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建築魔道士と闇の王女  作者: 流星明
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第4幕 死神姫の裁定

お待たせしました。

クレア様の圧倒的勝利に終わったイガ伯爵領における港での戦い。その2日後、イガ伯爵の屋敷に島の貴族全てが彼女により集められた。私とライラにロナウス、ナルガはクレア様の隣に控えている。並んで立つ私達の姿を見て、驚いた馬鹿兄が声をかけてこようとしたが、死神姫様がそれを許さない。


「‥‥やっと全員集まったわね。まったく、この私を待たせるなんて良い度胸してるわ。そんなに首が惜しくないのね、あなた達?」


強大な殺気と共に放たれた言葉に、貴族全員が慌ててひざまづいて許しを乞う。


「「「「王女殿下。こ、今回の件、誠に申し訳ありませぬうう」」」」


すごいな、ガナマシー島南部に領地を持つ貴族12名と教会や修道院の関係者が総土下座だよ。まあ、あれを見たら仕方ないよな。首謀者たるルビとゴールの焼けた死体を。体に巻かれたわらに火をつけられ、命乞いと悲痛な叫び声をあげながら死んでいった2人。その様子を貴族に見せつけたクレア様。


その結果が、今回の総土下座につながった訳だ。


父上とドーガも控えているが、顔が真っ青だな。グリク以下8名全員が奴隷取引に加担していて、しかも兄はクレア様の手であの世いき。マイズ男爵家の責任を追及されかねないので、気が気が無いだろう。


私達? 奴隷取引を報告した事と賊討伐に参戦した功績で許されましたが、何か?


「イガ伯爵。あなたの港を使って、醜いガマガエルが奴隷取引をしていた。御用商人として抱えていたあなたが知らないとは言わせないわよ?」


「恐れながら申し上げます。私は何も知りませんでした。御用商人たるルビが、そのような所業に加担していたとは。かくいう私も被害者なのです。まったく、実家が公爵たる私をだま‥‥がっ!」


頭を上げて言い訳を始めたイガ伯爵の口に刀を思い切り突き刺すクレア様。刀は後頭部を貫通して血が吹き出し、伯爵の周りにいた貴族達は全力で離れた。


「なに、下手くそな嘘をついてるのよ。証拠は全部上がっているんだから。奴隷取引の利益3割を得る契約をガマガエルとしてたわよね? あと実家を当てにしても駄目よ。今朝、王都から陛下より早馬で書状が届いたの。こう書いてあったわ。『貴族の処分は全てクレアに任せる』とね。とりあえず、あんたはさっさと死になさい!」


「ぐがががっ! がああああ!!」


クレア様が刀に魔力を込めると、刀から黒い炎が噴き出した。たちまちイガ伯爵は炎に包まれ、必死に炎を消そうとする。だが、火勢は激しくなる一方で、彼はすぐに動かなくなった。しばらくして、炎が燃え尽きて炭化した体が崩れ落ちていく。その様に悲鳴をあげる者、無様に失禁する者が現れる。


クレア様は刀を振ってすすを落として納刀し、改めて皆にイガ伯爵領の裁定を下す。


「イガ伯爵領の領地及び財産は全部没収。私の直轄地とする。イガ伯爵の一族は有能な奴以外は奴隷船に乗せるたげるわ。自分の失政の尻拭いを民にさせたのだから当然よね?」


クレア様の発言に広間は静まり返る。イガ伯爵の惨状に、誰1人異議を言えない空気が広がったからだ。しかし、空気を読めない奴は世の中多い訳で。


「お、恐れながら申し上げます。どうか、どうか家名の存続だけは認めて頂きたい! 隠居した祖父母の為にも領地を少しで良いので残して欲しいのです。また、他の貴族にも罪はあります。我がイガ伯爵家だけが‥‥ごはっ!」


「なに? 他の貴族がやってるから少し罪を減免しろと?イガ伯爵家が主導して奴隷取引をしようとしていたのは分かっているのよ。それ以上話してご覧なさい。舌を斬ってあげるわ」


