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ハーレムだがノットイージーモードの文芸部!  作者: なしあじ
Chapter-01 出会いとvs.生徒会長
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P.002 ハーレムのかほり

〈クリエイト・ザ・ハーレム〉


「その......星谷先輩のおっしゃることは理解しましたし、それに対する答えも出そうと思えば。その前提の上でひとつ聞いても?」


「なんだい?」


「俺に拒否権は?」


「うん、限りなくアリ寄りのナシ。」


「デスヨネー」


 ついつい片言にもなってしまう。確かに、先方からのスカウトである以上、先方も(自ら語るのは恐れ多いが)俺という人材を逃したくはないだろう。そういうわけで『南原篤哉を絶対に逃がすまじ』という意志のもと、魔女的な圧力、つまり先輩から絶え間なく滲み出る『邪気』を俺は感じざるを得ないのだと思う。いやなかなかに厄介な話だな......


「そもそもです、少なくとも文学の素人ではないであろう先輩が、文学創作の経験なんかない俺にスカウトをかけるんです?」


「それは、わずかながらでも心当たりがあるんじゃないかい?」


「心当たり......」


 そこで、思い当たる節を探ってみる。文芸部、先輩からのスカウト......あるにはある、が、個人的には根拠に乏しすぎる。


「定期考査国語、共に学年トップだったから。」


「まぁ正確には現代文トップだ。しかし古典もトップとは......願ってもないオプションだったね。」


 オプションという表現は疑問が残るが......なるほど、自信は無かったがやはり国語の成績が優秀だったからか。納得......するはずがなかろう。


「いやいや!国語の成績と面白い文学作品が書けるかどうかはまた別問題でしょう!それに俺がトップだったなんて情報どこから......」


「情報の件は問題ない。顧問は君もよくご存知の国語科、寺矢(てらや)先生だ。先生伝いという正規ルートでその情報は手に入れたから安心してくれていい。」


「あの担任やってんなぁ!?というか普通にそれ正規のルートとは言えないでしょうがッ!」


 寺矢先生というのは、俺の担任かつ古典を担当している先生だ。比較的若い先生で、それなりに国語には余裕を持っている俺ですらも面白いと思わせる授業を展開して、ノリの良さから生徒のウケも上々なのだが......この一件で俺の評価は急転直下だ。信用ならねぇな!


 もちろん、最大悪はこの人(星谷先輩)なのだが。彼女には後悔も反省もしている様子は一切合切ない。すると先輩は悪びれもせずさらに続ける。

 

「それに、国語でやるような文章読解の能力が高いことは、必ずオリジナルの文学作品を作る上で生きてくるんだ。」


「はぁ............その心、ひとまずお聞きしましょう。」


 これ以上先輩が頓珍漢なことを言い出せば、いや、言い出さずともスカウトは丁重にお断りしてオフィスを去ろうと心に決めていた。しかしながら先輩の主張を耳にして、少しだけ気が変わった。


「大前提として、文学創作のためには自らの直感、そして野性が重要なんだ。」


「それはまぁ、確かに。」


 かの芥川龍之介氏も『文を作るのに欠くべからざるものは、何よりも創作的情熱である』と述べた。先例も含め、先輩の言うことは紛れもなく事実だと考える。ただそれは、ともすれば広く知られた一般論だ。一般論を自らの主張とする評論家など、存在しないに等しい。『大前提』と但し書きもしているあたり、本当の主張は次にあるということか。


「ただし、直感や野性のままにものを書いてはダメだ。それはただの無秩序な暴れ馬だからね。」


「はい。」


「そんな直感や野性といった暴れ馬を、長所は生かしつつ理性あるもの、落ち着いたものにしてくれるのがさまざまなレトリックだ。そしてその豊富なレトリックを扱いこなすには、先人たちの文章を分析するとよい。つまりは......」


「国語が得意な俺は、先輩が言うところの分析能力が高いから書こうと思えばそう遠くない未来によい文学が書けるようになる。こういうことですか?」


「御名答!去年は国語トップが運動部だったもので、入部を誘うことができなかったけれど......今年は、君という有力な人材を発掘することができた。さあ!文芸部に入部して、君の得意を輝かせようっ!」


「ま、まぶしい......」


 感情が昂ったためか、星谷先輩はポニーテールを激しく揺らしつつ力強く起立し、俺から言わせれば後光までもがさすように見える。その他人(ひと)を圧倒してまうような、溢れんばかり熱意、持っていただくのは全く問題ないと思うが......甘い。先輩は致命的にミスを犯している。それは、俺は入部するかしないかの意思をまだ伝えておらず、実際問題として俺は入部しないという意思を固めていることを先輩は持ちうる可能性に含めていないということだ。そんな先輩にこう告げるのも酷な話ではあるが......事が重大にならないうちに完結させよう。


「先輩、スカウトしていただいたことはありがたいですが、俺は」


「あっ、すまなかった。急にこんなこと言われてもすぐには入る決断はできないだろう。そうだね、今晩家でじっくり考えてみて、明日の放課後改めて教えてくれるかい?ん?」


「うっ......」


 なるべく角が立たないようにお断りしようとしたが、お断り以前に口も満足に開かせてもらえず。いつしか俺の方が不利な状況に立たされていたようだ。まぁよく考えてもみれば、そもそも先輩にとって、俺が入部しないつもりであることを考慮に入れないことはミスではないだろう。出会いの時から先輩からは邪気を感じていた。俺が絶対に手にしたい人材と認識した時点で......俺はその邪気によって敗北者に仕立て上げられていたのだ。そして、笑んで選択の余地を俺に与えてはいるが、その表情はNoの返答を言わせぬまいという意図をはらんだ笑みであろう。


