P.011 光チャレンジ(後編)
〈不可思議な光〉
『絶壁光も少しはそういうおしゃれに目覚めてもいい頃だろうッ!』
『まったく、アンタはいつもしょうがないわね。』
さっきの移動中のやり取り。聞いたその瞬間は気にも留めなかったが、よく思い返してみればなぜ鉄拳制裁を下されなかったのだろう?弥に警告していながら、俺も大概光を逆撫でしがち。その度に両者蜂の巣、挽き肉、袋叩きなどバラエティ豊富な報復を受けるのだ。しかし、それは無かった。もちろん五体満足のために無いに越したことはないのだが。なんだか違和感を覚えてしまう。
そして光にとっては珍しい装いもまた、俺の調子を狂わせる。俺の知る光のファッションセンスは正直......適当・芋っぽい・男というような印象だった。しかし、今日の光の装いはとてもフェミニン。垢抜けた感さえある。こうして幼なじみと出かけるのは高校に入ってから初めてだが、高校生になるということはこうも光を女にするものかと、この瞬間実感する。
「なぁ、光?」
「んー、何よ?」
モールに着いて、光の横で足並みを揃えて中を歩いている間、まるで横にいるのは光ではないように感じられた。俺が問いかけて光が俺の方を向いても......本当に女の子らしい、と思ってしまう。
「今日は弥へのバースデープレゼントを買うらしいが、おおよそ何にするかは決めてるのかね。」
「いや全然?よく分からないから篤哉を連れてきたんじゃない。」
「そうですか光お嬢......」
そんな光、ここに来てプレゼントのあたりをつける以外はノープランらしい。そもそも毎年幼なじみ3人でバースデープレゼントを渡し合うなんてことはしなかったのに、と思う。『これからは私の誕生日を祝いなさい』という暗示なのだろうかと、勘繰ってしまう。
とりあえず、何か心境の変化があったのだろうと割り切って光の目的達成のために付き合ってみる。俺が必要とされていて、何より俺も弥のバースデーは祝ってやらねばらならんから。
「やっぱりあいつは部活でテニスやってるわけだから部活で使えるものがいいんじゃないか?」
「やはりそういうのよねぇ。」
プレゼントのあるべき姿というのは、やはり受け取る本人にとって使えるものであるということだろう。弥といったら部活。ヤツの頑張りを讃えるという意味でもそういうものを贈ることは最善手ではないかと思う。そう考えて、光を引き連れてスポーツ用品一式揃う専門店へ来た。
「ただ、その中でもどれが喜ばれるっていうのがね。」
「まぁそこは一つ一つ見ていくしかないだろう。」
「うん。」
言い出しっぺ光はなぜか半分上の空。
「手分けして見るぞ。」
「わ、わかってるわよ。」
上の空の光の肩を軽く叩く。意識を取り戻して、探索開始とした。
「前々から見かけたことあったけど、このTE○GAっていうブランドのは何なの?」
「さ、さぁ何だろうかね......」
コラボ展開甚だしい某性的おもちゃブランドを発見したり。いや光さん変なところでウブやないか。
「調べてみる。」
「いやぁいいから!そうだこれ見てくれよ!」
「ちょっ......」
しかし調べて真実を知られても困るため光の好奇心を妨害してみたり。
「弥のサイズだったらこっちじゃないか?」
「えっ、あっ、あぁそうねそうね。」
光が弥のサイズには明らかに合いそうにもないネイビーのスポーツウェアを手に取っていたりと、探索中なにかと光に振り回されていた気がする。いつも振り回すのは俺含め野郎2人だから珍しい。本当にコイツは本荘光なのかと、割と本気で思ってしまう。
かなり長い間店内を彷徨ったのち、ようやく贈るものを決めたのであった。
〈さりげなしなヤツの振る舞い〉
弥に渡すプレゼントを手にして、次は空腹を埋めにいく。プレゼントは吸水性抜群の紅白タオル。それぞれゴールドと黒のラインが入っていたりする。これなら実用性があって、かつ紅白でめでたい上にウケも狙えるだろう、という篤哉の発案で決めた。ウケが取れるかは全くもって謎だが、それ以外は理に適っていると言えよう。
そのようにして名目上の目的を果たしたから、フェーズを主目的に進める。まずー篤哉を先導して飲食店街の一つに入る。
「なぁ光、俺恥ずかしいのだが。」
「そう?篤哉にしては珍しいじゃない。」
なぜ篤哉は恥じているのか。答えは簡単、私のチョイスしたお店がティーン女子に人気のカフェだからだろう。実際店内にいるほとんどの人は女性・女子だ。部活でハーレム作っているのだから恥じるなとは思うが。
そう言葉と心中どちらでも篤哉を煽ってはみるものの、私も全く落ち着かない。ファッションとともに何か女の子らしさというものを出すにはどうしたらいいかGのサイトで必死に調べた結果だが、洒落っ気というものを知らない私にとっては背伸びしすぎてしまったように思える......
