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ハーレムだがノットイージーモードの文芸部!  作者: なしあじ
Chapter-02 文芸部員と過ごす夏の日々
30/39

P.029 今夏も今夏とていつものオチ


〈敵が増えました詰みでしょうか?〉


「っらしゃーせー」


「コンビニか。」


「あはは……」


 荏舞も調子よく、出迎えた光さんとおしゃべりしているようです。その傍らで、私の世界に初登場の方は困惑気味に笑っています。


 天使様のように柔らかな雰囲気で、ものすごくかわいい……です。


「あれ、来未ちゃんじゃない。どうしたの?そんな隠れちゃって?」


「えっ、あっいや別に……」


 完全に受け身の姿勢で3人を観察していると、こそこそと嗅ぎまわっているような姿を光さんに指摘されてしまいました。百獣の王に見つかった草食動物の緊張感とは、このようなものなのでしょう。強者・光さんと視線がかち合った弱者・私は、身体が縮こまってしまいます。


 ただ、それで留まり続けているのもお相手に失礼というもの。すぐに縮まりを解いて、光さんや第三勢力さんのもとに駆け寄ります。


「お、お久しぶりです光さん。」


 軽く一礼。暴力団の舎弟のようですね、私。


「久しぶり。ん?」


「どうしました?えっ?」


 段差を隔てて向かい合うと、光さんはなぜか不思議そうな表情を浮かべました。


「いや、荏舞と来未ちゃん、身長同じくらいになったのねって。ほら少し前まではちょっとだけ荏舞の方が高かったじゃない。」


「あー、たしかにー。いつのまにかタケノコにょっきっきなって、エマはうれしかったぞー」


「あんたは私のお父さんかっての。まぁでも、気づけば同じになってましたよ。成長期ですから。」


 あくまでも私は、成長の話題に関しては冷静を取り繕います。けれど、その心中は穏やかなはずもありません。毎日の牛乳にゴールデンタイムを逃さない睡眠、健康的にボディラインを保つための適度な運動。これほどまでに努力をして手にした成長を、光さんの目と耳に感じさせることができたという事実。本当は、『成長期ですから』と淡々とはまとめたくない事実です!


「おムネは未熟だけどねー。うりうりー」


「うわぁっ!?ちょっと、やめてよ荏舞……」


 すると、荏舞は私の右絶壁をやさしくもぺしぺしと(はた)いてきました。身長は光さんにも気づいてもらえたようで嬉しかったのですが、胸部は……いまひとつなのです。だから荏舞にはそこを指摘されたくありません。


 そんな姿を、光さんはぎこちない笑いを見せながら眺めています。光さんは着やせするタイプ。身ぐるみの下には私を凌駕するとまでは言わずとも、私よりかは立派なモノをお持ちのはず。これが、強者の余裕ということなのでしょう……


「んでー、そちらのかたはー?」


「あっ、お名前言ってませんでしたね。」


 荏舞の意識は、いつの間にやら絶壁の次に正体不明の第三勢力の方に向いたようです。


「私、石川まりあっていいます。篤哉くんとは文芸部でいつもお世話になっていますっ。」


「ほー」


「なるほど……」

 

 文芸部。篤哉さんが入部したというのは荏舞伝いで前から聞いていましたが、こうして善意の第三者から裏付けが取れると途端に信ぴょう性が増すものです。決して荏舞に信頼を置いていないなんてことでもないのですが。


それに、そこに光さんも入部したことは、私を驚愕させるのに十分な意外性を持っていました。幼なじみという関係性のみならず、同じ部活のメンバーというところからも篤哉さんの外堀を埋めているように思えてなりません。より私が窮地に立たされている気分です。


そして今、目の前の第三勢力―聖母の名を冠した石川さんは、中学生の私や荏舞よりもひと回りほど小柄でありながら、その存在感をきらめきながら放っています。気品のある活力というか、女性特有のしおらしさというか、そんな印象を私は抱かせられる気分です。


当然、それは私にとってあまりにも不都合なことです。


「どうもー、しがない兄のカンペキ美少女いもーと、エマでございますー」


 そんな脅威・石川まりあさんに対して、荏舞は会釈をしつつもまったくマイペースを崩しません。もちろん、荏舞にはなんお利害関係もないので当然のことではありますが。


「初めまして。これの幼なじみの麻上来未です。篤哉さんには昔からお世話になってます。」


 となりの荏舞を指さして、関係性を簡潔に明示しておきましょう。


 加えて、石川さんをさりげなく制しておきます。確信があるわけではないですが……彼女は絶対に光さんと同じように脅威となるでしょう。同じ文芸部員ということで、お世話になる頻度(・・)では勝てない代わりに、お世話になっている歴の長さ(・・・・)でさりげなくマウントを取ってやろう。そんな魂胆を含んでいるのです。


