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蟹の人生  作者: 藤代京
2/2

蟹 這う


 蟹は見た目以外は特に問題なく育っていった。

 横に広い体型のせいで寝返りをうつのはできなかったが。

 定期的に体の下に敷いた折り畳んだタオルの位置を変えてやらなければならなかった。あまりに平たいので下にタオルをそえないと体の向きを変えることができなかった。

 うつ伏せ寝は厳禁だった。

 顔も平たく鼻も小さく低いので、うつ伏せにすると息ができなくなる。

 蟹父はなんどか蟹をうつぶせにしてしまう誘惑に駆られた。故意だとすぐばれると思い直すが、誘惑はたびたび蟹父をそそのかす。

 細い目が離れてついている。鼻はあるのかないのか。唇は薄く横に広い。

 なんど見ても可愛いと思えない。

 不気味と感じることはしばしばだったが。

 赤ん坊らしく無邪気に笑うと不気味さが増した。

 蟹母の子育ては事務的だった。

 蟹の様子を見て、ミルクをあげたりおしめを変えたりするのではなく、アラームを設定して時間がくるとミルクを与えおしめを変えた。

 それ以外は蟹が泣いても知らぬふりでひらすら面白くもなんともないテレビを見続けた。テレビでタレントが冗談が言っても、蟹母の表情は動くことはなかった。

 たまにある夫婦の会話は二人目を作るかどうか? だった。

 蟹は仕方ない、育てるとして二人目を作ってやり直すか、二人の会話はそれにつきた。

 二人目で普通の赤ん坊が生まれたらいいが、また蟹だったらどうするのか?

 子どもが蟹だけなのはつらい。

 第二子も蟹なのもつらい。

 そのどうどう巡りだった。

「なあ、どうしたらいいと思う?」

 蟹父は蟹に問うが、もちろん蟹が答えるはずもない。

 蟹が短い手足をわしわしと動かしてる。

 ???

 表情が読めない。

 蟹が生まれてからもう半年以上たつが、喜んでるのか悲しんでいるのかよく分からない。離れすぎている目が人間らしい感情を連想させるのを拒んでいる。

 ひっくり返りたいのかな?

 えいや、とひっくり返して床に置くと蟹は手足を動かして、這い始めた。

 あ、横じゃなく前にはいはいのするな、と蟹父は思った。

 我が子の成長を喜ぶ場面だったが、蟹父は漏らしたのは、

「不気味」

 だった。


 

 

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