「ほら、座りましょ。」
「お、おう。」
気を紛らわすために篤哉を急かして席に着く。煽ったというのに、私の焦りは篤哉に知られたりなどしていないだろうか。
「結構うまいな。」
「えぇそうね。」
私は緊張感などもあって食欲が無く、軽めにバゲット。一方篤哉はガッツリ、プレートメニューをオーダー。このようなカフェは写真映えに関しては完璧でも料理の味は微妙という先入観を持っていたが、そんなことはない。シンプルなメニューでも感じられる。
「パンはどうよ?」
「パンじゃなくてバゲットね。美味しいわよ。香りもいい感じだしフレーバー?も、たくさんあっていい。」
「そうか。一口くれよ。」
「いいわよ、はい。」
かじったバゲット1枚を篤哉に手渡す。
「どうも、よっと。」
篤哉は私と同じく一口かじって大変満足である、と言いたげな表情を浮かべる。
あれ。
何だろうか、この違和感。
私が、かじったバゲット1枚を篤哉に。篤哉は私と同じく一口かじって。
あれ。
これ、間接キスなんじゃないだろうか。
...... ...... ...... ...... ......
う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
や、やってしまったぁ!?好きな人と間接してしまったぁ!?なんだか意識せずやってしまったぁ!?いやまぁ確かに、お互いもっと小さい頃にそれっぽいことはしたかもしれない。というかした。だけれどもだ!こうして今恋愛感情を抱いている相手に!歩を進めようとしているときにさりげなく!やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
元を辿れば、一口を求めてきたのは篤哉の方。本人にその意図はなくとも、さりげなく間接キスのようなものに誘導。好きではあるが、篤哉、恐ろしい人............
「ほらよ、それと俺のも少し食べるか?」
「いや、大丈夫......」
渡してかじった残りと篤哉の品の一口分を差し出された。もともと食欲が薄かったのに、こんなことがあってはもはや受け取る気にはなれなかった............
※
「さて、俺トイレ行ってくるけど光は大丈夫か?」
「えぇ、行ってきて。」
大きく動揺したランチタイムが終了。カフェを出て、篤哉の夕食の買い物を手伝うことに。その前にトイレ休憩を挟むが、私は動揺してそれどころではなかった。
「ふぅ......」
通路に備え付けてある長椅子に腰掛ける。その瞬間疲労が身体中から溢れ出てくるようだった。
私が変わりすぎてしまったのだろうかと思う。一つのものを飲み回したり、かじり合ったり、幼い頃は当たり前だったのに。今ではあんなに動揺してしまう。もちろん篤哉は......私の恋愛対象だから少し事情は違うけれど、それでも心の中あんなに取り乱すこともないはずだろう。
篤哉はそういうことで言えば、幼い頃から変わらないということか。私が好きなった時から変わらないということなのか。そうだとしたら、嬉しい気もする。だけれど、私が変わってしまったら意味はあるのだろうか......
