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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第五章 水面に映るもの

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第81話 三叉槍の陣

 アンナ達は、水魔将フロウと対峙している。

 フロウの分身攻撃に、本体が動けないという弱点を突いたアンナ達だったが、これも防がれてしまった。


「陣形を変えるとしようか……」

「ふむ、そうしよう」


 アンナ達が体勢を立て直していると、フロウの分身達がそう言い始める。

 すると、一人の分身が本体の前に立ち、残りが前に出てきた。


「これぞ、三叉槍の(トライデント・)フォーメーション

「これで、本体には触れられんだろう……」

「先程の攻防でわかったが、そちらで拙者達に対抗できるのは、二人……つまり、攻撃は三人で充分だ……」

「くっ……!」


 その陣形に、アンナは息をのむ。

 フロウの言う通り、アンナ側で本当に戦えるのは、アンナとカルーナしかいない。ネーレやティリアも、少しくらいなら戦えるが、長期戦になればまずいのだ。

 よって、今の状況は、アンナ達の方が、不利とさえいえる。


「アンナ、俺がなんとか一体を引き付ける……」

「ネーレ……だけど」

「危険は、承知さ……それでも、アンナやカルーナが二人同時に相手するよりはましなはずだ……」


 悩んでいたアンナに、ネーレがそう話しかけてきた。

 ネーレの言っていることは、アンナもわかる。

 もし、ネーレが戦わなければ、アンナかカルーナが二体の分身と戦わなければいけない。しかし、それはかなり厳しいのだ。


「アンナさん、ネーレさんは私が手伝います」

「ティリア!?」

「二人なら、なんとか足止めできると思います。その内に、分身を倒してください……」


 続いて、ティリアもそんな提案をしてきた。

 つまり、二人が引き止めている間に、アンナかカルーナが分身を倒し、そちらに行くという作戦のようだ。


「お姉ちゃん、やるしかないよ」

「カルーナ……」

「今はその作戦しか、勝つ方法がない……それなら、それに賭けようよ」


 カルーナも、その作戦に乗る気らしい。

 確かに、今できる最善はそれである。アンナも、覚悟を決めることにした。


「わかった……でも、危険になったら、逃げるんだ、いいね」

「ああ、わかったぜ……」


 話が纏まり、それぞれフロウの前へ行く。


「なるほど、そうするか」

「確かに、それが一番いい手だろう」

「ただ、どれだけ持ちこたえられるかだな」


 フロウの分身が、一斉にアンナ達の元へ迫ってくる。

 アンナは、聖剣を構え、それを迎え撃つ。


「おっと……その攻撃は、受けたくないな」

「くっ……」


 フロウの分身は、攻撃を中断し、聖剣を躱した。さらに、後退して、アンナから距離をとっていく。早く勝負を決めたいアンナにとって、それは嫌な手だった。


紅蓮の火球(ファイアー・ボール)!」

「こちらも恐ろしい攻撃か……」


 カルーナの戦いも同じである。

 フロウの分身は、カルーナの魔法を躱し、距離をとっていく。

 どうやら、アンナとカルーナに対しては、時間を稼ごうとしているようだ。


「さて、問題はこちらだな!」

「くっ……!」


 一方、ネーレとティリアに対して、フロウは攻撃の手を緩めない。

 恐らく、二人を仕留め、アンナとカルーナの元に向かうという作戦なのだろう。


麻痺呪文(パラライズ)!」

「それか……」


 そこで、ティリアの魔法が放たれる。攻撃に夢中になっていた分身は、それをよけることができなかったようだ。

 これにより、一瞬だけ動きが止まった。


「そりゃああああ!」

「ふっ、だが……」


 そこに、ネーレの短剣が振るわれる。

 隙だらけの分身を、何度も斬りつけた。


「その程度か……」

「くっ!」


 しかし、分身には傷一つついていない。

 根本的に闘気の格が違いすぎるため、攻撃が通らないのだ。

 フロウが、ティリアの魔法を受けたのは、ネーレ側に有効手段がないとわかっていたからだろう。


「む、動けるかな」

「うっ……」

