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ハーレムだがノットイージーモードの文芸部!  作者: なしあじ
Chapter-02 文芸部員と過ごす夏の日々
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P.025 闇に輝く満点スマイル

〈夜を後輩と往く〉


 夜も深まっていくころ、俺は部長の後に付いて鬱蒼とした林道―いや、半分けもの道を悠々と歩いている。先頭の部長がランプで行く先を照らしているとはいえ、奥先までは視認できない。


 それに、踏みしめる地の感触もかすかにガサガサと揺れる草木も、どこか気色悪い。

 ここで踵を返すほど、俺も腐った男ではないが……正直に言えば、誘いを断って帰った方がよかったかもしれない。


「南原君、もしかして怖いかい?」


「な、なにを言ってるんです部長。こんなの、俺をビビらせるには足りないってもんですよ……」


「そういう割には、身が屈み気味にも思えるが……」


 振り向きざまに部長が一言。


 大正解。身も心も委縮して防衛姿勢を取っているのである。『ビビらせるには足りない』だなんて、御託を並べてイキるな、俺。




 しかしどうして、俺を夜歩きに誘ってくれたのだろう。


 もちろん、小柄な少女を夜一人で歩かせるわけにいかないからこうして誘ってもらえたのは結果的によしとしている。だが、ある意味不思議な人だから、誰にも声をかけることなく、ひとりフラッと出かけてしまうものだと考えていた。こうして俺という人間を付き従えたのが、心のどこかで意外で不可解に感じていた。


「どうして俺を誘ったのか。差し詰めそんなことを考えているのかな。」


「えっ……わかりました?」


 エスパーがいる。俺の進もうとする方にちっぽけな少女の形をしたエスパーがいるぞ……!


「最初から、ロダンが作ったブロンズ像みたいな表情されては、なにか疑問があることくらいは分かるよ。」


「考える人ですか。」


「そう、とても気難しそうだ。それにしても、ロダンから考える人を連想できるとはなかなかだね。」


「どうも光栄です……」


 訂正、部長がエスパーなのではなく、俺がただ読みやすいだけだった。言われてみれば、ずっとワケを考えたり、あとは薄暗い状況を不気味に思ったりしてしかめっ面を浮かべていた。部長の言う通りあからさまで、これは反省だ……


「まぁ、部長は気ままですからフラッと行ってしまうかと思って、どうして俺を誘ったのかな、と。」


「南原君には私がどのように見えているんだね。」


「それは……どうでしょうか。説明できないこともないでしょうけど、記すには余白が狭すぎます。」


「記さなくていい。」 「はい、すみません……」


 部長は歩みを止めて、右手の甲で俺の頭を小突く。初めて物理的に叱られたろうか。まぁ、自分でもわけのわからない言動だから、そうなっても致し方ないが。


 だけれど、小突きでさえも優しさというか、情がかけられていたように感じる。いつも光だとか咲柚さんだとか、力加減を知らないヤツや己の欲求を満たすために(はた)く人間ばかりに物理的に攻撃を仕掛けられているからなおさらそう感じてしまうのだろう。慣れって、恐ろしい。


「とにかく、私だって理由があれば誰か誘うことだってあるんだ。」


 チャームポイントと思われるポニーテールを揺らしつつ、彼女は顔を進行方向にさっと戻す。幼い子供のように拗ねてしまったらしい。表情は伺えないが、唇でも尖らせているのか。やっぱり、それなりに人間らしい。


 当然、俺の所為だということは自明であるし、抜かりなく自覚している。少しばかり、からかいが過ぎただろうか。


「部長、俺がふざけすぎました。その理由というのは?教えてくださいよ。」


 流れを本筋に戻そうとしてみたが、部長はなにも言うことなく再び前に向かって歩き出した。立ち止まる前と変わらずの確かな足取りとペースで。


本気で怒ってしまったか。俺が逆鱗に触れてしまったか。そうなのだとしたら、やらかしてしまった。やらかしてしまったら、下手に話しかけられない気がしてただ後ろを付いていくことしかできない。


梨子(・・)さぁん……」


 そこで、普段はしない部長の名前呼びしてみたり。深夜テンションに任せて気を引いているが、ここで再び歩みを止めた。むしろ逆効果だったのだろうか。くだらない深夜テンションで、やらかしを、重ねてしまったか……


