P.021 シャワー後のかかわり
〈文化祭のこと〉
このレンタルコテージ、あまりにも出来が良すぎる。
1階にはリビングダイニングに水回り、ワンルーム。2階にはより大きめのワンルームがある、といったところなのだが、控えめに言って極上の快適さである。
想定され得る全ての事故を回避するために、俺は1階のワンルームを引き取った一方、女性陣全員は2階のワンルームに押し詰めるということで決まった。女性陣には悪いが、木の温もり感じる部屋を独り占めできるというのは、この上ない愉悦である......!
そして今はシャワータイム。なるべく早くさっぱりしたかったであろう女性陣に忖度して、俺は一番最後のターンである。俺の入浴が終わり次第、夜のミーティングなども催されてはいるから急ぐべきではあろうが、人肌ほどの温度のシャワー、すなわち幸せになるべく長く浸かっていたいという思惑を持っているのもまた事実である。
改めて、缶詰めをするには最良の場所であるということを俺は強く噛み締めたのだった......
※
「さて、南原君も戻ってきたことだしミーティングを......と、どうしてそっちに座っているんだい?」
「俺、イスに座る方が性に合うので......」
部長含め女性陣はリビングのソファに腰掛けたり床に座ったりとひとつに固まっている。一方で俺は、女性陣からは離れてリビングを見渡すように食卓イスにもたれかかる。
イスに座る方が性に合う。部長にはそう濁したが、当然そのようなくだらない理由ではない。端的に言えば、風呂上がりの女子の破壊力は満点だから、だ。
まずお召し物で俺の心は動揺してしまう。各自、自前の寝間着に身を包んでいるのだが......この間の海水浴のときと同じく、私服マジックの攻撃力はかなり高い。どの人もTシャツにハーフパンツという似通った服装とはいえ、普段との違いがはっきりしておりつい意識してしまう。
そして風呂上がり特有のホクホクとした温度感も忘れてはならない。お湯に晒されて火照った身体は......女性が持つ、甘かったり爽やかであったりする香りをより強く放つのである。普段行動を共にするだけでは気にもかけないような嗅覚情報も、風呂上がりの魔法は俺にそれをどうしようもないほど意識させる。
そういうことで、女性陣の輪に近づいたと同時に理性の危機を感じた俺は、本能的に距離を取ったのであった。............あぁ、もう今さら触れることでもないが、俺は紛れもなく一般思春期男子高校生、ステータス:彼女いない歴イコール年齢のマジキチ童貞だ。ここまで女性陣について様々に捏ねくり回して考察していたのも、気持ち悪いが自然なことだろう。気持ち悪いが!
これは咲柚さんに『もともと気持ち悪い』と評されても致し方ないと思う............俺の挙動不審な様子を見た、話題の咲柚さん、おまけに光が怪訝なブツを見る目でこちらに突き刺さるような視線を送ってくる。女性陣の中でも個人的に手厳しさに定評のある2人からの蔑視、俺によく効く......
「そうなのかい?ひとまずそれはそれとして、文化祭号について説明させてもらうとしよう。」
部長は全くもってブレる気配というものが無い。無論、大抵のことには慌てないということが部長の良さであるからそのままでいて欲しいものである。
「まず1年生。教室に4月発行の部誌があったと思うが、それはもう読んでくれたかい?」
その問いかけに、首を振ったり言葉にしたりとそれぞれ特色はあれどもイエスで答えを返す。言うまでもなく、俺もすでに目を通している。
「なるほど。見てもらえたなら分かると思うが、我々は文芸部とは言っても小説だけではなくイラストも掲載するんだ。」
「そ〜そ〜、文章だけだとなかなか手に取ってもらえないからね〜、しょぼん......」
「いきなり闇深いじゃないですかというか涙拭きましょうね......」
「篤哉くんありがとぉ〜」
風芽さんの補足情報があまりにも涙ぐましすぎた。悲しそう、というかダムが決壊したような顔つきを目にするとなおさら哀れである。
もちろん文章だけの冊子はなかなか手に取ってもらえないということは往々にしてあるだろう。実際問題......教室の部誌を手に取って読んでいるクラスメイトはあまり見たことがない。
純文学や大衆文学、ライトノベルいずれにせよこれらを読む際には読者の想像力に頼らなければならないところが大きい。そうなると、手っ取り早く感動や滑稽さを覚えたがる現代人は、文学を忌避するようになると言えよう。対して、漫画やイラストはその現代人の傲慢とも取れる欲望を容易く満たすことができる。悲しきことではあるが、文芸部だとしても部誌にイラストと小説を組み合わせて掲載するというのは、部として生き残っていく上では必要なのだろう。
「まぁそういうことで次の部誌文化祭号でもイラストは載せるんだ。4月の春号は楠見くんともう1人の3年生が小説執筆と兼務で頑張ってくれたが、文化祭号では加えて石川くんもイラストを描いてくれるそうだ。よろしく頼むよ。」
「まりあが?」
部長が頼もしさを感じるようにまりあに視線を送る一方、光は驚いた様子でまりあに顔を向ける。確かにマルチタスク・まりあ、そんなイメージはあるが、イラストも描くというのは知らなかった。光も初耳–
「うん。私じゃ力不足かもしれないけれどやらせてもらえるならぜひと思って......」
「力不足なんてことないわよまりあ!いつも何気なくする落書きがもう......天才!部誌に落書き集として載せてもいいくらい!」
「うわっ......」
「何引いてんのよ!ぬっ殺すわよ!」
「理不尽!?」
自信なさげに、自分を小さく見積もるまりあ。それに対して語彙力を失ったオタクのようにフォローを加える光。この構図、本質的にはシスコン・俺と変わりないじゃないか......