言い終わる前に、クレア様に鞘で思い切り頭を叩かれた。たしか彼はイガ伯爵の長男だったはず。あわれな、鳥も鳴かねば撃たれまいに。おや、少しも動かないぞ。もしかして、打撃だけで殺したんじゃ? ‥‥夫婦喧嘩とか絶対に止めておこう。


しかし、このままだと彼女の恐さしか世間に伝わらないな。クレア様の悪評が広がるのは避けたいし、私が諫言するとしよう。


「恐れながら王女殿下。あまりに凄まじい仕置きに、皆様が震え上がっております。お怒りはごもっともながら、どうか抑えて頂きますよう」


私の諫言で、屋敷の広間に張りつめた空気が広がった。父上とドーガは顔が土気色になっている。分かるよ。私に連座して、下手したら処刑されかねんからな。


私はクレア様を信じている。会って2日しか経っていないが、ここまで心が通い合う女性は初めてだった。リリアといい、元婚約者といい、親しかった女性が最悪だったのもあるかもしれないが。


「‥‥分かったわよ、アリスト。少しは自重するわ。このガナマシー島の制覇を陛下に任された私にとって、民は重要な戦力。それを勝手に奴隷として売り飛ばすなど呆れ果てて物も言えないわね」


「お、お待ち下さい。我々が好き好んで奴隷にすると考えておられますか!? 夏にきた大嵐の被害で貴族領の家計は苦しいのです。奴隷を‥‥」


「お黙り、愚か者が! 凶作の原因たる大嵐が前もって来ると私達が伝えたにも関わらず、何の対策をしないあんた達が悪いのでしょうが!」


あっ! 確かに夏にクレア様の使者が男爵家に来ていたな。父上やドーガ達は笑っていたが、私は念の為に家とロナウスの実家たる商店。母方の実家がある集落の家を土の壁で覆ったんだ。皆には笑われたけどな。


結果、本当に大嵐がきて、畑の作物は倒れるわ、家は半壊するわと散々な状況に陥った。私の家とロナウスの実家が領民の避難所になって、面目躍如。集落も住居の損害は軽微で済んでいた。


対して、対策を怠った父上やドーガ兄さんには怨嗟の声が上がってしまう。それだけで、自分達の敵になり得る私達を奴隷にしようとするなんて思わなかったが。


「それとマイズ男爵及び司祭の皆様。『偽物の聖女を認知したマイズ男爵と司祭達は速やかに王都の教会本部に出頭せよ』と、書状が来たわ。近く異端審問官と教会騎士団が乗った船が来るから、それに乗りなさい」


呼ばれた全員の顔に、一瞬で死相が浮かんだ。あっ、何人か司祭が倒れたな。リリアのいた修道院の院長なんて、脱兎のように逃げ出そうとしたし。素早く動いたナルガに捕まり、体を引きずられて列に戻されたが。


「我が街におられる大司教様が、それはそれはお怒りなの。奴隷取引に聖女の名をかたったシスターがいて、それを黙認したあなた達にね。『最も厳しい石積の刑に処せ!』とおっしゃってたから、そうなるんじゃないかしら?」


石積の刑。それは執行者を四つんばいにさせて、石を背中に乗せていくものだ。執行者の体が石の重量で潰れるまで止める事は無い。最後は骨が折れ、体は細切れ肉と化す残酷な刑である。だが、それもまだ優しいものだろう。偽物聖女リリアに比べたらな。


「それと聖女リリアだったかしら? 契約通り連れてこいと私の叔父がうるさいから、あなたは魔術の園に送るわ。リリア、叔父様の実験は地獄。覚悟しときなさい」


魔術の園。それは魔導士として高名な王弟殿下が作った魔法学校の名前だ。魔導士の育成機関として評価される反面、魔法に関する実験が非人道的と批判されたりしている。もっとも、使っている人間が重犯罪者がほとんどだからか、批判の声は極めて少ないのだが。


