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建築魔道士と闇の王女  作者: 流星明
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第1幕 聖女騎士団の真の目的

第1話投稿です。

マイズ男爵領を盛大に見送られた私達は3日後、男爵領近くで最も大きい領地を持つイガ伯爵家の港に到着した。道中、雨が降ったり、リリアが駄々をこねる等して道程の遅れが出る。


しかし、グリク兄さんが必死になって尻を叩いて期日まで間に合わせた。鬼気迫る剣幕に、あのリリアも文句が言えなかったし。


珍しいな、グリク兄さんがこうも動くのは。あの人が精力的に動くのは金か女が絡んでる時だけだ。これは警戒した方が良さそうだな。


「アリストよ。人がどんどん集まってくるぞ。既に100人近くいやがるぜ」


「‥‥若い人間が多いな。しかも見目麗しい娘も数多くいるし、これは本気でまずいかもしれん」


「兄さん、ロナウス。聖女騎士団って、そもそも何が目的なの? 声を聞く限りだと、若い人達が多いんだけど」


戦闘要員ではない女性が20人近く入ってるのは明らかにおかしい。まあ、ライラみたいに予知という強力な能力を持っている可能性はあるが。彼女達全員が有用な能力持ち何だろうか? いや、田舎で有用な能力持ちがこんなに多いはずが無い。となれば‥‥。


「2人とも聞いてくれ。もしかしたら俺達は奴隷商人に売られた可能性がある。ここに集まった者達の領地は全て凶作だったからな。まとまった金が欲しいから、いっそと思ったのだろう」


「‥‥おい、マジかよ。まさかの奴隷扱いか。アリストやライラに加え、俺も? じゃあ、領地の面々が俺達を盛大に見送ったのは」


「厄介払いが出来た喜びと大金が手に入る喜びの相乗効果だ。こうもなめられると腹が立つ前に呆れるな。うん? どうしたライラ」


ライラは黙ったまま目を閉じていたが、しばらくして目を開く。何も見えない瞳には揺るがぬ決意が浮かんでいた。小声で私達にささやく。


「2人とも、焦らず静かに聞いて。出来れば、集まった人達の外側にいた方が良い。そうしないと逃げ切れない。南側の山へ逃げるのが1番良いみたいね」


私とロナウスは共に黙って頷く。こうなった時のライラには従うのが私達の決まり事だ。失明してからしばらくして、彼女は予知の能力に覚醒した。その正確さは本物で、私達は何度も命を救われたのだから。


「分かった、すぐに動こう。他の連中には悪いが自分達の命が優先される。ロナウスはライラの手を引いてくれ。私が道を作るから」


私が先頭に立ち、人波を掻き分けて2人を誘導していく。もう少しで外に出れると思った所で、傭兵達が1列に並び壁を作っている場所に出た。私達に気付き、1人の傭兵が前に出てくる。


「おい、そこの3人。どこに行くつもりだ? まもなく聖女騎士団は船に乗る事になる。大人しく待っていろ」


冷たく抑揚の無い言葉をかけてきた優男の傭兵。剣を腰に2本提げているな。しかも、1本は鞘からして業物だ。もしかしたら彼は‥‥。


「あれ? 剣士ナルガじゃねえか! 久しぶりだなあ。俺だよ、俺。騎士ロナウスだよ」


「…むっ、誰かと思えば筋肉ロナウスか。旅先で盗賊狩りをして以来だな。しかし、いつから奴隷に成り下がった? よもや、頭も筋肉まみれになって騙されたか?」


「筋肉、筋肉うるせえよ!! ‥‥おい、ナルガ。これってのは、やはり奴隷集めなのか?」


まさか、剣士ナルガに会えるとはな。王国西方で5指に入る凄腕の傭兵と知られる男。その剣撃、舞の如くと称される剣の達人でもある。確か、ロナウスと何度か共闘したと聞いていたな。まずは情報収集といこう。