 石川さんはこのマウントに気づくわけないのだから意味のない行為をしている。確かにその通り。でも、そうでしもしないと精神的安定が望めないのです。


「おーう、来たかおまえら。」


 マウントに石川さんはどう応答してくるか。とても気になるところですが、その前に2階から篤哉さんが下りてきてしまい、うやむやに。


「おっそいわね。客人をどれだけ待たせるのよ。」


「お前はもはや半分居候みたいなもんだろ。なんて図々しいやつだ。光の崖も性格と同じくらい図太くなったらいいのにな。」


「頓死の準備は万端らしいわね……その口二度と聞けないようにすること、私には数学赤点を取ることと同じくらい簡単なことよ?」


「それは……そうだろうな。いや悲しくならねぇのかその例え。」


「……お黙り。」


 悔しいですが、篤哉さんと光さんの会話はテンポよくてつい聞き入ってしまいます。崖とか頓死だとか、私の理解が及ばない言葉も所々ありますが、それでも面白いと感じてしまうのです。


「それでまりあも、いらっしゃい。」


「うん!今日はよろしくねっ」


「あ、あぁ。ほどほどに頼むよ……」


 ん?


 あれ、あれ、あれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれ?


 石川さんの笑顔がまぶしい。そしてそれ以上に、笑顔を見せつけられた篤哉さんの挙動に私が動揺してしまう。


 まるで、恥じらいを感じて恋する相手から視線を逸らしたような挙動です。


 いや、恋している人そのものの挙動です。身体の強張りも赤らんでいる頬も、まさに……


「まぁとりあえず、上行くか……」


 そして篤哉さんは、光さんと石川さんを先導しつつ、きまり悪そうに背中を向けて去っていきます。


「サボるんじゃねぇぞ。」


「ほーい」


 すれ違いざまに釘を一本だけ荏舞に刺して、篤哉さんたちは階段を上っていってしまいました。


 私と荏舞の中学生組と、篤哉さんたちの高校生組では関係性もこれからやるべきことも似て非なるものです。だから、リビングと篤哉さんの自室でメンバーを分けるのはいたって当然のこと。そのはずなのですが…………


なぜだか、篤哉さんに置いてけぼりにされている気分です。


ほんの少し前に見えた、篤哉さんの挙動の変貌ぶり。これから察するに、私には強力なライバルがまた一人―石川まりあさんが増え、より劣勢に立たされたということでしょう。ペナントレースからまた一歩遅れたことが、置いてけぼりにされた感覚の所以であるわけです。


「くるー。ねー!くるー!」


「あっえっはい?」


 そんなことをつらつらと考えていると、突然荏舞から憤りのこもった声を浴びせられました。どうやら、私はあまりにも自分の世界に浸りすぎていたようです。


「はよ戻ろーよー」


「あぁうん……だね、とっとと課題終わらせよ。」


 変わらない現状に引き戻された私は、荏舞の一喝によってもともといたリビングに物理的にも引き戻されていきました。


 正直、かなりモヤモヤとした感情が私の心情を覆っています。いくらお会いする機会が限られているとはいえ、私と南原兄妹は10年以上の仲。光さんという存在を考慮するにしても、篤哉さんと結ばれることにおいてはある程度のアドバンテージがあるはず。


 それだのに、ぽっと出のあの人(石川さん)に立場を危うくさせられるなんて……控えめに言って屈辱的ですよ。


 おそらくさっきの一度きりの交わりになるかもしれません。だけれど、どうにかこうにか絶対に分からせてやりたい。なんの具体策もない、無秩序な熱さを膨らませながら私は荏舞についていくのでした。



(結局いつものオチ)


「うん、うん…………うん、いい感じ!」


「いぇーい、南原さん大勝利ぃー」


 今は荏舞の国語問題を採点していました。国語の成績がそれほどよろしくない荏舞が記述問題の採点で甘くならないように、ということで代わりに私が採点したのですが……確認してみたところ、そんな必要はまったくないほど上出来でした。


