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建築魔道士と闇の王女  作者: 流星明
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第5幕 戦火に巻き込まれた街で

お待たせしました。

「フリンガム閣下。土壁はこのような配置でよろしいでしょうか?」


私は視察に訪れた黒髪碧眼の上司に出来映えを尋ねる。なんと言うか、鋭いナイフを常に突きつけられているような緊張感を出しているからな。小心者の私としても、視察が早く終わって欲しいと切に願う。


「ほう、聞きしに勝る立派な物だな。かの愚かなマイズ男爵家の一員にしては、どうしてどうして使えるようだ。姫様の側仕えになった妹といい、なかなか良い拾い物をしたか」


そう言われても、私は深々と頭を下げるしか無かった。私がクレア様に仕えてから1週間。イガ伯爵領領都の補修工事を土魔法で行う日々が続いている。


この領都をクレア様は城塞都市とし、周辺の貴族や北にいる原住民達に対する統治兼防衛拠点とするらしい。クレア様は妹ライラ、ロナウス達を連れてディプレに帰還。ここに残っているのは、イルガ率いる傭兵団とバナード=フリンガム政務官率いる役人達だけだった。


「石壁を作る間はこれで構わぬ。イルガ、土壁外壁を有効利用して攻めてくる愚か者を止めろ。私達はその間に石壁内壁を作成する。1ヶ月でこの地を難攻不落の拠点に変えるのだ。各人の努力に期待するぞ。‥‥まったく、使えぬ親戚どもだ。使える者は先代イガ伯爵位か?」


「「ははっ、承りました!」」


1人愚痴るフリンガム政務官は、すぐに次の場所へと向かうべく歩きだした。短髪の黒い髪と野心に満ちた碧眼を持つ男。なにより美形な事もあいまって、道行く若い女性達が熱をあげている。だが、彼は興味無さげに去っていく。


「やれやれ。あの御仁は優秀なんだが、人の心をどっかに置き忘れた感じで苦手なんだ。まあ、仕事は早いし優秀な人材は引き上げてくれるからいいが」


「‥‥フリンガム。確か、死んだイガ伯爵はフリンガム公爵家出身だったと聞きます。あの方にとって、ここは親戚筋の領地のはずなのですが、あまり気にしてないですね」


「それは簡単だ。奴隷売買の元締めなんて不名誉犯したあげく、姫様直々に成敗されたからな。今頃、帝都じゃフリンガム公爵はキレてるだろう。イガ伯爵は彼の弟になるそうですから、出来の悪い‥‥ね」


出来が悪かったからこそ辺境に送られたが、そこで大きな失態を犯してしまい、クレア様に成敗された。フリンガム公爵家としては大恥と言っていいだろう。


イガ伯爵家の面々も王都送りになったし、おそらく極刑に処せられる。イガ伯爵家断絶の危機だな。もっとも、うちの実家もそれに近くなりつつあるが。


「まっ、アリストも頑張れよ。実家を捨てるのは簡単だが、姫様の隣に立つのは大変だからな。競合相手は少ないとはいえ、皆を黙らせる実績がいる。腐らずに、ここから功績を着実に挙げていけよ!」


そう言ってイルガも去っていった。彼の部下達も後を付いていく。私も城に戻ろうと動き出すと、1人の少女が声をかけてきた。


「あの~~、つかぬ事をお聞きしますが。あなたはアリスト=マイズ様でよろしいですか?」


魔法使いの帽子に銀縁眼鏡、赤く長い髪に青の瞳が印象的な彼女。黒のローブをまとっている所を見るに、私と同業者のようだ。何か用事だろうか。あるいは工事に対する苦情か何かか。


