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サプライズプロポーズ  作者: 猫之面
3/3

自分の気持ち

あの日以来、彼とは連絡を取っていない。


家に訪ねて来た事はあったけれど、

居留守を使った。


彼と、もう会いたくなかった。


さすがに会社にまで、彼が来る事は無かったのが救いだった。


暫くして、私は引っ越した。


彼が訪ねて来た時に、バッタリ会ってしまう事を避けたかったのもあるが、彼との思い出が詰まった家にいる事も辛かった。


今、住んでいる所は、以前の家よりも職場から少し遠い場所だ。


通勤電車の時間も変わり、生活サイクルも少し変わった。


休みの日は、家の近所を散策したり、かわいいパン屋、美味しいランチの店、会社帰りに立ち寄って呑むのに良さげな店を見つけたりもした。


そうして、彼との接点を無くし、新たな環境での生活を始めて数ヶ月が過ぎた。


自炊もしていたけれど、最近は仕事が忙しくて会社帰りに呑みながら軽めの晩ご飯で済ませる日が増えた。


そこで働いていた人と、私はお付き合いを始めた。

その人は、その店のオーナーで店内のスタッフの誰よりも動いていた。


きっかけは、たまたま店内が空いている時に、店の常連になっていた私と、その人が長めに会話をしていて、店が混み始めたので会話をやめた。

でも、お互い「もう少し話したかったね」となり連絡先を交換した。


数回、連絡を取り合い、店以外で会う約束をして、数回デートを重ねた。


私より、5歳年上だけれど話が合った。

食事に関しても味の好みが似ていた。


付き合うまでに、そんなに時間はかからず、

一緒に過ごす時間が増えて、その延長で自然にお付き合いが始まった。


付き合って半年を過ぎた頃、プロポーズをされた。


その日は、彼の誕生日だった。


レストランで食事をして2人でお祝いした。

プレゼントを渡すと、その場で開けて喜んでくれた。


そして、彼が

「僕からもプレゼントがあるんだ」

とテーブルの上に綺麗にラッピングされた、

小さな箱を置いた。


開けてみると、指輪だった。


「結婚してほしい」


まさか彼の誕生日にプロポーズされるとは思っていなかった。

ある意味サプライズだ。


でも、店内に音楽が鳴ったり、店員が花束を持ってきたりはなかった。


彼は続けてこう言った。

「返事は君のタイミングでいいよ」

「でも、できれば来年の僕の誕生日までに返事をもらえるといいな」


そして、彼は照れ臭そうに笑った。

私の大好きな彼のはにかんだ笑顔。


「宜しくお願いします」

私は思わず、そう答えていた。


彼が驚いた顔で私を見ている。

「え!?……いいの?本当に!?返事は急がなくていいよ!君の大切な一生の事だから。ゆっくり考えてからでいいよ」


そうだ。

彼は、いつも私の人生も考えてくれる。

私と意見が合わない時、彼は表面的にわかった振りをせず、お互いが納得するか妥協できるよう前向きに話し合う。


私は、今度は自分の意思ではっきりと答えた。

「結婚の事は、正直まだ考えていなかった」

「でも、貴方に今言われて私も同じ気持ちだ。って気付いたの。だから、宜しくお願いします」


私の言葉を聞いた彼は下を向いた。

彼の耳が赤くなっている。


「ありがとう。……ありがとう」

そう言いながら顔を上げた彼の目と鼻は少し赤かった。

そして、私の大好きなはにかんだ笑顔で

「一緒に幸せになろう。こちらこそ宜しくお願いします」

と言った。


私は、彼と結婚した。



……夫にプロポーズされた後、気づいた事がある。

なぜ元カレの時に「今はまだ結婚したくない」と思ったのか。

あの時は、仕事もやりがいがあり自分の時間も充実していて元カレとの時間も楽しいと思っていた。

結婚して、それが崩れるのが嫌で覚悟が決まっていない、と思っていた。


でも、違った。


元カレの表面的な優しさに、私はずっと違和感を覚えていたんだと思う。

私を気遣う素振り、理解した振り、そして私の望まないサプライズ。

元カレと楽しい時間を過ごしたくて、ケンカしないよう、嫌な部分を見ないように無意識に目を瞑っていた。


だからプロポーズされた時、自分に嘘をつき続ける人生を選択できなかったんだと思う。

私は、あの時、元カレに腹を立てていたけれど、

自業自得の結果だったのかもしれない。


今は、元カレのサプライズプロポーズに感謝している。申し訳ない気持ちもある。

あの時のサプライズプロポーズがなければ、別れる決心がつかないまま、今も付き合っていて元カレと結婚できずに私の我儘に付き合わせていたかもしれない。



……今は、夫とケンカする事もあるけれど、楽しく暮らしている。

ケンカをしてもすぐに仲直りができる。

夫とは、お互い心の底から信頼し合っている。

信頼できるパートナーと、私は幸せに暮らしている。



Fin

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