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ハーレムだがノットイージーモードの文芸部!  作者: なしあじ
Chapter-03 恋路渦巻くフェスティバル
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P.031 ゴースト・イン・ザ・オフィス

~9月3日~


「おっすおっす。精が出はりますなぁ」


「おぉ~、お疲れ篤哉くん」


「なぁによそのゴミ京都弁は」


「今日は一段と辛辣だなオイ!?」


 帰りのHRが終わり、さっさと学校から出ていこうと廊下を闊歩していたところ、学年の共有スペースでダンボールを鮮血色に染め上げる体操服姿の光とまりあを目撃。多少のウザ絡みを光に仕向けてみたが、逆に鋭い眼光を浴びせられてカウンターを食らってしまう。


一方まりあは天使様属性を見せつけながら粛々と作業。禁忌に触れさえしなければ、かわらしいし最高である。


「アンタは暇そうでいいわね。こっちはホラーで、本番までに仕上がるかの瀬戸際なんだから」


「まぁ、そりゃ飲食とホラーじゃやること作るものが比にならないからな。直前までは楽させてもらうぜぇ」


「こんの……」


「え、篤哉くんのところは何出すの?絶対行くよ~!」


 イライラが最高潮に達して渋い顔をする幼なじみと、いかにも楽しげに話題を展開させようとする同期。ひとまず表社会では(・・・・・・・・・)どちらが幸せそうで健康的かということは、一目瞭然だろう。


「そうだ。篤哉暇ならさ……」


 ほめることはしないように、筆を走らせるまりあとの談笑を少しだけ楽しもうかと思ったところに光のジャマが入る。呼びかけて何か言うわけでもなく、ダンボールから離れて背後のリュックに向かった。


「なんだってばよ?」


 おそらく世界で最も忍者の名語尾をもじってみる。しかし光はリュックの中をゴソゴソと探るだけでなにも応答してくれない。ツッコミ不在の物足りなさとはこういうことなのかと思う。お兄さん悲しいです。


「あったあった。はいこれ、よろしく。クラスの方もないんだから暇でしょ?」


 そして何かを探し当てたようで、こちらに身を翻してきた。その次にUSBメモリが乗った手のひらを差し出しては、多くを語ろうとしなかった。


「なんだよこれは」


「なにって、USBだけど」


「それは見りゃわかる。もしかしてお前、俺にデータ移行してこいと?」


 週明けの放課後には部誌の印刷・製本作業。そして今日までにオフィス(部室)のパソコンへ各々作品のデータを移さなければならない。さらに部員たちはみな作品データをUSBに保存している。甚だ時代錯誤には思われるかもしれないが、データ移行のためにはUSBを携帯し、その足で校舎内の僻地まで漂流することになる。


そんな状況と会話の文脈から想定されることを伝えてみたところ、光は先ほどまでと打って変わって機嫌よさそうに「そうそう」とレスポンス。顎で使う気満々というわけだ。


「マジだるいんですけどぉ~……」


「一昔前のギャル?」


「それはそうなるだろ。というか自分で行けよお前……俺は昨日行ったんだからよ……」


「御託はいいからさっさと行くッ!私は血でアイツを染めるんじゃあ!」


「イエッサー本荘の(あね)さん!」


「光ちゃん……血じゃなくてバーガンディだよ」


 俺が一対一(サシ)で会話していたのは、レディースの総長、あるいは極妻でした。白いシャツの所々に血しぶきのごとく赤い水彩絵の具の汚れが付着していて、本荘光総長または極妻説がより一層強固なものとなっているのである。もっと俺が反骨心を見せていたら、モノホンの血でダンボールを染め上げられていたところだろう。


「まぁわかったよ……さっさと行ってくるから貸せ」


「はい、お願いね」


 半ば強制的に業務委託契約を締結させられ、USBを受領する。いくら圧力がかかったとはいえ、俺の主体性の薄さはごまかせない。


「あっそうだ。まりあもUSBあるでしょ?ついでに篤哉にやってきてもらいなよ」


「かばんの中にあるけど……大丈夫だよ、私はあとでもってくからさ」


「いいや俺が持ってくぞまりあ!」


「この現金な野郎が!」


 俺は幼なじみだからと思って図々しくこき使おうとする奴は気に食わないし、進んで協力しようだなんてことは思わない。しかしながら今のまりあのように控えめに、申し訳なさそうにしている女子を……どんな男が無視できようと言うか!もはやそこにまりあのドス黒バックグラウンドは関係ない。