「そうだけど、君は?」


「そっか、そっか。じゃあ、単刀直入に言いますね。私の主君になって下さい。つうか、なれや!」


穏やかな表情を一変させて、私の胸ぐらをつかみ凄む少女。私は驚きながらも、とりあえず落ち着かせる事にした。道行く人達がこちらを見ているし。


「待て待て。いきなり何て事を言い出すんだ。私と君は初対面のはずだぞ?」


「‥‥そうだね、確かに初対面だった。おほん、小生はダリカ=カドナールという。こう見えてイガ伯爵の私生児なんだよ。まあ、母上がメイドだったのが原因で兄や姉にはいじめられたが」


「イガ伯爵の娘がこんな所で何を? 彼らは全員捕まったんじゃなかったのか」


イガ伯爵家の面々は漏れなく、うちの父や司祭の皆さんと共に馬車に乗せられたはず。彼女はどうしてここにいるのか疑問に思っていると、あっさりと答えてくれた。


「小生はクレア様が作った士官学校卒業生だったから目こぼしされたらしい。こう見えて座学は首席だったんだよ。‥‥運動系はすこぶる悪かったけど。と、とにかく! 小生は家族を失い、仕事も失って途方に暮れている。そこで姫様の覚えがめでたき君に仕官しようと考えた訳だ」


「士官学校なんて作っていたのか。やはり、先見の明があるお方だな。ダリカと言ったか、君は何が出来るんだ?」


「書類仕事とメイドが出来る仕事全部。あと軍師の真似事も出来るよ。ひょっとして雇ってくれるの!?」


仕官出来る喜びのあまり、目を輝かせる少女。これは雇うしかないな。イガ伯爵の私生児とはいえ、誰かに担がれでもしたら厄介だ。


それに、彼女の境遇が私に近いのも雇う理由の1つ。見ればローブや服は継ぎはぎ。杖も使い込まれていてくたびれかけている。貧乏で苦労している女性を捨て置くのは忍びないからな。


「ああ、私にも家臣が欲しいと思った所だ。書類仕事が出来るのなら歓迎するよ。それと身の回りの世話もしてくれるなら、とても嬉しい。私にはそのような存在は今までいなかったから」


「お任せ下さい! このダリカが公私共にお手伝い致しますので。‥‥うん、これで娼館に身売りせずに済む。後は主と既成事実を作って、結婚まで持ち込ませれば安泰だな」


「あのなあ、願望がだだもれなんだが? 残念ながら君とはそんな関係にはならな‥‥」


私の言葉は無理矢理黙らされた、彼女の唇によって。ちょっと、周りの方々! 口笛吹いたり歓声あげたりしないでくれませんか? クレア様に知られたら後が怖いんですよ!


「ぷはっ。ああ、小生の初めてを奪われた。くふふ、この責任はしっかりと取って下さいね‥‥いだっ! いだだだ!! ほっぺを思い切りつねらないでえ」


私の反撃に彼女はすぐに白旗を上げる。周りの人々はそれを見て笑っていた。‥‥は、恥ずかしいな。公衆の面前でキスなどとは。しかし、ダリカの唇。なんと言うか柔らかかった‥‥いかん、いかん! 私はクレア様一筋なんだ。


「まったく、困ったお子様だ。それよりも城に戻るぞ。書類が溜まっているが、2人なら何とか終わらせられるだろうから。頼りにしてるからな、ダリカ」


素行には問題があるものの、彼女の能力を見込んで仕官を認める。私が彼女に手を差し出すと、彼女も手を握り返す。私にとって、初めての部下と思うと感慨もひとしおだ。


「‥‥ふうん、主の心にはまだまだ入り込めないか。よおし、ならば小生も頑張らないと。仕事を完璧にして、身の回りの世話もして、夜はベッドで‥‥いだだっ! ちょっと、顔は女の命なんですけどお!?」


「君が変な事を言うのが悪い。それ、さっさと帰るぞ。仕事は待ってくれないからな」


こうして私はダリカ=カドナールを家臣に加えた。私はとても凄い人物を登用した事を後に気付く事になる。その事件が起きたのは、それから1週間後の事だった。


次回、イガ伯爵家残党の襲撃。

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