今までは良好な先輩・後輩関係だったのになぁ……。人生絶望勢のように、在りし日々を回顧してみたり。




「…………ふふっ、なんてねっ。」


「………………はい?」


 らしくない言葉が、聞こえたような気がする。


 その言葉の主は、疑いようもなく部長である。腕を後ろに回し、美しいターンでこちらを向いた彼女の表情は……拗ねているとか怒っているとか、そんな深刻なものではなかった。というよりもかえって……


出会ってから最もはっちゃけている部長、もとい、星谷先輩がいた。


 ケラケラと、ささやかながらも滑稽さを強く感じている笑い声を俺に聞かせている。平穏、激昂。部長が見せる第三の側面である。笑いを堪えようとして身体が多動するようで、ランプの光があちこちに振り撒かれる。


「はははっ……いやぁ、やっぱりおもしろいね南原君は!私が本当に怒っていると思っているようで、アハハ!」


「そ、そんな笑わないでくださいよ……」


 俺はまたしても、部長に一杯食わされたようだ。でも、こちらの方が攻撃力と破壊力ともに高い。


―――そんな表情できるなんて、ズルいな……


 部長が不愉快に思っていなかったのだという安心感と、からかい返されて置いてけぼりに遭うような感覚以上に、表情を隅から隅まで崩した全力で、満点の笑顔が輝いていて……感情や言葉に詰まってしまう。


「それと、楠見くんや椛島くんのように初めて名前で呼んでくれたね?」


「いやっそれは……ほんっとうに勘弁してください恥ずかしい……」


 そして、名前呼びを聞き逃していなかったらしい。深夜テンションを正常時に擦られるほど、死にたくなる瞬間というものも存在しないだろう……ばつが悪くて、しゃがみ込んで両手で顔を覆う。そして、心からの叫びを部長に浴びせる。


「部長、深夜でおかしくなってますよね……」


「そうかい?私はいつも通りじゃないかな?そんなことよりも…………私をさっき、なんて呼んだのかな…………?」


「くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 耳元を、星谷梨子のささやきが掠める。


 いつだったか、妹が俺を性的にからかったことがあって、そのときも心底悶えていたが……部長(これ)の場合は、年下身内の比になっていない。年上で、それもありえないほどの近距離でささやかれてしまった。おそらく、近寄って、手を耳元に当ててささやいたのだろう。


吐息が、暖かに感じられたから……


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!もう!行きましょう!」


 部長の存在感というか、ぬくもりを振り払う。


 自分でどうにかこうにか、無理やりでも吹っ切る以外に手はない。しゃがみ込んでいるところからエンジンを爆発させて、ロケットのように起立する。起立したら、あとはぐんぐん突き進むのみ。


「ごめんよ、さすがに興じすぎてしまったね。待ってくれ待ってくれ。」


 今度は俺を部長が追いかける構図になる。先輩を走らせるのは申し訳ない!みたいなそんな気遣いは、考えに浮かびもしなかった。そもそも、部長は未だに半笑いだ。反省の色が見受けられない。絶対的ギルティだ。


 とはいえ、直進が正しい道筋なのかはっきりしない。反抗期息子は素直になれないものだが、反抗期後輩もまた、分からないことを正直に分からないと言えないほど素直でいられなくなる。ちょとだけ、困った。


「…………君を誘った理由はね、ちょっとした罪滅ぼしのために見せたいものがあるからなんだよ。いじめすぎたお詫びも、加えてさせてもらうよ。」


「え?」


 歩幅大きく足音高らかに俺に歩み寄る部長は、平静さを取り戻したようだ。


 そしてその調子で、なぜか聞けずじまいでいた俺が夜歩きに誘われた理由。ここにきて、突如部長の口からそれが語られた。


『罪滅ぼし』


 一体全体、俺が何をされたというのだろう。見せたいものとは何だろう。心当たりらしいものは、少なくとも俺の視点からは見当がつかない。


「思い出の景色をプレゼントだ。」


 俺はこうして進む中で、星谷梨子という人間の形を、またさらに知った。そしてこれから進む中でも過去や熱い想いを通して、彼女の強さと弱さという…………相反する姿を知ることになるのだった。


短めですが、連続更新できました。やったね!まぁ、その反動で次の更新は少し間が空きます。部長との夜が続くのに……この先が気になりますね!(必死の自作自演)


☆☆お読みいただきありがとうございます。ブックマーク・評価などもよろしくお願いします!☆☆



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