「えっ? いや、いやあああ!! 私は聖女なの! なんで魔法薬の実験台にされなきゃいけないのよ!? 誰か、誰か助けて」


魔術の園と聞いて、リリアが目に見えて怯えだした。しかし、彼女に同情の目を向ける者は無い。自分の命が瀬戸際なのに、他人がどうなろうが知った事では無いのだろう。私も助ける気が更々ないからな。リリア、強く生きるんだぞ。


「うるさいわね。さっさと護送馬車に連れていきなさい、目障りだわ。聖女と教会関係者にマイズ男爵、詰め込めば馬車2台で済むでしょうし。それと、お金に困っているなら私が用立てるわ。もちろん借金で利子もつくけれど。‥‥この期に及んで受けないと言う選択肢は無いからね。汗水垂らして働いて返しなさい」


「いやよ、離して! 誰か‥‥がっ!!」


クレア様もえぐい事をおっしゃるな。何も有効な施策を打てず、奴隷売買で何とかしようと考えた連中が借金を返せる訳が無い。となれば、領内にある鉱山なり産業を売るしかなくなる。少しずつ貴族達の生殺与奪の権利を握り、いずれ自分の領地にしようと考えているのだろう。


貴族達のそれから? たぶん、ごみのように捨てられるんだろうな。臣下に加えたい奴らじゃないし。‥‥ちなみにリリアは殴り倒されたあげく、気絶したまま体を引きずられていった。偽物聖女の末路としては哀れすぎる。


「以上で話は終わりよ。各自、領地に帰って今後の事を話し合いなさい。従う従わないはあなた方の自由。だが、歯向かうと言うのならイガ伯爵と同じ末路になる。覚悟する事ね」


そう言って、クレア様は部屋を後にする。彼女が出ていったのを見届けた兵士達は、父や教会関係者を次々と捕縛していく。部屋に数多くの怒号と悲鳴があがり、場は騒然となる。私も彼女の後に続くべく動こうとしたが、不意に私の足をつかむ人物が現れた。‥‥馬鹿兄よ、正直関わりたくないんだがな。


「アリストよ。どうか姫様に取りなしてくれ! このままだとマイズ男爵家は、マイズ男爵家は終わってしまうんだ。私には妻もいるし、守るべき者達も‥‥」


「ドーガ。あなたは私達を奴隷として売り飛ばしておきながら、よくもそんな事を言えたものだな。あいにく助ける義理も無いし、義務も無い。いつだったか、俺が考える理想の領地経営を皆に語っていただろう? あれの通りにすれば、借金を返せるはず。せいぜい頑張るのですな」


私はまとわりつくドーガを手で振り払うと、その場を後にする。ライラとロナウスも害虫を見るような目で奴を見ていた。とっとと実家と縁を切るとしよう。母方の実家も金を無心する奴等ばかりだったし、損切りするには良い時期だ。


「頼む、頼むよ! 頭も下げるし、今までの事を謝るから!! たから、な、な?」


「謝罪の言葉が軽すぎますな。私とライラの苦しみは、その程度で許されると思いましたか!? 実に、実に不愉快だな。ドーガ、もはや2度と会う事も無いだろう。今から私とお前達は赤の他人だ」


「俺達を捨てる気か!? 父上も捕まり、グリクも死んだ。それなのに‥‥ぐはっ!」


しまった、うっかり蹴飛ばしてしまったぞ。‥‥まあいいか。心の底から軽蔑するぞ、ドーガ。あんたの土下座など銅貨1枚にもなりはしないんだから。私は倒れこんだ彼を尻目に部屋を出ていく。


そんな私をライラとロナウスが肩を叩いてねぎらってくれた。腐り尽くした故郷ではあったが、かけがえのない妹と親友を得たものだ。実家? もう知らん。これからはクレア様の為に共に頑張っていくのだから。




次回、アリストの仕事初め。

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