「ネーレさん!」


 ティリアの魔法が切れたため、分身が動き始める。


水の切り裂き術(アクア・スラッシャー)!」

「ぐわあああああああ!」


 分身の手に水できた刃が現れ、それでネーレが切り裂かれた。

 あまりの痛みに、ネーレは大きく声をあげる。


回復呪文(ヒール)!」


 ネーレの体から、血しぶきが舞う前に、ティリアは回復魔法を放っていた。

 その回復魔法により、ネーレの体から傷が消えていく。


「ああああああああああ!」

「何!?」


 それに合わせて、ネーレは身を翻し、分身の後ろ側に回った。


「だが、お前に有効打があるの……か」

「気づいたか……」


 分身は、そこで気づく。自身の首に何かが巻かれていることに。

 それは、細く固いものである。


「鉄線か!」

「特別製だぜ、喰らいな!」

「ぬうっ!」


 分身の首に、鉄線が食い込んでいく。

 闘気の差があっても、その締め付ける力は強力である。


「悪くはない手だ……だが!」

「くわっ!」

「まだまだだな」


 しかし、その攻撃は長く続かなかった。

 分身がその体を大きく回し、ネーレを空へと振り上げたのだ。

 ネーレは、為す術もなく空中を舞う。下では、分身が攻撃を構えているが、ネーレは空中で動くことなどできないのである。


麻痺呪文(パラライズ)!」

「もう喰らわんさ……」


 ティリアが魔法を放ったが、それも躱されてしまう。

 分身は、落ちてくるネーレを確実に仕留めるつもりである。


「ネーレ!」

「ネーレさん!」

「行かせんさ」

「お前達の相手は、拙者達だ」


 アンナとカルーナも、ネーレを助けようとするが、目の前にいる分身がそれを邪魔し、思うように手助けできないでいた。

 ネーレにとって、絶体絶命の状況である。


「ふん!」

「むっ……!」


 だが、そこでネーレを狙う分身の体は大きく後退した。

 突然現れた何者かによって、その体を蹴飛ばされたのだ。


「ネーレ!」

「あっ……!」

 

 現れた者は、空中から落ちてきたネーレの体を受け止める。


「お前は……」


 吹き飛ばされた分身は、その者を見て目を丸くした。

 その者は、フロウにとってはかつての仲間であり、今は勇者一行についている。


「竜魔将……ガルス!」

「ぎりぎり間に合ってよかった……下がっていろ」

「あ、ああ……」


 ガルスは、ネーレを下しつつ、後ろに下がらせた。

 そして、目の前にいる分身に目を向ける。


「ここからは、俺が相手しよう」

「なんという不運……勇者姉妹に、竜魔将とは……」


 フロウは、ガルスの登場に、かなり驚いているようだ。フロウの作戦は破れたともいえるので、それも当然だろう。

 ガルスの登場によって、戦況は有利となる。少なくとも、アンナ達はそう思っていた。


「なるほど……」


 そこで、フロウはゆっくりと口を開く。

 どうやら、驚きは去ったようだ。


「流石に、この三人を相手するのは厳しいか……ならば!」


 フロウの一声で、アンナ、カルーナ、ガルスと対峙していた分身が形を変える。

 分身は、それぞれ水の柱に変わり、その場に留まっていた。

 アンナ達は、何か攻撃がくると思い、身構える。


「次の相手は、拙者ではない……お前達は、お前達自身と戦うのだ……水の鏡(アクア・ミラー)!」

「何!?」

「これって……」

「馬鹿な……」


 フロウの一声で、水の柱が姿を変えた。

 それは、先程まで水の柱に映っていたもの。

 つまりは、自分自身、


「私……? 聖剣まで……」

「その通り……私は、あなた自身」


アンナは、アンナと、


「どういうことなの……?」

「驚いているみたいだね」


カルーナはカルーナと、


「こんなことができるとはな……」

「流石にこれは予測できなかったか……」


ガルスはガルスと、対峙することになったのだ。


「これが、水の鏡(アクア・ミラー)の力……自身と戦うということは、どういうことかわかるか? 決して負けないが、決して勝てない。つまり、お前達が辿る道は、引き分け以外ないのだ」


 フロウは、笑う。

 アンナ達の自身との戦いが、始まろうとしていた。

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