第94話 迫り来る者達
アンナ達は、アストリオン王国の王城にて待機していた。もちろん、狼魔団との戦いに備えるためである。
「それで、獣王について、どれくらい知っているの?」
狼魔団に現れた新たなる将、獣王それに対抗するべく、アンナ達は話し合っていた。
アンナは、獣王のことを知っているというガルスとツヴァイに対して、そう問いかける。
「正直に言って、俺は噂くらいしか聞いたことがない……だが、その噂ですら底知れぬ強さを持っているとわかる程だ」
アンナの質問に、ツヴァイはそう答えた。
やはり、獣王はかなりの実力者であるようだ。
「ガルス、お前はどうだ? 俺以上に知っていることがあるのではないか?」
「……ああ、俺は奴の戦いを、何度か見たことがある」
ツヴァイの言葉に、ガルスはゆっくりと口を開いた。
どうやら、ガルスはより詳しく獣王のことを知っているようだ。
アンナは、詳しく聞いてみることにする。
「その時の獣王は、どんな戦いをしていたの?」
「奴は、どんな攻撃をも受け付けず、その肉体のみで、千にも及ぶ敵を一人で蹴散らしていた……」
「やっぱり、恐ろしい力を持っているんだね……」
ガルスの言葉からも、獣王の恐ろしさは確認できた。
そんな相手と、アンナ達は戦わなければならないのだ。
◇
アンナ達が待機していると、部屋の戸が叩かれる。
戸を開けてみると、兵士が立っていた。何か、慌てているように見える。
「失礼します、皆さん、狼魔団に動きがありました!」
兵士は、戸が開くなり、すぐに口を開いた。狼魔団が動き始めたことを、伝えに来たようだ。
アンナは、気を引き締めながら、兵士に問い掛ける。
「狼魔団に? 一体何が?」
「はい、狼魔団が、北から向かってきているようです!」
狼魔団は、北からこの王都に向かって来ているらしい。
いよいよ、狼魔団との戦いが始まるようだ。
「いや、待て……」
しかし、そこでガルスが声をあげる。
「その集団は、監視できているのか?」
「は、はい! 遠巻きからではありますが、確認できています」
「なら、そこに獣王はいるか?」
「い、いえ、獣王は確認できておりません」
ガルスの質問は、件の獣王がそこにいるのかという確認であった。
兵士曰く、獣王はいないようである。
「ガルス、どうしたの?」
ガルスが顎に手を当て考え始めたため、アンナは問い掛けた。
だが、アンナもガルスが何を考えているかは、大体わかっていた。
獣王が、その狼魔団の中にいないというのは、少し違和感のあることだ。恐らく、ガルスはそれを考えているのだろうと、アンナは思った。
「ああ、獣王がどこにいるかを考えていてな……」
「やっぱりそうか……」
アンナの予想通り、ガルスは獣王がどこにいるかを考えているようだ。
「ガルス、獣王の調査を任せてもいい?」
「何?」
「狼魔団の集団も、放ってはおけない。だけど、獣王のことも気になる。だから、そうするべきだと思ってね」
アンナは少し考えた結果、そうすることにした。
どちらも対策するには、それが一番だと思ったのだ。
「……わかった。そちらは、俺に任せておけ」
ガルスも、その提案を受け入れたため、やるべきことが決まる。
こうして、アンナ達は動き始めるのだった。
◇
アンナ達は、王都の北側に構えていた。
ガルス以外の全員が、とりあえずこちらに来ている。獣王は、動いているかどうかわからなかったため、全力はこちらに集中させることになったのだ。
「狼魔団の動きは?」
「はい、ゆっくりとこちらに向かっているようです!」
アンナが、周囲にいる兵士に問い掛けてみるとそう言ってくる。
やはり、狼魔団はこちらに向かってきているようだ。
ならば、獣王がどこにいるのか、それは気になることである。
「勇者様!」
アンナがそんなことを考えていると、違う兵士が話しかけてきた。
兵士から話しかけられるということは珍しい。そういう時は、決まって何かあった時である。
「何か、あったんですか?」
「ガルスさんが、獣王を発見したそうです」
「なっ……!」
兵士の言葉に、アンナは驚いた。
まさか、こんなにも早く獣王が発見されるとは、思っていなかったのだ。
アンナは、兵士に向かって問い掛ける。
「獣王は、一体どこに?」
「それが……王都の南、正面から向かってきているようなんです」
どうやら、獣王は町の正面から向かってきているようだ。元々、隠れるという気はなかったらしい。
「それで、獣王側の兵は?」
「い、いえ、獣王は一人であるそうです」
「一人……?」
さらに、獣王はたった一人で来ているようだ。
兵も連れず、単独行動とは、余程自身の実力を信じているのだろう。
しかし、その実力は色々な情報のよって、保証されている。故に、それも間違いではないのだろう。
「皆!」
アンナは話を聞き、仲間達に話しかけた。
ある決断を、伝えるためである。
「皆は獣王の方に向かって欲しい」
「お姉ちゃん!? それって!?」
「こっちは、狼魔将ウォーレンスくらいしか戦力がないはずだ。だから、向こうの方に戦力を集中させたい」
「……なるほど、そういうことか」
「もし、獣王が大したことなかったなら、すぐにこっちに戻ってきてくれたらいい」
アンナの提案は、皆も納得できるものだった。
獣王が強かろうが弱かろうが、その提案の方が、効率が良さそうなのだ。
「わかった、お姉ちゃん、無事でね」
「うん、カルーナ。皆も、きっと無事で」
こうして、アンナ以外の全員が、獣王の元へと向かうことになったのだった。