「はぁ。」
考えれば考えるほど、鬱屈とした感情が湧き出る。頭も次第に沈んでしまう。
そんな時だった。
「そこの姉ちゃぁん」
「へ?」
頭上から男の声がした。明らかに篤哉のものではない。頭を上げてみると、そこにはフランクな格好をした大学生くらいの男が2人、私の正面に立っていた。
「俺たちと一緒に遊ばない?」
「もち、俺らの奢りで!」
「いやあの、そういうの要らないです。」
世に言うナンパを受けているらしい。今の時代にもこんな古典的な人間がいるものかと呆れてしまう。
「いいじゃんいいじゃん!行こうよ!」
「だから要らないって......!」
心理的な押しが強い上に、私を物理的に動かそうとする力も強い......!あくまで2人の男はふざけ半分のようであるが、そうだとしても負けてしまう−
「あの、すみません。」
無理矢理に連れて行かれそうになったとき、背後から声が。今度こそ......私の聞き覚えのある声、篤哉だった。
「離してもらっていいですか。そいつ、俺の連れなんで。この後も用事あるんで。」
さらに2人のもとへ歩み寄って、語りかけた。
ナンパ組と対峙する篤哉は、強者のオーラ満載だ。いつにも増して低い声と睨みつけるような眼光。弥と悪巧みをする普通の篤哉は、私を守ってくれる篤哉になっているように見えた。連れ、その言葉は間違いではない。けれどなぜか、照れくさいと思う。
「クソッ......」
2人組も圧に屈してのことか足早に退散していった。ひとまずの安心感が、私を包み込んだ。
「光、やっぱ帰るか。」
嵐が過ぎ去った後の篤哉は、さっきまでと打って変わってさわやかな表情を浮かべそう言った。安心感であったり感謝であったり、様々な感情が綯い交ぜになって、私は力なく篤哉の提案を受け入れた。
※
ショッピングモールを出て、最寄りのバス停で帰りのバスが来るのを待っている。外に出て開放感を得た私は、身体中に力が入ってきた。それで、篤哉に感謝を投げかけてみる。
「さっきはありがとう。」
「礼だなんて別にいいさ。それにしても、今どきあんなさびれたようなナンパする奴がいるだなんてな。」
「そうね......」
「まぁ、珍しく自分をかわいく見せるのも構わないが、それだけのリスクもあるにはあるだろうから気をつけろよ?」
「わかったわ......えっ?」
この男–私の想い人は今、真顔のままなんと言った?
『かわいく見せる』
これはつまるところ、思い上がりをしてもいいのなら、身なりを工夫した私をかわいいと見てくれているということなのか。
そうだとすれば、照れが収まりそうもありませんが!
「かわいくってなによ。」
照れ隠しでぶすくれた調子になって聞いてみる。
「そのままの意味だよ。女子が自分をさらにかわいく見せたらそりゃ変な奴も寄ってくるだろうよ。それに、俺に限っては光がいつもと違うと落ち着かん。」
「な、なによそれ......」
身体がとても熱る。6月の蒸し暑さのためだけじゃない、篤哉が次々に放つ言葉のせいでもある。そんなことを気にもせず、篤哉はさらに続ける。
「服もそうだし、俺の煽りにも怒りの鉄槌を下さなければ食事も洒落込む。正直いつもの光じゃない感じがして落ち着かなかった。」
............そうか、そういうことか。
私はなにか勘違いをしていたのかもしれない。私はただ、まりあのようにかわいい女の子でいれば自然と篤哉に好かれるものだと思っていた。でも、私は違うのかもしれない。あくまで篤哉は、私にいつも通りの姿を求めているらしい。私の変わらない素を求めているようだ。これは、私にとって実に重要で、なんとも嬉しいことだ............!
「まぁ光さんもある一部分を除いては成長なさってるようですし?少しは洒落っ気というものを身につけていくでしょうから仕方ないですけどね!」
「何が成長してないですってぇ?鉄槌を下さないと思ったら大間違いよ!」
「イタタタタ!やめろ!耳なし芳一になるっての!」
オシャレしてみたり、少しでも振る舞いを落ち着けてみたり、かわいらしい店を使ってみたり、どれも新しい経験で悪くはなかった。でも、心地が良いかと尋ねられるとそうとは答えられない。あくまでも幼なじみたちと他愛無く関わって、ふざけ合うくらいがちょうどよい。そしてその意識は篤哉も同じだと言う。だったら、もうしばらくはそれで満ち足りることだろう。
今日、勇気を出して篤哉にあのことを言うというのが主目的だった。でも、こうなったら仕切り直し。まりあや先輩たちといった手強い相手もいるけれど、ここで焦ってはいけないという天からの思し召しなのだろう。もう少しいつもの自分というものを見つめて、またチャレンジしよう。
篤哉、イケてるが過ぎるやろ(by作者)
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