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建築魔道士と闇の王女  作者: 流星明
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プロローグ

「皆の者、よく集まってくれた。私、ムンバ=マイズが、ここに聖女騎士団の立ち上げを認める! 諸君、この度聖女となったリリアの言葉を聞くが良い」


私は何も言えない表情を浮かべ、目の前で行われている茶番劇を眺めていた。場所はバイド大陸に数ある国の1つであるオルシニア王国。その西端に位置する島の南部にあるマイズ男爵家のみすぼらしい屋敷前の広場だ。


私の父に促されて出てきたのは、美しい青い髪が印象的な見目麗しいシスターって、ちょっと待て! あいつ、容姿は悪くはないが極めて性格が壊滅的に悪いんだよな。極力近づきたくない。


「男爵様と司祭様より、本日を持って私は聖女と認められました。神の声を聞いたのです! 憎きアルザン帝国を打倒し、オルシニア王国を救えと。これは特別な私に与えられた使命なのです。皆様、私に力をお貸し下さい。聖女リリアと共に戦おうではありませんか!!」


「「「おおおっ!!」」」


よく言うわ。しかし、それに乗せられた農民の次男坊や三男坊等の男達は呼応して声高に叫んでいる。とはいえ、装備は貧弱そのものだ。青銅の剣や皮の鎧を持っている者はまだ良い。中には布の服に鎌や鍬を持っている輩もいた。


喧嘩ならともかく、戦闘経験は極めて乏しい面子が揃っている。かくいう私は魔導士ではあるがな。魔物や獣相手はともかく、対人間との戦いはあまり経験が無い。


村の広場に集められたのは、男が8人と女が4人だ。私ともう1人以外は、素行に問題がある者達ばかり。肝心の聖女リリアも昔は家の仕事も手伝わずに遊び回るような女性であった。この様子を見て、私の隣にいた男が大きなため息をつく。


「なあ、アリスト。‥‥これは明らかに口減らしだろ? お前さんのすぐ上の兄にあたるグリク様まで出すなんてな。要らない人間をまとめ、神の戦士に仕立て上げる気だぜ」


本質を見抜いた彼はロナウスという。マイズ男爵領で唯一の商家の次男坊だ。商家の出ではあるが、並外れた筋肉と強靭な体を持った男爵家付きの兵士である。私、アリスト=マイズとは幼なじみの関係。会った当初からウマがあって、共に遊び学んだ親友である。使い慣れた鉄の大剣に鉄の軽装鎧と装備品はなかなかの質だ。


話に出た私の兄であるグリクは、戦士としては優秀だ。だが、粗暴な性格が災いして男爵領の鼻つまみ者として知られている。そんな彼だからか、今度の聖女騎士団結成をかなり喜んでいた。取り巻きの連中と一緒になって『俺が活躍出来る場所がようやく出来る』と、大声で男爵領内外問わず言いふらしているし。


「さすがに分かるか、ロナウス。聖女騎士団などと謳ってはいるが、実態はただの口減らしだ。今年は小麦を含め、作物全て凶作だったからな。クレア王女が治めているディブレはかなりマシらしいが」


「‥‥王女殿下の評判は極めて悪い。わがままで気分屋、気に入らないと古参の者でも追い出すとの事だ。だが、不思議と領内は治まってるもんな。アリストの親父さんは‥‥人が良いけど為政者としては、な」


「言いたい事を言ってくれる。だが、否定は出来んな。1番上の兄もこの辺りの貴族から凡庸と蔑まれている。だからか、俺達を聖女騎士団とかいう道化集団に参加させた。自分の地位を守る事しか能の無い男さ。血のつながった兄ではあるが、反吐(へど)がでるな」


私の父であるムンバと長男であるドーガもこの場にいた。しかし、父はともかく兄のやる気の無さは目に余る。隣に美人の新妻を侍らせ、溶けたバターのようにだらしない表情を浮かべていた。


「はっ、話にならねえな。次期領主があれじゃ、マイズ男爵領もお先真っ暗だ。親父達もディブレに引っ越すつもりらしいし、ここもますます寂れそうだぜ」


初めて聞く話に、私は驚いた。行商人だったロナウスの父は、男爵家が出来て以来の付き合いある商人だ。定住して10年近くになるが、まさか離れるとは思わなかった。男爵家の人間としては彼らに残って欲しい。