 そうして、まりあの分のUSBも受け取って、俺はルンルン気分で僻地へ向かったのであった。光には最後まで細めた白い目でガンつけられていたようにも感じるが、もはやどうでもよかった。強引な相手には必要以上に反発せず良きところで手を引くのがちょうどいいのである。



 オフィスに強制連行、もとい部長に先導されたあの日からはや数か月。校舎の片隅にあるオフィスに幾度となく通ってきた。そうしていれば、陰気で何か出そう(スピリチュアル)な雰囲気も特に気がかりなものではなくなってきたのだ。


 そのはずだったのだが…………


(なんかなっがーい髪の女の人がいるんですねぇ。椅子に座ったまま身動き一つないねぇ。こわいなぁこわいなぁ)


 思考回路に埋め込まれた俺は、怪談でおなじみのおじいさまと化していた。


なぜなら、校舎内の僻地という比較的広めの空間ではなく、オフィス内という非常に狭いピンポイントの空間で心霊現象が巻き起こっているのだから……!


(早いところ立ち去ってくれんかね……)


 霊威が自主的にオフィスから消えてくれることを待望しているものの、部屋の中に入ろうとしてドアの隙間からその存在に気づいてから十数分。幽霊は一切動く様子が無い。長い髪で顔が覆われ、表情をうかがい知ることも叶わない。


 それじゃあ突入して霊威とタイマン張るほどの気概があるかと問われると、そんなものは存在しない。そもそも、概念として存在する霊威に物理攻撃が通用するはずもなかろう。気概があったとて、突撃するだけ無駄というものである。


(おっと……?)


 出方を決めあぐねていると、一切の動きを見せずにいた霊威がついに椅子から立った。


 伝承の中の幽霊よろしく、足取り重そうに立つのかと思えば、俺のイメージを裏切って飛び出すように椅子から離れた。これはこれで訳が分からず恐ろしい。


 そして自由の身となった長髪の霊威が次に何をするのか、俺の中で注目を集めていると……さらに俺は逃げ出したくなるような気分に襲われた。


(めちゃくちゃアクティブやんなぁ!?死してもなお楽しそうで何よりですねぇ!?)


 モノローグはもはや俺ではなくなってしまった。


 しかし……突如霊威が手先をつま先につけようとするストレッチを始めたり、おそらくラジオ体操の一節を全身で表現していたりと、そんな大変健康的な霊威の姿を目撃してしまったら恐ろしさは限界突破してしまうというのに、誰がアイデンティティ(自我)を保っていられようか。この世にそんな人間がいるとすれば今すぐ連絡が欲しい、というか連絡しろ!


「あっ……」


 コツンと、軽やかな響きが木霊する。


 狼狽を抑えようと心を落ち着ける試みをしてみたところ、弾みで手に握っていたUSBメモリを足元に落としてしまったのである。


 その音は、俺の考えるよりも大きかったようで……


(き、きかれたぁ!)


 長髪の霊威のお耳にも軽やかな響きが届いてしまったらしい。さらに、音源がドアの方であると霊が気づくと、今度はゆったりとした―幽霊らしい足取りでこちらに接近してくる。

こうなると、ドアの隙間からしゃがみ込んで様子を伺うどころではない。立ち上がって、二歩三歩後ずさりしてしまう。


 ホラーゲームをやっているときのような緊張感とは比にならない、底知れぬ恐怖が全身から湧き上がってくるような感覚である……


 身体の強張りが最高潮に達したところで、オフィスのドアが開かれて……


「どなた…………ですか…………?」


「あっ、あっ」


 今を生きる人の前に姿を現した霊威は、長い髪の間から右目だけを露わにして、細い声で囁くように問いかける。



 なるほど、これが本物の心霊現象か。なんと迫力満点であることか。


 そんな状況に当たって俺は、コミュニケーション能力に難がある人間のような息遣いを披露してしまう。


「はっはっはっは!死」


 そして、その息遣いのすぐ次に『死』と口に出してしまうほどの呪い死にへの確信を抱いたところで、俺の記憶はどこかへと吹っ飛んだ。


 小学生並みのコメントであることは重々承知しているが、これだけ。


 心霊現象って、お会いしとうないけんね。


篤哉くん、心霊現象信じてるだなんてかわいいところあるじゃんね。まぁ冷静さを取り戻すと嘲笑するのですがね。


☆☆お読みいただきありがとうございます。ブックマーク・評価などもよろしくお願いします!☆☆

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