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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第五章 水面に映るもの

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第82話 さっきまでの自分

 アンナ達は、水魔将フロウと対峙している。

 フロウの分身に苦しめられていたアンナ達だったが、ガルスが現れたことによって、形勢が逆転したかのように見えた。


「私達自身との戦い……」


 しかし、フロウの次なる手は、アンナ達を動揺させるものであった。

 フロウの分身は、アンナ達それぞれの姿に変わったのだ。


「俺達と同じ力を持っているというのか……」

「その通り、俺はお前、お前は俺だ」


 フロウの言葉が真実なら、それは姿だけでなく、能力まで同じらしい。


「能力が同じ……? そんなはずない……」


 そこで、疑問を感じたのはカルーナだった。

 フロウは、先程まで闘気による攻撃を行っていたはずだ。闘気と魔法は、同時に使うのが難しいものである。

 ツヴァイのような例外もいるが、今まで使っていないことから、フロウは魔法が使えないはずだ。

 そのツヴァイが作り出したものが、魔法を使えるとは思えなかった。


「魔法と使えないはずのフロウが、私の魔法を再現できるの?」

「試してみる?」


 カルーナの疑問に、分身カルーナがそう煽ってくる。


「そうだね……」

「くるみたいだね……」


 カルーナは、自分の疑問を確かめるために、その挑発に乗ることにした。

 自身の手に、魔力を集中させ、火球を形作る。


小さな(リトル)紅蓮の火球(ファイアー・ボール)!」


 カルーナの手から、小さな火球が放たれた。


小さな(リトル)紅蓮の火球(ファイアー・ボール)!」


 それと同時に、分身カルーナも火球を放ってくる。

 二つの火球は、ぶつかり合って、弾け飛んだ。


「そんな……どうして魔法を……?」


 その光景に、カルーナは目を丸くする。

 魔法使いのカルーナは、今の魔法が本物であるとわかった。それが、カルーナの疑問を加速させたのだ。


「言ったはずだよ……私は、あなた自身。あなたが使える魔法は、私も使えるの」

「でも、フロウは魔法が使える訳じゃないはず……」

「確かに、フロウは魔法を使えない。だけど、水の鏡(アクア・ミラー)は相手の力を完全にコピーする。もちろん、魔力も……」


 分身カルーナの言葉が、真実であると、カルーナは思った。

 先程魔法を見せられてしまったため、そう思わざるを得ないのだ。


「最も、この状態ではフロウとしての力は使えないけどね。本当にあなたと同じ、魔法は使えても、闘気は使えない……」

「本当に私自身ということだね……」


 カルーナは、頭の中で必死に考える。自分自身とどう戦うかを。


「さて、俺達もそろそろ始めるとするか……」

「……まさか、本当に俺と同等の力とはな……」


 ガルスも、カルーナの戦いは見ていた。

 故に、相手が自身と同等の力を持っていることを確信する。


「ふん!」

「来るか!」


 しかし、考えていても答えは出ないため、ガルスは駆け出す。

 とにかく攻撃し、活路を切り開くためである。


竜人拳(リザード・ナックル)!」

竜人拳(リザード・ナックル)!」


 ガルスの拳と、分身ガルスの拳がぶつかり合う。

 その衝撃で、二人は大きく後退する。


「くっ!」

「くっ!」


 二人は、同じように体勢を立て直し、再び相手に向かっていく。


竜人脚(リザード・レッグ)!」

竜人脚(リザード・レッグ)!」


 ガルスと分身ガルスは、同時に蹴りを放つ。

 その攻撃によって、また二人は吹き飛んでいく。


「やはり……同じ力か」

「その通り、俺はお前自身だからな……」


 分身ガルスの攻撃が、自身の攻撃とまったく同じであることを、ガルスは感じていた。

 さらに、相手の攻撃が手にとるようにわかるが、自身の攻撃も相手に悟られていることを理解する。

 本当に、自分自身と戦っているのだと、ガルスは実感するのだった。


「さて、私達も戦おうか……」

「私と……同じ力……」


 アンナも、カルーナやガルスの戦いを見ており、相手が自身と同じ力だと理解している。

 そのため、相手に対する警戒はかなり高まっていた。


「来ないなら、こちらから行くぞ!」


 考え続けているアンナに、分身アンナが襲い掛かってくる。

 アンナは、聖剣を構え、その攻撃を迎え撃つ。


「はああ!」

「はっ!」


 聖剣がぶつかり合って、重なり合う。

 その衝撃によって、二人の体が後退していく。

 やはり、力は互角のようだ。


「本当に、今の私と同じ力を持っているようだね……」

「そうだね……私とあなたは同じ力。だから、あなたは私を倒すことができない……」

「……どうかな」


 分身アンナの言葉に、アンナは笑う。

 その様子に、分身アンナは目を丸くする。


「何故、笑うんだ……勝てないというのに」

「勝てない……それは、違う」

「何……?」

「私は今まで、自分より強い者達と戦ってきた。それに比べれば、あなたなんて怖くない」


 アンナは心の中で、今までの戦いを振り返っていた。

 思い返してみれば、アンナが戦ってきた魔将は、全員アンナよりも強かったはずだ。

 それを思えば、目の前にいる分身アンナなど、大したことがないように感じるのである。


「……でも、勝てないことに変わりはない。あなたは、私を倒せない」


 アンナの言葉に何かを感じたのか、分身アンナが駆けだした。

 そして、アンナに向かって、聖剣を振るってきたのだ。


「はあああ!」

「はあああ!」


 二つの聖剣がぶつかり合い、大きな衝撃が起こる。

 その力は、同等のものであるはずだった。


「うわあああっ!」


 しかし、吹き飛ばされた者はただ一人。

 それは、分身アンナであった。


「な、何故……」


 分身アンナは、自身に起こったことに目を丸くする。

 同等の力を持つ自分が、競り負けることなど、あるはずがないと思っていたからだ。

 だが、事実として、分身アンナは負けた。それが理解できないのである。


「私と同じだというのに、わからないのか?」

「なっ……!」


 分身アンナは、思考能力も、アンナと同等であるはずだった。

 しかし、今のアンナが何をしたが思いつかないのだ。そのことが、分身アンナをさらに困惑させる。


「どうやら、上っ面をコピーしただけのようだな……」

「そ、そんなはずはない……」


 分身アンナは、再び立ち上がり、アンナへと向かっていった。


「はああああ!」

「やああああ!」

「ぐはあっ!」


 しかし、分身アンナの攻撃が届くことはない。

 アンナのカウンター攻撃によって、その身を切り裂かれてしまったのだ。


「そ、そんなはずはない……」

「お前がコピーしたのは、さっきまでの私だ。生きているものは、常に進化を続ける。さっきまでの私など、すでに通り過ぎたんだ」

「そ、そんな!」


 バランスを崩した分身アンナに、アンナが向かっていく。

 アンナは、この短時間で成長していた。戦いの中で、常に成長する。それは、今までアンナがしてきたことだった。

 その成長は、分身アンナが追い付けない程、速いものだったのだ。


「これで終わらせる……!」

「くっ……!」

十字斬り(クロス・スラッシュ)!」

「ぐわああああっ!」


 アンナの攻撃に、分身アンナを切り裂いた。

 最早、分身アンナは、アンナの攻撃を受けることしか、できなかったようだ。


「これが……本物の、力……か……」


 分身アンナの傷口から、水が噴き出てきた。

 だんだんと、その形が崩れていく。


「……」


 そして、分身アンナは 水の柱に変わり、地面に流れていった。

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