しかし、彼らにも生活があるのだ。こんな土地で生きるのは難しいからな。私は断腸の思いで、それを是とするしかなかった。


「‥‥そうか。ロナウスの商家が無くなるのは大きな痛手だ。しかし、よく父や兄が許可したよな」


「ここだけの話だぞ? ムンバ様には『港町ディブレでしか手に入れられない物があります。店は移動しますが、男爵領に定期的に商隊を送りますのでお許しを』と言ったが、おそらく何ヵ月かに1回だ。親父達はマイズ男爵家を見限った」


辺りを気にしながら、小さな声でロナウスは語る。このまま商人に見限られたと知られれば、実家は諸侯からは物笑いの種。だが、親友の言ってる事は分かるので頷く。


「これも生きる為だ、仕方がない。となれば、早めに仕官を考えねばならん。まだライラは13歳だ。俺以外に頼れる身内がいないし、早く引き取りたい」


母方の実家はあるにはあるが、しがない農家だ。加えてあまり仲が良くない。亡くなった母と叔母が犬猿の仲だった上に、従兄弟達とも疎遠の状態だ。まあ、ライラに要らぬちょっかい出したから、ライナスと一緒になって成敗してしまったんだがな。


「相変わらず、妹大好きだよな。ま、まあ、将来的には美人になりそうだし。以前から言ってるが、俺を彼女の旦那にしてくれ!! なあ頼むよ、幸せにするからさ!」


必死に手を合わせるロナウスを見て苦笑してしまう。昔からライラを好きだったからな。目の見えない彼女を外に積極的に連れ出してくれたし、旅先から帰ると色々と贈り物をするし。そんな彼にライラも好意を抱いているから、私としては許したい。父は政略価値無しのライラを見捨てているからな。


「‥‥ロナウスなら構わない。妹とも仲が良いし、出世しそうだしな。伊達にマジックボックス持ちじゃないよな」


マジックボックスとは神より与えられた能力で、魔法の箱に物資を収納が出来る。普段は異空間にあるが、呼び出せばどんな場所でも中の物を取り出す事が可能だ。熟練度が上がれば、万単位の軍隊の輸送を一手に引き受けられる程になれる代物である。


ちなみにだが、私が得たのは上級土魔法。開墾や土壁と石垣の生成に役立っていたが、これからはどうするんだろうな? 男爵領の開墾や環境整備、私がいないと大変になるぞ。


「そうだな、俺も仕官を狙ってみるか! 家にいても兄貴にこき使われるだけだ。一緒に騎士を目指すのも悪くねえな、アリスト」


「ああ、共に頑張ろうじゃないか。とりあえず、まずはこの馬鹿げた聖女騎士団から離脱しないとな」


「ちょっと、アリストにロナウス! 聞き捨てならない事を言ってるんじゃないわよ。あんた達位の実力者、そうはいないんだから。道中、しっかりと私を守りなさい」


嫌な女の声が聞こえる。振り返れば、魂こもらぬ演説をしたシスター姿の聖女殿が怒りで顔を真っ赤にしていた。一応、聖女である彼女リリアも幼なじみだ。私も幼い頃は好意を寄せた事があるが、ある事件がきっかけで絶縁状態になった。しかし、よくもまあ私達に話しかけられたものだな。


「‥‥リリア。ずいぶんと厚顔無恥な言い方だな。お前は昔、ナダル蜂の巣にちょっかいをかけて1人逃げ出した卑怯者だろうが。しかも、その時ナダル蜂に刺されたライラは熱で3日3晩苦しんだ。あげく、失明までしたんだぞ!」


「そ、それは悪かったと思ってるわよ。危うく処刑台送りにされそうだったし。でも、お祖父ちゃんが責任を取ったでしょ!? 私も修道院に送られたんだから、罪は償ったわよ」


