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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第六章 獣人達の王

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第88話 教授のご高説

 アンナ達は、レミレアの勧めで、教授と呼ばれし男の元へ来ていた。

 教授はレミレアと同門であり、教えを授ける者という意味で、そう呼ばれているらしい。


「教授、教えを授けるとは、一体……?」

「ふむ、僕がこれから放つ言葉を、よく聞いて欲しいんだ」


 アンナの質問に、教授はそう言って答えた。

 これから、教授のご高説が聞けるようである。


「まずアンナ、君は強くなるためには、どうすればいいと思う?」

「え?」

「ただ答えを与えるだけが、僕ではないよ。さあ、答えてくれ」


 教授はそう言って、アンナに質問してきた。

 アンナはそれについて、少し考えてみる。


「体を鍛えたり、闘気を磨いたりすれば、いいんじゃないですか?」

「ふむ、確かにその通りではある。だが、それだけで本当に強くなれるのだろうか?」

「……それは、どういう意味ですか?」

「強さの本質が、そこにあるのかということさ」


 教授の言うことが、アンナには理解できなかった。

 体や闘気を鍛えたえれば、力がつき、戦いが有利になる。

 それこそが、強くなるということではないのだろうか。


「……教授は、一体何が言いたいんですか?」

「そうだね……例を出そう。例えば、アンナ、君はつい数か月前までは、外にすら出たことがなかったと、聞いたことがある」

「え? まあ、はい」


 教授は、ヒントをくれようとしているようだ。

 そのため、アンナは、自分の事情を知っているのが気になったが、敢えて何も言わないことにした。


「そんな君が、どうして戦うことができたのだろうね? 今まで、外の世界すら知らなかった君が、強敵達を倒すことができた理由、それはなんなのだろう?」

「倒すことができた理由? それは……」


 教授の言葉を受けて、アンナは考える。

 しかし、理由などいくらでもある気がした。

 ソテアからの指導を受けていたことや、カルーナや仲間達がいたこと、さらには運までもが、アンナを救ったものなのだ。

 そのため、アンナは答えを出せずにいた。


「もっと簡単に言おう。君が戦い始めた理由とは、なんなんだい?」

「戦い始めた理由……」

「最初に、その力を使ったのは、なんのためなのかな?」

「……それは」


 次に教授が放った言葉は、考える必要すらなかった。

 なぜなら、アンナは今でも覚えているからだ。自身が、最初に戦った理由を。


「町からの帰り道で、野盗に襲われて、カルーナを守らなくちゃって思って……」

「そう、それだよ、アンナ。強さの本質とは、そこにあるのさ」

「え?」


 アンナの答えに、教授は踏み込んできた。

 その目を輝かせ、アンナに対して語る。


「誰かを守りたいという意思……すなわち、意思こそが強さなんだ」

「意思?」

「そう、それはつまり、愛なんだ」

「愛?」


 そこで教授は、黙り込んだ。

 何やら、決まったという顔をしている。


「……」


 ここまで聞いて、アンナは思った。この教えは、あまりいいものではないと。

 確かに納得できる面もあったが、最終的結論はとても胡散臭いのだ。


「おや、皆、あまり納得いっていないようだね」


 その場にいる全員が、アンナと同じことを思ったようで、教授に視線が注目していた。


「では、ツヴァイ、君はなんのために戦っているんだ?」

「何? 何故俺に?」

「いいから、答えてみたまえ」

「まあ、いいだろう……」


 そこで、教授はツヴァイに話を振る。

 ツヴァイは、渋々ながら、それに答えるようだ。


「俺が戦うのは、ティリアのためだ。ティリアとティリアを慕ってくれる者達のために戦う。俺はそう決めたのだ」


 ツヴァイは、はっきりとそう答えた。

 すると、教授は笑みを浮かべる。


「何がおかしい?」

「ティリアのため……それはつまり、彼女を愛しているということではないのかな?」

「む……」

「愛しているから守りたい。違うかい?」


 教授の言葉で、その場の全員が黙り込む。

 ツヴァイの例で、教授が言っていることの信憑性を高めたのだ。


「そして、そのために強くなる。あるいは、強くならなければならない。そのはずだろう……?」


 教授の言葉は、全員少なからず覚えがあるものだった。

 そのため、教授の言っていることが、なんとなく理解できそうなのだ。


「でも、教授? それなら、一人なのに強い人はどうなるんですか?」


 そこで、カルーナが疑問を口にする。

 誰か守るために強くなるならば、それがないものは、まったく強くなれないということだ。

 それは、違うのではないかと、カルーナは思ったのだった。


「ああ、だが、愛とは他人にだけ向けられるものでもないだろう?」

「……確かに、そうですけど」

「つまり、自身を愛することで強くなることもあるということさ……」


 教授は、その疑問に対しても、はっきりと答える。

 特に悩んだ様子もないことから、予測していた質問だったのかもしれない。


「……教授の言っていることはわかりました。だけど、それでどうやって強くなるというんですか?」


 その質問の後、アンナがそう言った。

 教授の言う論が真実だとしても、それで強くなるにはどうしたらいいのか、アンナには理解できなかったのだ。


「それは簡単だ。愛を深めればいい」

「深める?」

「そう、もっと愛することで、例えば、それを守りたいという気持ちを深くするんだ……そうすれば、君の体にかつてない力が宿るはずさ」

「もっと愛する……」


 教授の言っていることは、抽象的だったが、アンナはなんとなく理解する。要は、守りたいという気持ちを、もっと持てばいいということなのだろうと。


「さて……この話はこれで終わりだ」

「あ、ありがとうございました、教授。それと、色々と疑ってしまいすみませんでした。なんとか強さのヒントにはなりそうです」

「……おっと、何か勘違いしているようだね」


 教授の話が終わったと思い、アンナはお礼を言った。

 しかし、教授は笑いながら、それを勘違いしているようだと言ったのだ。

 どうやら、まだ何かあるらしい。


「えっと、まだ何かあるんですか?」

「今のは精神的な話さ……次は、実際に強くなってもらう」

「え?」


 そこで教授は席から立ち上がり、部屋の一角の床を触った。

 すると、その床が開き、階段のようなものが見えてくる。


「ここが、君達の修行する場所だ」

「しゅ、修行……?」

「その修行で、君達を強くする」


 アンナは、その新たなる提案に驚くのであった。

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