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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第五章 水面に映るもの

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第80話 水魔将フロウ

 アンナとティリア、ネーレの三人は、オルフィーニ王国の中心都市ブームルド内を駆け抜けていた。

 その目的は、都市を浸水させている即席(インスタント・)水没器(ウォーター)を破壊することだ。

 道中、三人もエスラティオ王国の兵士達と遭遇し、事情を聞かされた。

 周囲の水魔団は、その兵士達が引き受けてくれる。そのため、三人が目指すべき場所は、ただ一つである。


「お姉ちゃん!」

「カルーナ!?」


 そこで、道の横からカルーナがやって来た。


「どうして、ここに!? 戦いは終わったの!?」

「エスラティオ王国の援軍が来てくれて……」

「援軍のことは知っているけど……」

「そこに、プラチナスがいて、敵を引き付けてくれたの」

「プラチナスが!?」


 カルーナの言葉に、アンナは目を丸くする。

 しかし、すぐに思いつく。ツヴァイが、こちら側についているため、プラチナスも味方になったのではないかと。


「そうか……プラチナスはツヴァイのために……」

「うん、そうみたい……」

「プラチナスさんが……」

「……それじゃあ、カルーナも行こう!」


 アンナの一声で、四人は走るのを再開する。

 しばらく足を進めると、目的の物が見えてきた。


「あれが即席(インスタント・)水没器(ウォーター)……」

「うん、私もさっき見たけど、恐らく周りに水魔団がいるはず……」


 即席(インスタント・)水没器(ウォーター)の周りには、見たところ誰もいない。

 しかし、カルーナの言う通り、誰もいないはずはないだろう。

 アンナは周囲を警戒しながら、即席(インスタント・)水没器(ウォーター)に近づいていく。


「……アンナ! 危ない! 下だ!」

「下!?」


 そこで、ネーレが叫んだ。

 それを聞いて、アンナは地面に意識を集中させた。

 地面には、即席(インスタント・)水没器(ウォーター)の影響で、水が張ってある。


「はっ!」


 それをよく見ると、僅かに歪な揺らめき方をしていた。

 アンナはそれを認識し、大きく後退する。何か、嫌な予感がしたのだ。


「くっ……!」


 下がった直後、アンナがいた場所に水の柱が噴き出した。

 何かはわからないが、罠だったようだ。


「なるほど……ばれてしまったか」

「はっ……!」


 その瞬間、声が響く。

 それは、水の柱から聞こえてくる。


「……姿を隠して、少しでもダメージを与えようと思ったが、厄介な者がいるようだな……」


 水の中から、魚のような顔をした男が現れた。

 その男の持つ雰囲気から、アンナは正体がわかる。


「水魔将か……」

「いかにも、我が名はフロウ……水魔団の団長である」


 この男こそ、水魔団を束ねし男なのだ。


「……拙者の攻撃を予測したのは、貴様のようだな」


 フロウは、ネーレに目を向け、ゆっくりと話し始める。

 アンナを助けてくれたのは、ネーレの一声だ。何故わかったのか、気になっていたのだろう。


「……水の流れが不自然になったのが、すぐにわかったからな」

「ほう? 人間にしては大した観察力だ」


 フロウは、ネーレにそう言い放った。

 その雰囲気は、人間を見下す意図もなく、素直に称賛しているように見える。


「……それにしても、四対一か。多勢に無勢であるな……」


 そこで、フロウはアンナ達の人数に注目した。

 カルーナが加わったことで、アンナ側は四人。一方、フロウ側は一人。数では、アンナ達が圧倒的に有利である。


「やけに弱気だな……」


 だが、その雰囲気をアンナはおかしく思った。

 魔将ともあろう者が、数だけでそんなことを言うと思えないのだ。

 アンナの言葉に、フロウは笑みを浮かべながら、言葉を放ってくる。


「当然のことだ。拙者は、魔将の中でも強い方ではない」

「何……?」

「勇者一人でも恐ろしいというのに、援軍付きとは、分が悪すぎる」


 フロウは、弱気なことを言い始めた。

 だが、その表情にそこまで焦りは見えない。

 アンナは、何か意図があると感じた。


「故に、数を増やさせてもらおうか……水の分身(アクア・シャドウ)