‥‥あの光景はよく覚えている。そもそも、リリアの家は代々私の家の従士長をしている家だった。彼女を処刑しようとした父の前に、先代従士長が頭を下げて許しを乞うたんだ。長年従ってくれた彼に免じ、罪を許した父。それを聞いたリリアの祖父は首に剣を当て、そのまま勢い良く引いた。


血が吹き出すも、彼は何も言わずに黙ったまま事切れた。多くの人々から慕われていたリリアの祖父の潔い死に様。その悲惨さに皆が涙を流したのを覚えている。逆に『私は悪くない』と言いたげなリリアはふて腐れていた。


その様子を見たロナウスがキレて、剣で斬りかかろうとしたんだよな。全力で何とか彼を止めた私達。彼女を男爵領に置くのは危険と判断した父は、修道院に放り込んだ。そして、10年の月日が流れたが、彼女はまったく変わっていなかった。悪い意味でな。


「はっ、懲罰房の主様がよく言うぜ! 仕事の態度も不真面目で、寄進された金は盗む。あげくに商品のワインを飲みまくって、ワイン蔵で爆睡していたと聞いたぞ。酒場でその話を聞いた時、同郷の俺はかなり恥ずかしかったんだが?」


「なっ! ち、ちょっと大きな声で言わないでよ!? 私は聖女なのよ。そんな不祥事がばれたら、皆ついて来なくなるじゃないの」


「相変わらずね、リリア。残念だわ、先代従士長様は命を無駄に散らしたのね」


静かだが怒りが込められた声の方を振り向けば、魔導士のローブをまとった妹が立っていた。私と同じ黒髪の彼女は、驚いた事に旅支度を整えている。慌てて、私は彼女に尋ねた。


「ライラ!? どうして、君がここに‥‥」


「俺が誘ったんだ。『兄さんと俺がいないここにはいたくない!』なんて言ってくれたからな。だから、アリストには黙って連れ出した。悪かったな」


「兄さん。私、一緒に行きたい! 1人で兄さん達を待ち続けるなんて、絶対に嫌だから。予知でも2人に付いていく方が良いって出たの。それに‥‥ロナウスが守ってくれるって言うし」


目がうるみ、顔を赤らめてロナウスを見つめるライラ。いつの間に妹をここまでたぶらかした親友よ。まあ、良いか。私もライラが心配だったからな。手の届く範囲にいた方が守り易い。だが、その前に‥‥だ! 私はロナウスの肩を抱き、森へと向かう。


「ロナウス君。まさか、ライラに手を出していないだろうな? ちょっと、あの森でお話をしようじゃないか。拒否は許さんよ」


「お、おい、アリスト? いや、まだ手を出しちゃいねえって! ただ、手をつないだりキスをした‥‥」


「そうか、そうか。ライラとキスをしたのだな。覚悟しろよ、ロナウス。ちょっとした罰を受けてもらうぜえ」


おっ、罰と聞いて顔が青くなったな。昔、イタズラしたロナウス君を土魔法で作った即席の(やぐら)に乗せたんだよな。高さを近くの丘並みにして。夕方に彼を下ろしたら、号泣して色々と漏らしていたな。『お仕置きにしてもやりすぎだ』と、ライラに叱られた思い出がある。


「兄さん! ロナウスだけが悪くないわ。罰なら私が受ける。だから彼を助けて」


「だ、ダメだ。目が見えない君にそんな事をさせられない。俺が受けるよ。なに、心配はいらない。お、おらもむ、昔とはち、違うきゃら」


‥‥はあ、私が悪者じゃないか。妹にすがりつかれて、親友は泣いて足も震えてるよ。仕方がない、許してやるか。それに、リリアからも離れられるしな。


「分かった、分かった。だが、ライラを嫁にするのなら条件がある。その辺は話し合うぞ。では、聖女殿。そういう訳で、失礼する」


「あっ、ちょっと待ちなさいよ! 話はまだ‥‥」


リリアの声を無視して、俺達はさっさと森に避難する。まあ、話し合う内容は違うがな。この聖女騎士団は話がきな臭い。気を付けないと命を落としそうな気がする。3人が生き残れるよう立ち振舞わないとな。




次回、聖女騎士団の真実が明らかに。

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