しかし、それを光に指摘したとてさらに強い言葉でカウンターを俺が食らうのは必然の理。現にぬっ殺すなどと脅されているわけであるし......
「ぬっ殺す時には助太刀するぞ光。」
「咲柚さんは本当に一回黙っててください......」
風呂上がりだとしても調子の変わらない人間がまた1人。等身大の女性陣を全員分相手取るのはなんともストレスフルである。シャワーでさまざまな汚れを落とした意味とはなんだったのか。
「まぁそのあたりにして、とにかく、小説もイラストも明日明後日と製作をがんばろう。」
やはりさす部長である。そこに痺れるとかなんたら。
いや、でも待てよ。
「待ってください梨子先輩、小説もイラストもテーマは決めないんですか?」
そうだ、まりあの指摘の通りだ。いずれの媒体にしても、テーマを統一しなければしどろもどろな一冊になることだろう。
「あぁ、それなら大丈夫。うちは表紙以外にはテーマは設けていないから自由にやってもらっていい。」
「いやかなりノリ軽いですね梨子さん?」
光の驚きはごもっとも。しかし変わらずのペースで部長はやり過ごす。1年総がかりでアレコレ尋ねても、全て肩透かしに終わる。
「もちろん公序良俗に反する内容はやめてもらいたいがね。不特定多数が読むわけだから。逆に言うとそれ以外は何をやってもらっても構わないよ。テーマに縛られて製作しても個人の本領が発揮できないからね。」
「はぁ......つまりは各自の個性を反映したアンソロジーということですか。」
俺なりの理解というものを、全員に投げかけてみる。しどろもどろな一冊にはなっても、確かに部長の提示する観点は重要である。
「おぉ......そういうことだよ南原君!やはり君は一味違うね!」
「えぇ......」
部長がいつかのように目を輝かせて静かながらはしゃいでいる。こうも喜ばれると、個人的にはありがたい反面、発言が黒歴史になりかねない......周りからは、絵に描いたような困惑の表情を俺はしているように見えることだろう。大正解。
「篤哉くんさすが〜!」
部長に続いて、風芽さんも囃し立てる。それがトリガーとなってみんなささやかな拍手をしたり感嘆の声を上げたりと......ダイニングからさらに遠ざかりたい。そんな一心である。
「さて、私から伝えたいことは終わり。他に何かあるかな?無ければ各自自由時間にしよう。」
ひとしきり俺がからかわれ遊ばれたのち、ミーティング、というより文化祭で発行する部誌についてのガイダンスが終末。1年生が知らないことをただ知るための時間だったはずであろうに、大変疲れた。やはり、シャワーで汚れを落としに落としまくった意義が迷子だ......
そんな集団行動もそろそろおしまい。ガールズのいる場からはお暇して、俺1人の部屋に戻るとしよう。そして明日から執筆するものについて、構想を練ろう。終いには持参の緑茶とどら焼きというネコ型ロボットセットで一服しよう。そうしたのち、眠りにつくとしよう......有意義な時間の使い方を思い浮かべた。
しかしこれほどまでにこの後の夜は平穏に過ぎ去ろうとしているというのに、翌朝あんなことが起きようとは......俺を含め、まだ誰も知る由は無かった......
修学旅行のときとか、風呂上がりの女子ってなんとなく違って見えるじゃないですか。ないですかね?え?そういうのっていいですよね?(なしあじキモ)
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