくなるだろう。それでも良いか?」


「私、こう見えても結構強いんですよ?どんな相手が来ても返り討ちにして見せます!」


「ならば聖剣を返還しない以上、命を賭して守り抜け。それが君が担うべき役割だ」


「勿論です!ドンと来いです!」



 ティルファは右手で胸を叩き、自信満々にそう宣言する。



「その言葉、信じるぞ」


「ええ信じて下さい!」


「分かった。……それで、君はこれからどうするつもりだ?」


「この聖剣を持ってたら沢山の敵に狙われるんですよね?なら、村に居続けたら皆んなに迷惑をかけてしまうし、また旅に出ます。特に目的は無いですけど」



 今まで1人で旅を続けてきたし、それがまた始めるだけだから別に何も問題はない。

 そう、考えていたティルファに



「そうか。なら僕もそれに付いて行くとしよう。聖剣から託された役目を、管理者を名乗る者が出たからそれで終わりって訳にはいかないからね」


「うぇぇぇぇぇ!?《聖剣の勇者》様も来るんですか!?」


「あぁ。言っておくが、拒否権はないぞ」


「う、うん……?」



 予想だにしていなかった《聖剣の勇者》の旅の同行宣言に、《聖剣の勇者》と旅が出来ると知って嬉しいやら1人で気楽に旅をしたかったから面倒やらの気持ちがティルファに渦巻き、何とも言えない表情のまま話がまとまってしまった。


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