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赤髪の女勇者アンナ ~実は勇者だったので、義妹とともに旅に出ます~  作者: 木山楽斗
第五章 水面に映るもの

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第74話 海を渡って

 アンナ達は、とある村で一夜を明かし、その村の港に来ていた。

 そこから船で、オルフィーニ共和国へと向かうためである。


「それで、俺も乗っていいのか?」

「うん、構わないよ」


 ネーレは、家出から帰るため、アストリオン王国に向かっていた。

 アストリオン王国に向かうためには、オルフィーニ共和国を通らなければならない。よって、ネーレの行き先はアンナ達と同じだった。

 それなら、一緒に船に乗って行こうということになったのである。


「ありがとよ……ところで、お前らは何をしてるんだ?」

「え……?」

「いや、その手……」


 そこで、ネーレがアンナの手元を指さす。

 現在、アンナはカルーナと手を繋いでいた。それは、アンナから握ったものだ。

 最近、距離をとってくるカルーナに対して、アンナはそうやって距離を詰めているのである。


「これは、そうだなあ、はぐれないようにってことで」

「子供かよ……」


 アンナの言い訳に、ネーレは呆れたような顔をした。

 だが、それ以上追求してこなかったため、それでいいのだ。


「じゃあ、カルーナ、行こうか……」

「う、うん……」


 そして、その当事者であるカルーナはとても困惑していた。

 アンナから、急に手を握られてそれからずっと離さないため、内心激しく動揺しているのである。


「お、お姉ちゃん……」

「何?」


 カルーナとしては、アンナから求められることは嫌でなく、むしろ嬉しいことだ。

 しかし、これは普通に恥ずかしかった。以前のカルーナでも、ここまでは滅多にやらなかっただろう。


「あ! いや……なんでもないよ」

「そう? 変なカルーナ」


 カルーナは、それを言い出そうとしたが止めることにした。

 これから船に乗るため、この状態は限られた人にしか見られないのである。他人に見られなければ、カルーナも恥ずかしくない。つまり、この状態を止める必要はないのだった。


「さあ、私達も船に乗ろうか?」

「うん、お姉ちゃん!」


 ということで、カルーナはいい気分のまま乗船できそうなのだ。


「……というか、私、船に乗るの、初めてだ。カルーナは、乗ったことあったかな?」

「……そういえば、私も船は初めてだね」


 そこで、アンナの言葉で、二人は気づいた。自分達が、船に乗るのが初めてだということに。


「……お二人もそうでしたか」

「え?」

「あ……」


 二人の後ろから、そんな言葉が聞こえてきた。

 後ろを振り返ると、そこにはティリアがいる。


「ティリアも、初めてなんだね」

「はい、ちょっと緊張しますね」

「ティリア、辛くなったら、俺にすぐに言うといい」

「に、兄さん……」


 ティリアが心配していると、ツヴァイが会話に割り込んできた。

 最近ツヴァイは、こうやってティリアのことをすぐに心配しにくるのである。


「……お前達、さっさと乗ったらどうだ」

「あ、ごめん……」


 いち早く船に乗っていたガルスが、そう声をかけたため、全員すぐに入っていった。

 もうすぐ、船が出発する。





「うっ……」

「お姉ちゃん……うっ」

「カ、カルーナさん……うっ」


 船の上で、アンナ達三人は、そんなやりとりをしていた。

 アンナ、カリーナ、ティリアの船が初めてな三人は、ほぼ船酔い状態である。


「ティリア、二人とも、大丈夫か!?」


 そんな三人を、ツヴァイが心配するという奇妙な状態が、ここにできていた。

 ちなみに、ツヴァイは鎧姿である。


「三人とも、船が苦手なんだな」


 ネーレは、船酔いする三人を不思議そうに見ていた。

 どうやら、船には慣れているようだ。


「ネ、ネーレは、船によく乗っているの……?」

「うん? あ、まあ、そこそこな」


 アンナが聞いてみるが、返ってきたのは、少し歯切れの悪いものだった。

 あまり、理由を話したくないようだ。

 それなら、アンナもそこに触れる気はない。


「羨ましいな……」

「本当にね……」

「本当ですね……」

「おい、おい、三人とも……」


 アンナ達が続けてそう言ったので、ネーレは呆れたような声をあげた。


「まあ、慣れだよ、きっと……しばらくすれば、三人も良くなるさ」

「……だといいけど」


 アンナ達の船酔いは、しばらく続く。





「大分、慣れてきた……」

「え? お姉ちゃん?」


 船酔いが一番に治ったのは、アンナであった。

 今までの戦闘経験から、船の揺れに順応したのだ。


「流石、アンナさんですね……」

「二人も、頑張って……」

「うん……」

「はい……」


 アンナは、一度二人から離れる。

 先程から、様子がおかしい者がおり、話しかけるためだ。


「ガルス?」

「アンナか……」


 その人物とは、ガルスであった。

 ガルスは、船の行き先、オルフィーニ共和国の方を怖い顔で見ていたのだ。


「船酔いはいいのか?」

「うん、それより、向こうに何かあるの?」

「ああ……」


 どうやら、オルフィーニ共和国の方に何かあるらしい。


「大きな気配を感じる。何かしらの脅威があるように思えるのだ」

「気配? 脅威? それって一体……」

「長年の勘ともいえるか。オルフィーニ共和国に何かが起こっているように思えてならん」


 ガルスは、鋭い目つきで、そう言い放った。

 アンナ達の仲間で、戦場の経験がガルスは一番上だ。

 そのため、その勘も頼りになるものだと、アンナは思っている。

 故に、ガルスの言う通り、オルフィーニ共和国に何かが起こっていると考えるのが、妥当だろう。


「……もしかして、魔王軍の侵攻が?」

「ああ、その可能性が一番高いだろう……」

「くっ……」


 アンナは拳を握りしめる。

 どれだけ焦っても、オルフィーニ共和国への距離は変わらない。


「……すまんな、不安にさせるようなことを言って」

「いや、言ってくれて助かったよ。これで、心構えができた」


 船の上で、アンナは決意を新たにする。次の戦いに備えて。





 オルフィーニ共和国のとある場所に、数人の魔族がいた。


「フロウ様……」


 一人は、水魔将フロウ、水魔団の団長である。

 彼の種族は、メロウ。メロウの男は、魚類のような頭をしており、その手足などにひれがついている。


「トーレノ……何用だ?」


 一人は、トーレノ。

 彼女の種族も、またメロウ、ただし、女のメロウは、上半身が人間、下半身が魚である。

 しかし、トーレノは現在、ある方法で、人間と同じ姿になっていた。


「勇者が、こちらに来るようです……」

「勇者か……シャード!」

「はっ!」


 一人は、シャード。

 彼は、サメの獣人だ。顔はサメのようであり、体にはひれがある。


「スライミーを呼んでくれ、作戦会議がしたい……」

「はっ! 今すぐに……」


 スライミーとは、液体状の生物であるスライムだ。魔族としては、スライムマンと呼ばれている。


「勇者か……だが、一足遅かったようだな」

「ええ、そのようですね……」


 彼らがいる場所は、ブームルド。

 オルフィーニ共和国の中心都市である。


「さて、迎え撃つ準備を進めなければならん……」

「はい」


 水魔団と勇者一行、二つの集団の戦いが、始まろうとしていた。

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