「剣士ナルガ殿。私はアリスト=マイズです。ロナウスとは親友でして、あなたの話はよく聞いていました。こっちは妹のライラ」


「ほう、貴族の変わり種と筋肉の想い人か。ロナウスにはもったいない美人だな。お嬢さん、どうだ俺に乗り換えないか?」


「えっ!? い、いえ、私はロナウスが良いですから。その、ごめんなさい!」


ナルガの求愛に動揺するライラ。おい、人の妹を勝手に口説くな!変わり種って、ロナウスの奴がそんな風に言ってたとは。私の視線に気付いたのか、ロナウスは弁明する。


「あ、アリスト。変わり種は良い意味で言ってるからな!? 普通、平民と一緒に遊ぶ貴族の子供なんていねえから。まして、成人すぎてからも対等な関係を許してるのは珍しいんだぜ」


「あのなあ、私とライラは貴族とは名ばかりの存在だぞ。平民に片足突っ込んでいるんだ。そもそも亡くなった母親が農民の娘だし」


「うん、私も貴族とは思ってない。そもそも私達が貴族になっちゃったのは、全て父のせいなんだから。お母さんは嫌いじゃなかったみたいだけど」


もともと私達の母はマイズ男爵領出身の農民だった。本来なら貴族の妾になれないのだが、ある出来事がきっかけとなり妾になってしまう。


狩猟をしていた父が川で水浴びをしていた母を見初め、そのまま森に連れ込んでしまう。どうやら父は気に入ったらしい。逢い引きを何度も繰り返した結果、俺を身ごもった母。両親や名主と共に屋敷を訪ねて、父に子供への養育費を援助して欲しいと願い出たのだった。


その後、父と本妻による壮絶な夫婦喧嘩が勃発。死闘の末に母は認知され、別宅にて男爵の妾として仕える事になった。ちなみにだが、俺が生まれて5年後にライラが生まれている。馴れ初めはともかくとして、夫婦仲は悪くなかったらしい。


「おほん! ナルガ、人の恋人に手を出すなよ。妙な事をしたら、殺すぞ?」


「ふっ、分かった。しかし、お前達はまずい所に来ている。それは自覚するんだな。‥‥上手く逃げないと離れ離れに売り飛ばされるぞ。それと絶対に腕輪はつけるな。忠告は以上だ。すぐに出会えて良かったぞ」


小声で忠告したナルガは(きびす)を返し、傭兵達の所へ戻っていく。冷たい人物かと思ったけれど、なかなか好感を持てる人間だったな。


と思っていたら、遠く仮設で作られた舞台上に、リリアと太った男が並んで立った。‥‥どうやら騎士団奴隷化計画が今まさに始まるらしい。


「聖女騎士団の皆様! 我輩は商人のルビ=ゴ=ガマです。これより皆様には船で王都に向かって頂きます。田舎で一生を終えるはずが、王都で一旗あげる機会が目の前にあるのです! 皆様方の武力や能力等をいかんなく発揮して下さい。では、まずは聖女殿にお言葉を賜りましょう」


「ルビ様、ありがとうございます。本日は晴天ですし、神も聖女騎士団の旅立ちを祝福しているのでしょう。ああ、私はなんて幸せなのかしら」


ルビとやらが紹介したリリアだが‥‥自分に酔ってるよなあ。悲劇のヒロインとか、可哀想な私を演じるのが好きだったっけ。だからか、修道院に行く日。村の女の子達から満面の怖すぎる笑顔で見送られたんだよな。


『もう2度と帰ってこないでね!』『修道院でひん曲がった根性を治すのよ!』『神様、どうかこの愚かな娘に死をお与え下さい!!』という心が寒くなる言葉付きで。幼いながらも女性はつくづく怖いと思ったよ! ちなみに最後の言葉はライラだった。妹は怒らせたら怖すぎなんだよ、うん。


「皆様、私達は崇高なる目的の為に集まりました。『アルザン帝国を打倒し、オルシニア王国を救え!』と。私は、そう神に命じられたのです。ここに集まった方々は聖女と共に神の尖兵として戦う。それが運命(さだめ)なのです。皆様、私の右腕をご覧下さい。神に選ばれし者の証たる黄金の腕輪です。今から皆様にもお配りしますので付けて下さい」


リリアの演説後、強面の傭兵達が腕輪を配っていく。期待と不安半ばする感情を持ちつつ、それを付けていく人々。私達にも渡されたが、3人とも付けた振りをして右手をローブやマントで隠した。忠告を感謝するぞ、剣士ナルガ殿。