 そこで、フロウが腕を組む。

 すると、地面から四本の水柱が立ち、そこからフロウそっくりのメロウが現れた。


「これで、数でこちらは五人、そちらは四人、数はこちらだな」

「これこそが分身術……」

「我ら四人もまたフロウ……」

「それぞれが水魔将ということだ……」


 現れたフロウたちは、口々に言葉を放つ。

 これは、フロウが作った分身のようだ。


「全てが水魔将……そんなことが……」


 その分身に、アンナは目を丸くする。

 それぞれが水魔将と同等の力を持っているなど、考えたくもなかった。

 アンナ側は、ティリアは直接戦うことができず、ネーレの実力もそこまでではないだろう。

 よって、戦えるのは、アンナとカルーナくらいだ。それだけで、魔将を五人倒さなければならない。


「お姉ちゃん……よく見て」


 アンナが、そんなことを考えていると、横からカルーナが話しかけてきた。


「よく見るって?」

「フロウ本体が、全然動いていないの……」

「え?」


 カルーナの言葉で、アンナもフロウ本体に注目する。

 確かに、分身がそれぞれ構えている中、本体だけは腕を組んだまま、動いていない。


「まさか……」

「うん……あそこまで動かないということは、動けないってことじゃないかな?」

「あの状態じゃなければ、分身を保てないってこと?」

「それもあるし、そもそも、あれだけの分身を生み出して、疲れない訳もないから、それで動けないのかもしれない。でも、どちらにせよ……」

「狙うのは本体ってことか……」


 カルーナの言葉で、アンナは状況を理解した。

 分身がどのような強さでも、本体を倒せばいいだけだ。

 もし、本体が、消耗しているなら、むしろ今はチャンスともいえる。


「アンナ、カルーナ、一人くらいなら、俺でも引き付けられる」

「私も、一瞬なら動きを止められます……」

「ティリア、ネーレ……」

「それなら、私が二体を怯ませる。お姉ちゃんは、本体をお願い……」

「わかった……行こう!」」


 アンナ達は、作戦会議を済ませ、それぞれ構えた。

 そして、アンナは一気に駆け出す。


「くるか!」

麻痺呪文(パラライズ)!」


 アンナに襲い掛かってきた分身の一人に、ティリアが魔法でかけた。

 すると、分身の動きが、一瞬だけ止まる。


「ほう! やるな!」

「お前は、俺だ!」

「くっ……」


 さらに襲い掛かる分身に、ネーレが短剣で攻撃した。

 分身は、それに対応せざるを得ず、動きが止まる。


紅蓮の火球(ファイアー・ボール)双火(・ツイン)!」

「む……?」

「これは!?」


 その他二人の分身に、カルーナから火球が放たれた。

 二体は、それぞれ対応しなければならず、その動きが止まる。


「今だ!」

「くっ……!」


 その隙に、アンナが本体に斬りかかった。

 予想通り、フロウは動けないようだ。


「解! 水の分身(アクア・シャドウ)!」

「何!?」


 その瞬間、ティリアが止めていた分身が消え、アンナの前に新たなる分身が現れていた。

 アンナは、攻撃を止めることができず、それは分身によって受け止められる。


「……拙者の力を見抜くとは、流石は勇者一行」

「いつでも移動できたという訳か……」

「そういうことだ……危なかったがな」


 アンナ達の作戦は、失敗してしまった。

 アンナは、一度体勢を立て直すため、大きく後退する。

 ネーレも、後ろに下がり、分身から離れていく。


「お姉ちゃん! ネーレさん!」

「大丈夫ですか!?」


 後ろにいたカルーナとティリアが、二人にそんな声をかける。

 一瞬のできごとであったため、二人と特に怪我はしていなかった。

 さらに、フロウがこちらを追いかけてくることもなかったため、問題はなさそうだ。


「……これは、戦い方を変えねばならんか」

「ああ、そうだな」

「ならば、あれを使うとするか」

「ああ、拙者達の力を、見せるとしよう」


 そこで、フロウの分身達が笑い始める。

 アンナ達と水魔将の戦いは、始まったばかりなのだ。

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