P.028 貧弱な新興勢力
〈友達のお兄さんに恋をしています。おかしいでしょうか?〉
突然ですが、私は麻上 来未、中学2年生です。南原荏舞の、幼なじみで、おそらく大親友です。
「えーまー、あとちょっとだからゲームやめ~い。」
「天才肌はときに休息というものも楽しむのだよー。わかったかねー、くるみくぅーん。」
「荏舞の場合は休息の比率が多いけどね。」
夏休みもラストスパート。残った宿題を一掃するため、南原家リビングにてサボらないようお互いを監視しあいながら片付けています。ただ、荏舞は休んでばかりでほとんど進捗が見られませんが。今は仰向けになって、めくれたシャツの間からおへそを露わにしながらノンテンドーソイッチと格闘しています。荏舞の身体は適度に引き締まっていて、かつ整っている度が過ぎない童顔。友達であり同性の私はそこについつい憧れてしまいますが、今の様子だけはだらしなくてこの上なく残念ですね……
「オイコラ妹、来未ちゃんがいるだろシャキッとせい。」
「あっ、お帰りなさい!」
「かえってきよったー……」
扉を開けて荏舞を諭したのは、お兄さん―篤哉さんでした。なにやらお買い物に出かけていたようで、帰って来たようです。荏舞はあからさまに鬱陶しそう。
部屋の中に入ってきて歩み寄り、荏舞を見下しているようです。
「ほら、いくら古い付き合いだからってもうちょいしっかりしろ。」
「うるさいなー。アツだってひーくんひーちゃんの前じゃあだらしないくせにー」
「いくらなんでもへそまでは見せねぇよアホンダラ。ほれ、起きろ。そして宿題をやれ終わらんぞ。」
「うにゃー」
篤哉さんは両腕を荏舞の両脇に引っかけて、テーブルの下から一気に引き上げます。その勢いはカツオの一本釣りのようで、一方の荏舞は脱力して伸びきった猫のよう。篤哉さんの職人魂に照らされて、荏舞はなんとも煙たがっている様子です。
結果、直立させられた荏舞は眠たげに机上の宿題に視線を送っています。血が頭から抜けていったからでしょう。困ったものです。
「ったくボケっとしよって……ごめんな来未ちゃん。こんな情けない妹で。」
「どの口が言うかねー」
対して、私に語りかける篤哉さんはとてもやさしく、ジェントルな人柄が垣間見えます。変わらず荏舞は不平不満を細々とつぶやいているようですが、兄妹という関係性とはいえど早いところ篤哉さんのありがたみに気づくべきです。これほどまでに自分の妹、さらにはその幼なじみを気に掛けることができる方がいるでしょうか。少なくとも、私は見たことがありません……!
「2人ともがんばれよ。ほいじゃあ。」
「は、はいっ。」
そんな篤哉さんはひとしきり私たちに存在感を放ったあと、リビングから自室に戻っていきました。それも足早に。その理由を、私はすでに聞き入れているのです。
このあと、私と荏舞がしているように、光さんと篤哉さんも一緒になって夏休みの宿題を一気に片付けるのだそう。
このことに私は今…………大いに危機感を募らせているのです!
「くるー?芯がボリボリ折れちゃってますがー」
「あ、あぁうん。不良品の芯だったのかな。まぁシャー芯なんてこれでもかと作ってるからね、仕方ないね。ははははは~」
「ただ力の入れすぎじゃないのかねー」
その通りです。私は力みすぎで、先ほどから次々にシャーペンの芯を天に送っています。不良品だなんてことは決してありません。
これまで14年生きてきて、そのうちの10年以上は荏舞と持ちつ持たれつのような関係を続けてきました。そしてそれは、篤哉さんと10年以上関わりあってきたことも意味します。その中で、今日のように篤哉さんが私にやさしくしてくれたことは数多で……
いつしか好きになっていました。
大変単純ですね、私という人間は。でも、それで十分。篤哉さんは昔から大人っぽくて、気遣い細やかで。とても幼いころから篤哉さんと近い関係にあったら、同級生やそのほかの男の人には、興味など持てそうにありません。
いつか篤哉さんと結ばれてやる。
篤哉さんは私を、妹の友達、幼なじみ程度の存在にしか考えていないでしょう。この現状をいつか打開してやりますよ。魅力的な女性になって、篤哉さんに振り向いてもらえるように、がんばります。
だからこそ、光さんが気がかりでたまらないのです。包み隠さないのであれば……邪魔で邪魔で仕方ないのです。明るく綺麗な人で、かつ篤哉さんとは自立する前からの、気の知れた仲だそう。内弁慶で少し壁で隔てられている私は、圧倒的不利。私が魅力的になる前に光さんと結ばれる可能性が高い。そういうわけで、邪魔なのです。
そのフラストレーションゆえに、全身に力が入って、突き刺すような熱を帯びてきます。
「それじゃーやります……」
スイッチの入った荏舞が再び宿題と格闘を始めようとしたとき、『ピンポン』とインターホンの呼び出し音が家の中に鳴り渡りました。
「きたかなー。はーい。」
それを聞いた荏舞は、先ほどまでのだらけ具合がフェイクであったかのように跳びあがって部屋を出ていきます。
きたかなーという口ぶりから察するに、僭越ながら―私のライバルさんがやってきたようです。
私は無意識のうちに、走り出ていく荏舞の後を追っていました。一応客人なのだから他の客人が来たとしても座っているべきなのでしょうが、光さんの今の姿を拝みたくて、後先など考えず後追いをしたのです。
「はいはーい。」
リビングの扉からモグラかのように荏舞が玄関の扉を開け放つ様子を眺めています。おへそを見せていた幼なじみは存在せず、きっちりとした女子中学生がいるのみです。
「やっほ荏舞。お邪魔するわよ。」
「きょ、今日はよろしくお願いしますっ!」
「あれ…………?」
扉の外には、予告通り光さんが立っていました。南原家には相当慣れているようで、かなりフリーダムな様子です。そして、ベージュのクロップドパンツに白いポロシャツというコーデ。シンプルながら、すらっとした体形も相まってとても大人の雰囲気を醸しています。私にはまだ届きそうにありませんね……
しかし、やってきたのは光さんだけではありませんでした。その人は、光さんよりも頭半分くらい背が低い、対照的に緊張気味な女性の方です。首くらいまでの長さがあるボブで、ネイビーのマキシスカートに淡いピンクのトップスを身にまとっています。隣の光さんとは大人寄りか少女寄りかという点で性質が違いますが、相当な美しさ、かわいさをお持ちです。
この方も今日、篤哉さんと一緒に……?
…………もしかしたら、私にライバルが増えてしまうのかもしれない。そんな不吉な予感を、一瞬のうちに抱いてしまいました……
ようやく書けました、短めですが。この話の後編をやって夏の章は本当におしまいです。それにしても篤哉、モテてんなぁ(僻み)
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