「皆様、腕輪を付けましたね? さあ、いざ王都へ‥‥きゃああ!!」


いきなり聖女が傭兵に舞台から蹴り落とされた。それを見たルビは邪悪な笑みを浮かべている。どうやら父やこの辺りの聖職者に貴族達も皆グルらしいな。


「諸君、君達は王都には行ける。しかし、残念だが騎士団としてではない。ただの奴隷としてだ! 男は労働奴隷や剣闘士、女は娼婦やお偉方の慰み者になってもらう」


衝撃的な発言を受け、動揺する聖女騎士団だった人々。しかし、こんな大規模な人身売買して良いのかな? 隣にクレア王女が治める州都ディプレがあるのに。この島の総督たる彼女にバレたらまずいと思うが。


「ちょっと待ちなさいよ!? 私は聖女として王都に行くの。誰が娼婦に‥‥ぎゃあああ!!」


「きゃああ! なに? 何が起きてるの?」


「近づくな! 俺達も巻き添えをくうぞ!!」


リリアが立ち上がって文句を言うも、腕輪から激しい雷魔法が現れ、体を包んだ。雷が収まると彼女は地面に倒れ込む。身体中から白い煙が立ち上ぼり、少しも身動きしない。それを見た人々が巻き添えを恐れ、慌てて下がっていく。


「聖女だあ? ただの穀潰しの癖によく言う。修道院からも家族からも見捨てられ、奴隷として売られたのだ。おい、聖女様を運べ。こいつは娼婦じゃなくて何かの研究に使うそうだ。これ以上傷つけるなよ?」


気絶したリリアは傭兵達により運ばれていく。研究か。そういえば、王都で魔導士が魔法や薬物の人体実験をする話を聞いた事がある。嫌いな奴だったが、実験台に使われるのは哀れだな。もちろん、助ける気は全くないが。


「皆様、ご覧の通りだ。命令に逆らえば致死量に近い雷魔法が流れる。よくよく考えて行動するように。では、名前を呼ばれた者から順に船に乗れ。呼ばれたら傭兵に付いていくのだぞ」


「そ、そんなあ」


「私は売られたのか!? 父上、母上。おのれええ!!」


「帰りたい、元の村に帰りたいよおお!」


時間が立てば立つ程逃げにくくなる。ならば動揺が収まらない今が好機と言えるだろう。私はロナウスとライラを見る。2人ともうなずき返したのを見た私は、傭兵達に向かって走り出した。


「おい、止まれ! 止まらないと腕輪が‥‥? こいつら腕輪を付けてねえ! 全員集ま‥‥ぐはっ!!」


「うわっ、いきなり穴が!」


「痛えええ! 足が、足が折れたあ!!」


剣を抜いた傭兵達の足元に落とし穴を作って、囲みを突破する。後ろを見れば‥‥よし、2人は付いて来ているな。情報をくれたナルガはどうしたかと見渡すと、不意に前方の森から出てきた。


「やれやれ、依頼主も無理難題を言ってくれる。まあ、報酬が悪くないから遣り甲斐はあるがな。こっちだ、道案内は任せろ」


「待ってください! ナルガ殿は奴等に雇われた訳ではないのですか?」


「まあな。怖い依頼主様はこの企みをお見通しだったようだ。俺は奴等の監視役兼とある人物の保護を命じられていてな。おっと、話し込んでいる場合じゃない。いくぞ、お前達!!」


「待ちやがれ、ナルガ! もう少し詳しく話を聞かせろ!!」


ナルガはそう言って森の中へと入っていく。ロナウスが彼が消えた森へと走り出す。私がライラを見ると彼女は力強く頷いた。どうやら信用して良いらしい。


「ライラ、手をしっかり握ってくれ。少し走るがついて来い。しかし、ナルガの依頼主とはいったい何者なんだろうな?」


「大丈夫、お兄様。私達の進む道は間違ってない。‥‥あの方の啓示通りだから」


最後の方は声が小さくて聞き取りにくかったが、ライラの予知には信頼を寄せている。今は彼女を信じて走るしかないな。








次回、ナルガの依頼主との出会い。

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