第91話 修行を終えて
アンナ達は、教授の家にある地下修行場で、修行を行った。
各々、教授に何をするか言われて、それを実行したのだ。
「さて、皆、これで僕の課題は終わりだ」
今は全員修行を終え、地下修行場から出てきており、教授の前に並んでいる。既に、出発の準備もできており、教授からの最後の言葉を授かっているのだ。
「これで、これからの戦いをより有利に進めることができるだろう」
「はい、ありがとうございました、教授」
たった一日程度の修行だったが、アンナ達のレベルは上がっていた。これで、次なる戦いも有利に進められるはずだ。
「アストリオン王国の王都、ネプロミスまでは、まだ少し時間がかかる。道中、気をつけるようにね」
「はい!」
各々、別れの挨拶を交わし、教授の家を後にする。
次にアンナ達が向かうのは、アストリオン王国の王都だ。そこで、狼魔団との戦いが待っている。
「それでは、教授、お元気で」
「ああ、頑張ってくれ」
最後にアンナがそう言い、勇者一行は教授の家を去っていくのだった。
◇
アンナ達は、アストリオン王国の王都に向かっていた。
アンナとカルーナは、御者席に座り、馬車をコントロールしている。
「ねえ、カルーナ?」
「うん? 何?」
「カルーナの修行って、どうだったの?」
そこで、アンナはカルーナにそんなことを聞いてみた。
地下から出てきて、すぐに出発の準備をしたため、アンナ達はお互い、修行の成果がどれ程だったか知らないのだ。
「うん。なんとか消滅呪文を使えるようにはなったよ。すごく小規模でしかないから、まだまだだけど……」
「そっか、それなら、よかった……かな?」
アンナの質問に、カルーナはそう答えてくる。
カルーナは、新たなる魔法消滅呪文の修行をしていた。それが小規模とはいえ、使えるようになったのなら、しっかりと成果は出ているようだ。
「お姉ちゃんは、どうだったの?」
次にアンナは、カルーナから逆に質問される。
カルーナも同じ条件なので、それも当然だ。
「うん。聖闘気がほぼ自由に出せるようになったよ。これで、次の戦いでは、聖闘気が活用できると思う」
「そうなんだ。それなら、よかったね」
アンナは、教授との特訓で、聖闘気をほぼマスターしていた。
こちらも、しっかりと成果が出ているのだ。
「……」
「……」
そこまで話して、二人の姉妹は黙ってしまう。
その原因は、教授から受けた言葉にある。
教授は、愛によって人は強くなると言った。そして、それを深めれば深める程強くなると、力説していたのだ。
その言葉の説得力は、教授との修行で増していた。なぜなら、教授が優れた指導者だと、二人が知ったからだ。
二人にとって、愛を一番抱いているのは、お互いである。そのため、その人物と愛を深めるには、どうしたらいいか考えているのだった。
(お姉ちゃんと……)
カルーナの方は、既にその答えに辿り着いている。なぜなら、それは毒魔団との戦いの後に気づいたことと一致しているからだ。
しかし、カルーナはまだ勇気を出すことができなかった。この状況でも、怖いものは怖いのである。
(カルーナと……)
一方、アンナはまだ何も考えられていなかった。
今でもかなり愛しているカルーナと、どう愛情を深めればいいか、答えが出ていないのだ。
「アンナ、カルーナ」
「うん?」
「え?」
そんな二人の思考を、遮る声があった。
それは、ガルスの声である。
ガルスは、馬車の窓を開け、アンナとカルーナに話しかけてきたのだ。
「ガルス、どうかしたの?」
「ああ、少し嫌な予感がして、それを伝えておきたくてな」
「……何か、あるんだね?」
アンナは、ガルスの言葉に表情を変える。
ガルスの予感は当たるため、聞いておきたいと思ったのだ。
「大きな気配を感じる……」
「大きな気配?」
「ああ、アストリオン王国内に、かなり強い奴がいるようだ。この気配、恐らく、ウォーレンス以上だろう」
「ウォーレンス以上……か」
ガルスが感じたのは、狼魔将ウォーレンス以上の力を持った者の気配らしい。
それは、かなり恐ろしいことである。敵側の最高戦力であるウォーレンス以上の力を持つ者が、魔族側にいるとなると、かなり厄介だろう。
味方側にそれがいるのならありがたいが、ガルスの予感からして、まともなことにはならなそうだった。
「……俺の予感が、外れていれば、いいのだがな……」
「うん、ありがとう、伝えてくれて……」
「ああ……」
それだけ言って、ガルスとの会話は終わる。
「お姉ちゃん……大丈夫かな?」
そこで、カルーナがアンナに心配そうな声を出す。
一連の話で、不安を覚えたようだ。
「大丈夫……かどうかはわからないけど、気にしすぎても駄目だ。今は、先を急ごう」
「……うん、そうだよね」
アンナ達は、漠然とした不安を抱えながら、王都へと足を進める。
この先にどのような敵が待っていても、アンナ達がやることは変わらない。全力で戦い、勝つだけなのだ。
ただ、この発言は、気を引き締めることに繋がるのだった。




