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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第五章 水面に映るもの

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第85話 本当の最期は

 水魔将フロウは、オルフィーニ共和国の中心都市ブームルドにいた。

 彼が立っているのは、ある建物の中である。

 彼はそこで、分身の戦いを見ていたのだ。


「拙者の分身五体を、全て使っても敵わぬか……」


 フロウは、勇者一行と戦うにあたって、水の分身アクア・シャドウを用意していた。

 最初にアンナ達の前に現れたのは、分身だったのだ。そこから、四体の分身を作り出し、アンナ達と交戦したのだった。

 つまり、フロウは自爆しておらず、アンナ達の前にすら、姿を見せていないのだ。


「……ここは引くしかないか」


 しかし、フロウもこれ以上戦うことができなかった。

 分身の操作にも、かなりの闘気を使う。これ以上戦っても、フロウに勝ち目はないのだ。


「フロウよ……」

「あ、あなたは……」


 そんなフロウの後ろから、声が聞こえてくる。

 その声は、フロウもよく知っている者の声だ。


「操魔将……オーデット様!?」

「まさか、生きていたとはな……」


 それは、魔王の側近であり、魔将の一人、オーデットだった。


「はい……この度は、申し訳ありません。勇者一行に、拙者の力が及ばず……」

「それはいい……お前が無事で何よりだ……」

「オーデット様……ありがたき幸せ」


 オーデットの言葉に、フロウは感動する。

 自身の無事を喜んでくれるのは、嬉しいものだった。

 だが、同時に自身の失敗を悔やんだ。フロウは、自分の失敗を重く受け止めるのだった。


「さて、それでは帰還するとしようか……」

「はっ……」


 しかし、フロウはここで一つの疑問を覚える。

 それは、何故オーデットがここにいるのかということだ。

 魔王の側近である彼が、目的もなくここにいるはずはないのである。

 そのことに、フロウは何か嫌な予感がするのだ。


「オーデット様……一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「む? なんだ?」

「どうして、こちらに……?」


 そのため、フロウはオーデットに質問することにした。

 疑念を晴らさずには、いられなかったのだ。


「……そうだな。お前を……」


 そこで、オーデットはフロウに指を向けた。


「仕留めるためだ……」


 そして、その指から糸のようなものが放たれる。


「うっ……」


 糸はフロウの心臓部に、突き刺さった。

 一瞬の出来事故、フロウは何も抵抗できなかったのだ。


「くっ……」


 フロウは、自身の体から力が抜けていくのを感じる。

 明確に、死というものが近づいているのがわかってしまう。


「な、何故……」


 そんなフロウの口から出るのは、疑問だけだった。

 味方であるはずのオーデットが、何故自分を殺すのか、それがわからないのだ。

 勇者に負けたとはいえ、殺される程、魔王軍は非情ではなかったはずである。


「何故か……そんなことは、お前が知る必要はない」

「くっ……」

「己の非力を恨むのだな……」


 フロウに返されたのは、そんな言葉であった。


「あ、兄……者、魔王……様」


 フロウが最期に思うのは、自らが忠誠を誓う者達だ。

 このオーデットは、いずれそこにまで牙を向けるだろう。


「死ねい!」

「がはっ!」


 フロウは、ただその者達の無事を願うのだった。





 アンナ達は、フロウとの戦いが終わった後、エスラティオ王国軍と合流していた。

 水魔団のほとんどは投降し、戦いは終結しようとしている。フロウの敗北により、水魔団も手を止めるしかなかったようだ。


「プラチナス……」

「ツヴァイ様……お久し振りです」


 ツヴァイは、そこでプラチナスを認識する。

 カルーナから話は聞いていたが、自身の部下と再会し、喜ばずにはいられなかった。


「よく来てくれた……お前のおかげで、助かったぞ」

「いえ、ツヴァイ様のお役に立てたなら、光栄です」

「ふっ! お前は変わらんな……」


 ツヴァイは腹心の言葉に、笑みを浮かべる。

 変わらぬ部下を、嬉しく思ったのだ。

 そんな二人の横から、声をかける者がいた。


「プラチナス」

「カルーナ、君か」


 それは、カルーナである。

 助けられた張本人のため、お礼を言いに来たのだ。


「今回は助かったよ、ありがとう」

「構わんさ、私の力はツヴァイ様のものだ。故に、君のために力を使うのも当然だ」

「……本当に変わってないみたいだね」


 プラチナスの言葉に、カルーナは笑う。

 かつて死闘を繰り広げた二人には、奇妙な絆があったのだ。


「女王様……」

「アンナ、久し振りだな……」


 そんなカルーナ達から少し離れ、アンナはレミレアと会話していた。


「この度は、本当にありがとうございました」

「ふむ、それは構わん。妾達が、魔王軍と戦うのは当然のことだ」


 アンナのお礼に、レミレアは毅然とした態度で答える。

 アンナには、そんなレミレアに聞いておかなければならないことがあった。


「……それで、このオルフィーニ共和国は、どうなるんでしょうか?」

「……厳しい状況だな。この国の首相は、この戦いで命を落としたようだ。しばらくは、混乱が続くだろうな」

「……そうですか」


 オルフィーニ共和国の受けた打撃は、かなり大きいようだ。

 アンナはそのことに、心を痛める。アンナ達は、間に合わなかったということなのだ。


「アンナよ、責任を感じることはない。そなたらは、こうして国を取り戻したのだ。それでいいではないか……」

「しかし……」

「例え、イルドニア王国からすぐに出発していたとしても、万全ではないそなたらでは水魔団に勝てなかったろう。つまり、結果は変わらんかったということだ」


 レミレアの言葉は、アンナも理解している。

 だが、それでも悔やまずにはいられなかった。


「アンナよ、そなたは勇者だ。しかし、勇者にもできないことはある。それを悔やむのはいいが、引きずってはならん。戦いは、まだ続くのだからな……」


 レミレアは、そう言って去っていく。

 アンナは、立ち尽くし、これからのことを考えるのだった。





 ティリアは、ネーレとともにいた。

 ネーレの傷を回復するためである。


「はあー、ティリア達って、すごいんだなー」


 ネーレは、勇者一行の強さに感心しているようだ。


「わ、私は別に……」

「いや、ティリアの回復がなかったら、今頃死んでいたし……」


 ネーレは、フロウの攻撃によって、傷を負っていた。

 ティリアの即興に回復で、なんとか傷を塞いだが、念入りに回復しておく必要があったのだ。


「ネーレさんだって、あの水魔将に立ち向かったんですから……」

「……まあ、なんとか助かったけど……」


 ネーレがいなければ、アンナ達の戦いはより厳しいものになっていただろう。

 ティリアとしては、真っ向から水魔将に立ち向かったネーレは、充分すごいと思えるものだった。


「あんなのとアンナは、毎回戦ってきたんだよな……」

「……そうですね。アンナさんやカルーナさんは、とてもすごい人達です」


 二人は、勇者とその妹に感嘆する。

 自分達とそう変わらない年齢の者達が、あそこまで戦えることに、尊敬の念を抱かずにはいられなかった。


「ま、今回は助かったし……よしとしようか?」

「はい、それでいいと思います」


 そんな話をしながら、ネーレの治療は続いていくのだった。

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