「それでいいだろう?」


「や......分かりました。明日までに決めます。」


 近い、ただただ近い!Yesの答えが聞きたくて堪らないのだろうが、先輩の身体がすんでのところで俺との衝突を免れているくらいには近いッ!俺と星谷先輩では頭一つ分くらい体格に差があるから、寄ってくる実体そのものはねじ伏せることもできそうだが、先輩の邪気、そして改めて視線をよく配ると分かる先輩のかわいらしさを認めると......到底反撃には及べない。いや、俺は何を思っているんだろうか。


 そうして、無力ながら俺は回答を保留とするに至った。こういったところで微妙な押しの弱さがあるなと、俺はつくづく思う。ひとまず明日までのことを決められてしまっては仕方ない。そう割り切って、断るための方策を考えに帰ろう、そう思ったのだが。


「梨子さんこんばんわ〜」

「お疲れ様です。」


 また2名がオフィスにやって来た。学年カラーからして、2年生だろうか。


「この子がこの前言ってたトップの子ですか〜? ん〜かわいい〜!」


「むぐぅ!?」


 その2名のうち片割れー胸部のインパクトが特大である1人が俺の元へ駆け寄ってきたかと思えば......座る俺を、俺の顔面を、そのインパクトの大きい胸部に埋めるようにして抱き寄せたのであった。パーソナルスペースの破壊王と言えようッ!そして現在進行形で発生及び体感している酸素の供給停止と胸のやわらかな感触によって、二重の意味で昇天しそうだッ!誰かマジで助けて!


「よろしくねぇ〜!」

「んんー!んんー!」


 なんて固いホールドだ......『ギブ!ギブ!』と叫ぶ自分の声も、もはや耳に入っていないようだ。まぁ、この着ている服の布感でマイルドになった胸のたわわとした柔らかさという感触の中で昇天も悪かないかと、思う自分もいたり......


「風芽、その辺にしておけ。そいつすぐ逝ってしまうぞ。」


「あっ、ごめんねぇ〜!かわいい男の子見るとついついなぁ。」


 ようやく半窒息状態から解放された安心感からか、その先輩が何を言ったか不明瞭であったが、とにもかくにもしばらくは距離を取りたい、いやどうせなら一生距離を取っておきたいと心に抱く自分になっていた。そして何より、一言割って入ってくれた凛々しく構えている片割れのもうひと方には感謝しかない。


「おい1年。」


「は、はい。」


「なに鼻の下伸ばしているんだ!この変態が!」


「なんでだぁ!?」



 俺への開口一番、凛々しい片割れの方からなんのひねりもない暴言を浴びせられた。そんなに自分はデヘデヘとしていたのだろうか、いやそんなことは......どちらにせよこの時点で『凛々しい』の評価は取り消させてもらおうなどと、絶妙に上から物申すように心の中で反芻していると......


「がっぁ、!?」


「咲柚ちゃ〜ん!」


 この先輩、俺の制服のネクタイを綱として、俺を自らの元へ引き寄せてきやがった。手加減などなく、力のままに引っ張っているため、首がこれでもかと締め付けられる。


「いい声で鳴いてくれるな......フフッ、これは期待できる......」


 この人、今なんと言った。不敵な笑みを浮かべながら、なんと言った?いい声で鳴く......あぁそうか。この人、えげつないドSだ。所謂本場モンの女王様だ。俺は被食者、あるいは隷属民と判定されたようだ......こちらもこちらでとんでもない人に当たってしまった。


「咲柚くん、そのあたりにしておきたまえ、本当に死んでしまう。風芽くんも初対面であまりパーソナルスペースを詰めすぎるのは良くないね。」


「は〜い」


「先輩、すまなかった。」


 パーソナルスペースの件といい押しの強さといい、星谷先輩がそこを諫めるのは甚だ疑問が残るところではあるが......星谷先輩の仲裁によってどうにか命をつなげることができた。十分にクセが強い先輩ではあるが、さらに一癖も二癖もある2人の先輩を抑止したことで、初めて尊敬の念を星谷先輩に対して抱いた。もしかしたら星谷先輩は、俺にとって例のレトリックなのかもしれない。と、訳のわからんことを考えついてみたり......


「そうだ、南原君にも2人を紹介しておこう。もしかしたら(・・・・・・)、部の先輩になるかもしれないからね。」


「はぁ......」


 『もしかしたら』への力の入りよう、やはり星谷先輩は可能性論には全く興味がないようである......


「長髪のほうが楠見 風芽(くすみ ふうか)くん、短髪のほうが椛島 咲柚(もみじま さゆ)くんだ。」


「まだ決まったわけじゃないのかぁ〜......でもよろしくね〜」


「期待させよって......しかしどのみち入部することになるだろう。フフッ......」


 そして星谷先輩以上に、2人の先輩は可能性論を持ち合わせていなかったらしい。いや、俺は2人を目にして一生この部から逃げたいと思ったのであるが......


  

 一応、家に帰って、冷静になってからもう一度じっくり考えてみようか。いや、もう考えたくもないな......対を成す感情が俺を惑わす。


「はい......とりあえず、俺はこの辺で。」


 先輩たちの言葉に明確に応えるわけでもなく、俺は半ば逃げるようにしてオフィスー文芸部室を去った。キャラの濃すぎる、よくよく考えてみれば全員歳上ハーレム。本当、俺どうなるんだよ......

 ネクタイぐいっと引っ張られるの、なんか良さそうですよね。(中の人はどうしようもねぇ変態なのか???) ハーレム形成編、もう少々お楽しみくださいませ。



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