「なんか、最近急に国語の成績伸びたよね荏舞。記述とか、おそろしくあんぽんたんなことしか書いてなかったのに。」


「おそろしくあんぽんたんとはおそろしく失礼だねー。昔はあんぽんたんでも今がカンペキならいいんだぞー」


「それもこれも篤哉さんのおかげ、でしょ?」


「別に。」


「その炎上しそうな女優さんやめてって……」


 いつもの語尾がだらしなく伸びる荏舞が一瞬存在を潜め、秀麗そうな女子学生が現れました。少し煙たい思いをするとこうなってしまうのですが、文字通り音もなく変化するので恐怖です。


「まーちょっとはアツのおかげではあるかねー。それでも結局はエマの天才的理解力のタマモノだけどー」


「はいはい、その天才的理解力を残りの宿題に目いっぱい発揮してくださいな。」


「うげー……」


 家族の前では素直になれないのねと、荏舞のささやかな感謝が見られたと心ほっこりしたのも束の間、結果的に荏舞のわけのわからない自信に帰着してしまいました。興ざめして現実を突きつけてやると、力抜けてテーブルにうなだれました。


 こうしてやはり変わりのない付き合いを繰り広げているのですが……


ドン、ドン


「なんかさわがしー」


「上でなんかやってるのかな。それにしては激しい感じも……」


 突然、2階からドシドシと激しい打撃音が鳴り響いてきたのです。


「ちょっと確認してきてよくるー」


「いや、私この家の人じゃないわけだから家の中うろうろしたくないよ……荏舞見てきてよ。」


「いまだけ許すー」


「えぇ……」


 うなだれたまま、荏舞は私に指図。自宅以外の家の中を必要以上にうろつくというのは本当に好ましくないと思いますが……私も2階の状況は気になっているので、惰性で座布団から立ち上がっていました。


「いってらー」


 家主の一人の腑抜けた声を聞きながら2階へ。彼女は最後までテーブルに突っ伏したままでした。


 足早に階段を駆け上がって篤哉さんの自室前に立つと、まだ打撃音響く騒がしさは続いていました。


「どうしましたっ?」


 ノックをして直接中の様子を尋ねてみます。騒がしさに負けないようにほんの少し声も張り上げて。だけれど、その問いかけに明確な応答はなくて、代わりに……


『うわっ!』


 男性の裏返った声が聞こえてきました。部屋の中には男性は篤哉さんだけだから、それは篤哉さんのものということになります。私の好きな人の、罠にはまって漏れ出たような声に、一抹の不安を覚えて力強く扉を開け放っていました。


 そこで私は……とんでもない(・・・・・・)景色を見せつけられるのでした。言語に絶するほど。


「へ……?」


「く、来未ちゃん、これは不可抗力というか、そんなものではなくてだね……」


 目にした篤哉さんは、四つん這いになり、顔だけをこちらに向けています。その表情は、この上なく焦りで滲んでいるようです。


 それもそのはず……


 篤哉さんが四つん這いになっているその下では、石川さんが仰向けになっているのですから……!


「あれ、来未ちゃん。どうしたの?」


「ひ、光さぁん……」


「本当にどうしたの!?」


 私が驚愕しているところに、なぜか部屋にいなかった光さんがやってきました。


 あまりにも非現実的な光景を目の前にして私は心細くて、ライバルだと思っていたはずの光さんに気づけば助けを求めていました。


「部屋に篤哉とまりあしかいないはずだけど何が……」


 高をくくって近寄る光さんは、部屋の様子を目撃して……私とまったく同じ動揺を見せています。やはり……情事に及ぶと思われる体勢を目撃すると言葉を失うというのは、全人類共通の反応なのかもしれません。


 そして私と光さん、ともに驚愕したのちは、次第に黒い感情が煮えたぎってくるようで。


「おいおい待て待て。本当に不可抗力なんだよ!詳細は何にも言えんがな……とにかく違うぞ!じわじわと近寄るんじゃねぇ!」


「黙れ変態ッ!そんな無能政治家みたいな説明聞いてだれが不可抗力と信じるか!」


「篤哉さん、さすがにそれは許されません……」


「ダァメだ聞く耳持っちゃいねぇ!やめろ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 この断末魔、自業自得です。私や光さんの純情を弄び、石川さんと雑に遂げようとした業を悔いてもらいましょう。


「あー、これはだいぶカオスなことになってんねー」


 中学2年生の夏。この夏の記憶は、好きな人であり犯罪者の方によって黒く塗り替えられてしまいましたとさ……


6月初投稿でございます(しかし3分の1過日)。みなさまいかがお過ごしでしょうか。今後もゆっくりなペースが常態化しますがどうか、私を忘れないでください。


☆☆お読みいただきありがとうございます。ブックマーク・評価などもよろしくお願いします!☆☆

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